第百三話 二度あることは三度ある(2017.12.19修正)
俺がウィルさんに走り寄ろうと思った瞬間ロイズさんが気絶したウィルさんへと静かに歩み寄り、少し呆れが混じる顔でウィルさんの口布を外す。
いつ術が解けたのか全く気が付かなかったが拘束も取れていた。
「これで第二段階終了ですね。連れてきた当人の僕が言うのもなんですけど、流石に今回の件は急ぎすぎでは?」
「これ以上待たすとかわいそうな者もいるのでな。それにこれも24家の出だ。言うか言わないかそれなりに覚悟はあったであろう」
「先日ウルフィラーナ様とウォルトレイン様に今回の件を相談された時には面白そうだからと思わず頷いてしまいましたが……成る程。確かにこの馬鹿ずっと踏ん切りつかなかったようなので丁度良いかもしれませんね」
え?何の話?
って言うかそのウルフィラーナさんとウォルトレインさんって何処かで聞いたような覚えがあるぞ。
………ああ、ウィルさんのお姉さんとお兄さんか。
やっぱり俺出汁に使われたっぽいよママン。
お願いだから俺を巻き込むな!
「ふん、あいつらは最初からこれに押し付ける気満々だったしな。しかしこいつ気絶するとは情けない」
『良く言うわ。お前も気絶したではないか。顔も性格もそうだがそんな所までそっくりだ』
「………むぅ」
ロイズさんとアライアス公爵の会話に真実の宝玉が割って入った。
この儀式でアライアス公爵も気絶してたんかい!
おい!他の24家の人とか宰相さんや帝佐さん達笑ってるぞ!?
そう言えば昔公爵も色々酷かったって話聞いたことあるからやっぱり血って争えないってことだな。
つーか第二段階終了って第一段階はもう終わってるのか。
ああ、この苗木剪定の儀だっけ?に参加させる人を選ぶのが第一段階だった訳?
でもさっき選ばれてたのウィルさんだけだったって言ってたし……
これってある意味前世の圧迫面接と変わりないような気がする。
それも面接受ける本人が更々入る気が無い会社の面接で喧嘩売りまくったのに、何故か一次選考と二次選考をパスしちゃいました。
面接する側も君面白いから次も頑張ってねヨロピク的な。
『アライアスの歴代当主は殆ど気絶しておる。そんな所まで継承せんでも良かろうに……初代のグレインも天然なところがあって色々鈍かったがな』
「…………」
うわぁ、アライアス公爵が苦虫噛み潰したような顔してるぅ。
自分の恥ずかしい記憶知られてるって時点で弱み握られてるのに、自分の息子どころかご先祖様までそうだったって言われたらぐうの音も出ないだろう。
俺も気をつけないとな。
あ、俺は大丈夫か。だってそんな恥ずかしい生き方してないもん。
うんうん。
『こちらもこちらで随分面白い奴がおるものだ。ほぉ!成る程!お前もあやつと同じか。こんな短い間に出てくるとはな。本来は数千年に一人なんだが』
「うぉ!」
目を瞑って腕を組みながら頷き一人で納得していると真実の宝玉がいつの間にか俺の目の前へと来ていた。
『何にせよようこそ、環の理を越えし苗よ』
「はぁ…?…どうも」
びっくりしたわぁ!いきなり話しかけてくるんじゃねーよ!
ん?環の理を越えし苗?環の理?どっかで聞いたことあるような無いような…どこだったか…………ああ!もう!!いいや!10秒間以上考えても出ないんだったらもう一生出ない!それで良い!人間諦めが肝心だ!!
この頃この言葉連発してるような気がする。魔法の言葉かよ、全く。
溜息を吐き出し顔を上げると真実の宝玉だけではなく他の人達も俺を見ていた。
その目は好奇心だったり明らかにからかいの眼差しだったり珍獣を見るような風であったが、そこに敵意や害意といったモノは一切感じられず、帝佐さんと大司教らしき人は同情的な目で俺の事を見ていた。
それに気付き一気に背中に汗が浮き上がってくる。
「はいはい、皆さん。今のこの子の事よりこの気絶している馬鹿のことですから。それに無駄な詮索は聖下に禁止されているのでは?」
いつの間にか俺の横に来ていたロイズさんが前に出て俺を自分の背中で隠してくれた。
え!?何このイケメン!ヤダ!中身もイケメンだ!
