第百八話 使い魔と精霊(2017.12.22修正)
俺の怒りの叫びを聞きながら笑うロイズさんは、心底面白そうに笑いながらお茶を入れなおしている。
俺としては本当に面白くないのだが、ロイズさんのツボに嵌ったのか爆笑し続けていた。
「あのぉ…そんなに笑わないで欲しいんですけど」
「ああ。ごめんごめん。でも本当に面白くてね。でもいいじゃない?公星君可愛いじゃないか」
「モッキュ!」
「確かに可愛いは可愛いんですけどね」
「モキュキュ!」
「ウォン!」
界座がロイズさんに近づいて頭をこすり付ける。
「うん。界座も可愛いよ。ほら2匹とも拗ねない拗ねない」
「クゥゥン」
ロイズさんが界座を撫でるとまるで子犬のような鳴き声で鳴き甘えた。
「でも界座ってでかいですね」
そう言えば界座は大きさもそうだが、なんと言うか雰囲気が他の動物とは一線を画しているように思えた。
まるで精霊…それもヴァールカッサのような精霊道具に近い雰囲気に思える。
「拾った時は今の公星君とそんなに変わらないくらいの大きさだったんだけどねぇ」
「え!?ロイズさんも拾って使い魔にした口ですか?」
「そうだね。僕の場合は学園都市から少し離れた森で、森の恵みを貰うって名目の薬草探しの小遣い稼ぎしてた時に拾ったんだ。どうやら母親が育児放棄したかこの子達を残して死んでしまったらしくてね。痩せ細って弱ってたんだけど、この子の他に兄弟は生き残っていなかった」
「俺の場合は犬に襲われていたピケット親子を助けたんですけど、母親はもう駄目な状態で生き残ったのがこいつでした。それで学園都市に入る前に魂の使い魔契約をしたんです」
公星を手の上に載せて撫でてやると公星も甘えてきた。
ああ~、やっぱり可愛いなぁ。ただ口の周りの食い散らかしたものは拭いておけ。
「僕は初等部の3年の時に拾って直ぐに魂の使い魔契約をしたよ。そうしないとこの子はきっと死んでいた」
その言葉にロイズさんにより一層甘える界座。
ロイズさんも両手を使って界座の頭をマッサージしている。
「どうして契約しないと死んでいたんですか?」
「この子もう物を食べる力も残ってなかったんだよ。だから僕と魂の使い魔契約を結んで直接的に魔力を分けてあげて難を逃れさせたんだ」
「ん?魔力を分け与える?」
「あれ?知らなかったの?魂の使い魔契約をした使い魔は、契約主の魔力を分け与える事で何も食べなくても生きていけるんだ。勿論魔力だけじゃかわいそうだから食事も食べさすけどね」
「………………」
その言葉に手の中の公星を見ると……
「モキュー♪モッキュキュ~♪」
公星はそっぽを向いて鼻歌を歌っていた。
「おっまえぇええ!!知ってたなぁ!!?知っていたんだな!!?今までの食費返しやがれこのやろぉぉぉおおおお!!」
「本当に知らなかったんだ。ついでに言うと使い魔からも契約主に魔力の授与は出来るよ。ただし魔力のある使い魔だけだけど」
「チックショーーーー!!!」
「魂で繋がっているからね、魔力の伝達もスムーズにいくんだよ。それに慣れれば魔力を使って使い魔を通して遠いところも見聞きできるし、使い魔を利用して会話も出来る。他にも色々出来るはずなんだけどね」
「おい!ロイズさんはこう言ってるぞ!!どうなんだ!!?」
「モ…モギュギュ~…」
両頬を引っ張りながら公星に質問するが、公星はクリッとした瞳を潤ませて首を横に振るだけであった。
こいつ!なんなんだこの子悪魔は!!可愛い顔しやがってコノヤロォ!!
