第百十話 逝けメンよ、常識を知れ(2017.12.22修正)
俺がロイズさんに呆れを感じつつ温くなったお茶を飲みウィルさん達に同情の祈りを捧げていると。
「ねぇ、セボリー」
「はい。なんでしょうか?」
「多分ウィルは明日帰ってくると思うんだけど、君これから明日の朝までどうするつもり?」
「…………へ?」
「いや、へ?じゃなくて。どうするつもりなの?僕はちょっと買出しにでも行ってこようかなって思ってたんだけど」
え?何言ってるのこの人?
そもそも俺をここに連れてきてウィルさんの巻き添えにしたのあんたじゃん。
それをノープランで俺に放置プレイする気ってどういうことなの?
え?さっきから色々聞いてて思ってたけど、マジでこの人頭おかしいの?ちょっと誰か説明して?ねぇお願い。
「と言うのは半分冗談だけど」
「半分は本気なのかよ!!」
「一応セボリーの自由を尊重して意見は聞いておかないとと思ってね」
「言うのなら反対だから!意見を尊重して、だから!!」
「まぁそれは置いておいて」
「置いておかないで!!!」
駄目だ!話がかみ合わない!いや!かみ合わせてくれない!!
ルピシーの場合は天然だからまだしも、この人の場合分ってて本気なのか冗談で本気なのか良く分らないから性質が悪い!!
どちらにしても本気には変わりない空気がプンプンする!!!
「はい!質問!この場所に俺を連れてきたのは誰でしょーか!!?」
「僕だねぇ」
「はい!正解!では俺を今の状態にさせたのは誰でしょーか!!?」
「セボリーだねぇ」
「ちげーだろぉぉおお!!あんただあんたぁあ!!」
「え?僕はセボリーについてくる?って聞いただけだよ?それで自分の意思で結局付いてくるって選択したのセボリーでしょ?」
「あの状況で付いてこなかったらどうなってたか分ってた癖に何いうとんねん!!それにその、え?なんで?って顔やめい!!」
無駄に演技力が高くてむかつくわ!何なのこの人!?
俺が知ってる中で一番の曲者はおっさんだったけど今ランキングに変動が生じたわ!!
ナンバーワンは圧倒的にあなただよ!!!
「連れて来たのなら最後まで責任もてやぁぁああ!!」
「ナイスツッコミ♪b(^∀^)d」
「グゥウッド♪じゃねーよぉぉおおお!!!」
「じゃあ、そう言う事で」
「どういう事だよぉぉおおお!!!」
両手でグッドマーク作ってる場合かぁぁああ!!
学園都市ならいざ知らず、俺は初めて首都に来たんだぞ!?完全におのぼりさんなんだぞ!?しかもまだ街の景観すらも見てないのに何で放置しようとするの!?ねぇ!!?
「え?じゃあ一緒に買出し付いてくるの?」
「付いていくわぁぁあああ!!その嫌そうな顔もやめい!!つーか選択肢が無い状況じゃねーか!!」
「え?選択肢ならあるじゃないか」
「どこだよ!選択肢!!」
「一つ目、この部屋で朝まで過ごす。二つ目、さっきの議会場に戻る。三つ目、一人でこの外に出て水晶宮の警備兵に捕まる。四つ目、オルブライト司教に来てもらう」
何勝利の秘訣を説く、みたいな感じで指で数数えながら言うてんねん!!
しかも無駄にキリッとさせた顔がより一層むかつくわ!!
「一しか選択できねぇじゃねーか!!何なんだよ!特に三は!」
「え?捕まるだけだよ?多分取り調べられて事実が確認出来て無実だって分ったら学園都市に送ってくれると思うけど」
「あんたが送れし!!しかも結局捕まるんじゃねーか!!それに四はなんであのおっさんが出て来るんだよ!!」
「セボリーの導き手だから?」
「答えに疑問符付けんじゃねーよ!!」
「Huuuu」
「フーーー↑、じゃねーよ!!何興奮してんだよ!!」
僕もう疲れたよ………誰か助けて………
「あー、笑った笑った。ありがとね。楽しかったよ」
「何勝手に話し終わらせようとしてるの!!?ねぇ!お願いだから話聞いて!!?」
ウィルさん…あんた良くこんな人と友達付き合いしてたな…
しかも頻繁に会ってるって……
前にウィルさんが弄られるタイプっていってたけど、この人に掛かれば誰だって弄られキャラになれそうな気がするよ…
「ごめんごめん。じゃあ一緒に買い出しに行こうか。この部屋にいる気ないんでしょ?」
「当たり前じゃぁああああ!!」
「じゃあ行こうか」
そう言って手から魔法陣を生み出して宙に放った。
しかし、移転の魔法って超が付くほどの高等魔法だったよな?