「お前が人を庇うとは珍しい、随分と気に入られたらしいなセボリー」
ホーエンハイム公爵が面白いと言う目でロイズさんを見た。
「どうやらセボリーは僕の弟子になったようなので。弟子を守るのは師匠の役目でしょ?」
うぉぉおおおおお!!俺はいま猛烈に感動している!!
俺が師匠と慕っていたウィルさんはそんな事一回も言ってくれなかった!!
やっぱり本物のイケメンは顔だけじゃなく中身もイケメンなんだよね!
あの役立たずとは雲泥の差だ!カッコいいー!!ヒューヒュー!!
よ!イケメン!よ!人格者!よ!ロイズお兄様!!
ロイズお兄様!いや!お師匠様!俺一生あなたについていきます!!
「お前の口からそんな言葉が出てくるとはな…初等部の時からのお前を知っているので違和感しか覚えん」
「ははは。何いってるんですか公爵様」
「お前の導き手に選ばれた時から今までどれだけ苦労した事か…人をおちょくる、知らない顔をして裏で生徒や教員を操り気に入らない学園の生徒を退学へ陥れたりしたお前が…」
え?何それ怖い。
ロイズさんそんな事してたの!?マジで!?
「嫌だなぁ、フレイおじさん。おちょくるのは愛情の証ですよ?退学になった生徒は弱い子に暴力を振るったり裏で他国と繋がっていたり、スパイとして留学しに来ていた子達じゃないですか」
「…そんな愛情はいらん」
「それに……サンティアスの養い子である僕達の兄姉弟妹を馬鹿にする奴等に遠慮する必要などありません。しかもそれが他国人では無く聖帝国籍の生徒がやっていたのですから罰を受けて当然でしょう。まぁ、他国人でやっていた奴等もそれなりの処分をしましたけど。だから学園長やあなたも注意はしてもそれ以上は何も言わなかったではないですか。あいつ等の親も自分の子がサンティアスの養い子を馬鹿にしたと知ったら口を噤みましたしね」
ヒェエーーー!!周りの温度が急に下がった気がするよぉ!!
後ろからチラッと見たロイズさんの顔がやばい!!笑ってるけど全く笑ってない!怖い!マジで怖い!!
この人は絶対に怒らせてはいけない人だ。命に関わる。
「それにセボリーを弄るの楽しそうなので、そんな楽しい事僕が居る前で他の人に譲るのはごめんですね」
ごめん。前言撤回するわ。
この人の中身全然イケメンじゃない。
やっぱり鬼畜です。「鬼畜」じゃなく「鬼畜」のほうだわ。
ウィルさん。あなたのお友達って皆こんなにヤバイ人なんですか?
お願いだから普通の人紹介して、マジで。
「それはそうと僕やセボリーの話よりも大事なことがあるでしょうが」
「それもそうだな。さて、第二段階が終わった。では最終段階の準備を始めようか」
「その前にこの馬鹿を起こさなくては。帝佐殿。そちらの準備はどうなっておりますかな?」
ロイズさんの言葉にエルトウェリオン公爵が話しを打ち切ると、アライアス公爵は帝佐さんに話しかけた。
「ええ。準備は万端ですよ。聖下にもお知らせしております」
「良し。ほれ!起きんか!この馬鹿者が!!何時まで寝ておる!!起きろ!おい!起きんか!!」
その言葉にアライアス公爵は円卓から立ち上がりウィルさんを蹴り始めるが全くウィルさんは反応しない。
マジでウィルさん死んでるんじゃないの?と思ったが暫くすると少し反応があった。
「…ん………イテ!……おい!こら!馬鹿親父!何すんだよ!!」
「早く起きんか!この馬鹿息子!!」
「はぁ!?……………っ!!あ…」
気絶から起きたばかりで気絶する前の状況と今時分が置かれている状況を認識できなかったらしい。
しかし気付いたのか暫くすると怒りで紅潮した顔が蒼白へと変わる。
「俺……俺は……」
「この馬鹿息子がぁぁぁぁあああああ!!!」
そしてウィルさんは本日3回目の気絶を体験するのであった。