「公星君の反応を見るとどうやら一部の使い方は知っていたようだけど知らなかった事もあるみたいだね」
「そういえば……俺とこいつが別行動をしてた時に、俺達が飯を食べに行くって話が出るといつも外からグッドタイミングで帰ってきてたような…」
「ああ、それ完全に君の会話聞いてたんだね。実はこれ結構難しいんだけど、その様子だと結構使い慣れてる?」
「謎は全て解けた…おい!公星!これからは知ってることは伝えろよ!?」
「モッギュー」
頬を引っ張るのをやめて公星を解放すると俺の手の上で土下座スタイルで謝って来た。
反省してるんだったらそれで良し。次からは気をつけなさい。
全く…俺も甘ちゃんだわ…これがルピシー辺りだったら完全に魔法ぶっ放してるんだがな。
その他に使い魔についての話は無いかと質問しようとした時、ロイズさんが上を見上げた。
「…………ああ。ウィルが聖下とお会いになったそうだよ」
「何で分るんですか?」
「精霊達が教えてくれた」
そう言われ集中してみるが精霊の会話は聞こえず、笑い声と意味の無い囁きだけが聞こえてくる。
「俺には笑い声にしか聞こえませんが…」
「セボリー。精霊姿どんな感じで見える?」
「え?光ってたり色んな形をしたものが集まっていたりとかですね」
「成る程。と言うことは低位精霊しか見えてないってことだね」
「低位精霊?」
精霊に上とか下とかあるの?初めて聞くんですけど。
……ああ。でもエルドラドに居たときに聞いたかもしれない。確か公爵様たちが話していた。
太古の時代人間と精霊が共存しており、まるで友人のように生活をしていたと…
それで高位の精霊は実体化することが出来て、人と交わって精霊人が生まれたんだと。
「じゃあ声は?会話が聞こえたりするかい?」
「はい、たまに。体や心の調子が良かったりした時に集中すると聞こえる時があります」
「成る程ね。界座」
ロイズさんが界座の名前を呼ぶと界座の姿が消えた。
困惑している俺にロイズさんが「じゃあ集中して精霊を見ようとしてみて」と言って来る。
俺はその言葉に頷いて神経を集中させて精霊を見ようとした。
「…………あっ!」
「見えた?」
ロイズさんの後ろにぼんやりとだが界座が見える。
座りながら俺を見ていた。
「界座はね、動物から精霊になった子なんだよ」
「!!!」
だからヴァールカッサのような雰囲気がしたのか…
「迷宮に潜っている時だったかな?突然この子が精霊に進化したんだ。この子の毛皮はね、拾ったとき灰色だったんだよ。でも精霊に進化した時に黒に染まった。そして魂で繋がっている僕自身の色も変わっていった」
「…髪の毛の色が…ですか?」
「僕の場合は目の色も変わった。僕は最初青灰の髪をしていたんだ。瞳は今のセボリーの髪の色に近い鳶色。それが1ヶ月くらいかな?その位の時間を掛けてどんどんと今の色に染まってきた。調べてみるとこれは精霊染めと言って魂の使い魔契約をしている人が使い魔の精霊化によって色が染まる現象らしい」
「驚かれませんでしたか?」
「驚かれたね。特に兄弟やウィル達からは心配もされた。でも僕はこの色気に入ってるんだよね。だって前世の僕の色と同じだし、界座とお揃いの色だからね」
ロイズさんのその言葉で界座がまた実体化してロイズさんに甘えた。
「精霊は高位に成る程知能が高く、実体化することが出来る。姿形はある程度変えられるからその定義は無く、その身に宿す力によって位が決まる。また動物から精霊になる者は魔力を持って生まれて、ある要因と長い時間をかけて力を溜め込み精霊化するか、魂の使い魔契約を結び契約主から魔力と愛を与えられ上限を達した者が精霊化する。道具から精霊になる者はその使い主の魔力と思い、そして長い月日が重なり精霊化する」
それは俺がどんなに調べても分ることの無かった事だった。
色んな本を読んだり、詳しそうな人に聞いても何も手がかりが無く半ば諦めていたことであった。
使い魔の件も調べようにも殆ど資料が無く、俺の周りには使い魔を持っている人が居なかった。
迷宮冒険者の中には使い魔持ちはいるが、俺は普通の迷宮は年齢と国籍縛りで入ることが出来なかったため質問する人が居なかったのだ。
「セボリーと公星君は一定事項はクリアしているから、もしかしたら時間は掛かるかもしれないけど公星君は精霊化するかもしれないね。そうしたら精霊との親和性も高まって今よりも色んな事が見聞きできると思うよ。僕も昔はこんなに精霊を感じる力が強くなかったからね」
「弊害とかは無いんですか?」
「最初は頭が痛くなったりしたけど精霊達も弁えてるからね。余程大事じゃないと干渉してこないから大丈夫だよ。……ああ、そういえばセボリーって聖下から香玉2つ貰わなかった?」
「…ええ、はい。貰いました」
「ひとつはセボリーが食べてもうひとつはどうしたんだい?」
「公星が食べちゃいました」
俺がそう言うとロイズさんは少し呆れ顔をした後、笑いながらこう言った。
「さっき動物が精霊化するための話で出てきたある要因ってね。香玉を食べたってことなんだ。香玉は精霊の力の塊のようなものだからね。聖下は公星君が食べるの分ってて送りつけたのかもね?僕の時もそうだったから」
どうやらロイズさんを呆れさせた人は聖下のようであった。