でもこの人ぽんぽんだしてるんですけど。
そういえばウィルさんに魔法構築式教えてたのこの人って言ってたな。
……ん?あれ?という事は俺ってもしかしなくてもロイズさんの孫弟子かひ孫弟子?
だって俺ウィルさんにも教わってたけど、ウィルさんが魔法構築式を教えたシエルにいつも教えて貰ってたよ?
「ロイズさんがこんなに簡単に魔法陣出せるのって、やっぱり魔導陣や日本語が関係してるんですか?」
「ん~~。してるのかな?」
「え?分らないの?」
「良く分らないんだよね。僕は極力魔導陣を使わないようにしてるし」
「何でですか?」
自分が転生者で日本語や魔導陣の存在を隠すためかな?
「強すぎるから」
え?俺は結構仲間内や迷宮の中じゃ使ってるよ?
何かの縛りとか?
「セボリー。僕が今日使ってた魔法は見たよね?どう感じた?」
「今の俺には到底真似できない魔法ばかりだと感じました」
今日何回か目にしたロイズさんの魔法はとても綺麗と感じた。
何がきれいかと言うと、効率的な陣の構成や魔力コントロールだ。
あれは一朝一夕では絶対に成しえないような綺麗さだった。
「うん、率直な感想ありがとう。じゃあセボリーは魔導陣で僕が使った魔法再現できると思う?」
「……………一部は出来ると思いますが全ては出来ないと思います、特に移転系の魔法は移転そのものは出来たとしても何処に向かうのかや何時着くなどの指定が不可欠です」
「そうだね。魔法構築式ってかなり面倒くさいよね?それを日本語に当て嵌め効率化させて魔力の軽減をするのは結構簡単だけど。それにはまずその魔法構築式の中身を理解しなくちゃいけない。逆に言うなら理解していればそれなりの威力が出てしまうんだね」
「…………つまり普通のこの世界の魔法だけで十分通用するほど魔法を使いこなせてるってことですか?」
「結論から言えばそうだね。別に強くなろうって思ったこと無いんだけどさ、魔法構築式やこの世界の理をウィルや精霊達から聞いてたら魔法の威力や錬度が高くなっちゃったんだよね。まぁ、僕の魔力が多いせいもあるかもしれないんだけどねぇ。前にその状態で魔導陣使ったら恐ろしいことになったからそれ以来控えてるんだ」
「恐ろしい事?」
「軽く空気を弄くって周りの重力を重くしようとしたんだよね。ちゃんと半径3メートルって範囲も決めてたんだけど………」
おい、そこで止めるな!気になるでしょうが!!
「半径約3キロがクレーターみたいになっちゃって、そこに雨水が流れ込んでちょっとした湖になっちゃてさ。フレイおじさんと宰相閣下に偉く怒られたんだよねぇ」
………おい…自然破壊すんな。しかも何テヘ☆って顔してやがる。
まぁ俺も最初に試しの迷宮の中で魔導陣使った時、通路壊しまくっちゃってどうしようって思ったけど…
でもロイズさんのクレーター事件はそれとはレベルが違うくらい大きな気がする。
確かに魔導陣は魔力の加減やイメージが重要で術のコントロールにも大きく影響してくるけど、それは最早暴走といっても良い位のレベルだと思うぞ。
「いやぁ参ったよねぇ。でもね、最初は自然破壊かと思って精霊達に怒られるかなぁって冷や冷やしてたんだけど、後から聖下に聞いてみたら周りの精霊が丁度良い水遊び場にしてて喜んでいたって言ってたから安心したんだ。怪我の功名ってやつ?あれ?災い転じて福となすかな?あ、失敗は成功の母かも」
うん。色々お腹がいっぱい。何がって色々だよ。
本当に疲れた。おうちに帰りたいけど微妙にウィルさんが気になって帰れない……
まぁ、だからロイズさんの思惑に嵌ってるんだと思うんだけどな…
「さてと…こんな話ばっかりじゃ飽きて仕方ない。良し、じゃあ行こう」
「え!?ちょっと待って!あんたどんだけ自由人なの!?おれは心の準備がま…」
「移転」
焦る俺を無視してロイズさんは術を発動させ町へと繰り出すのであった。