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Public Star~目指せ若隠居への道~  作者: 黛紫水
第五章 進化への種の章
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第九十九話 衝撃の朝食(2017.12.18修正)

どうぞと促されて扉に入るとそこには下へと続く階段があり、俺は緊張しながら階段を降りていく。

階段を降り切ったところにまた扉があり、その扉を開くとそこにはお店が広がっていた。

店の中は一見昔入った事があり記憶に残るジャズバーのような雰囲気だがそれとは一線を画している。

内装は白や黒と年季が入り良い感じに色の濃くなった茶色を基調とし、7人掛けのバーのような半円状のカウンターテーブルとその両隣に丸い立ちテーブルが2つずつ並んでおり、漆喰のような白い壁は魔法の光で照らされ間接照明として明るさを醸し出していた。

洗練されているがどこかアダルティでメランコリックな雰囲気が漂う空気に少し足が竦むが、後ろから酔っ払いの足を片手で持ち引き摺って店の中へ入る人を認識しそのまま足を動かす。


「これで良し」


そう言って酔っ払いは床へと打ち捨てられた。

若干酔っ払いの体勢が凄い事になっているが気にしないで置こう。

だって階段から引き摺り下ろされている時も、ゴンゴンと頭を打ち据えられているような音が聞こえたから、今更気にしていても負けだ。


「流石にあそこで騒がれると近所迷惑だからね」

「ウィルさんが本当に申し訳ございません」

「良いよ、慣れっこだから」


慣れっこなのかよ!!

そう言えばこの人昔からの友人って聞いてたから相当苦労したんだろうな…

幸せそうに寝ているウィルさんの顔を見てたらまたちょっとイラついてきたわ。


「何と言うか、ご愁傷様です」

「大丈夫。僕もコイツで遊んでるから」


そう言って馬鹿な犬ほど可愛いと言いたげな目でウィルさんに視線を向かわせた。


「あ、申し遅れました。俺はサンティアスの養い子でセボリオン・サンティアスと申します。」

「はい、ご丁寧にどうも。僕はロイゼルハイド・ランカスター・フィッツゼラール・ド・ラ・サンティアス…この店のオーナーであそこで寝ている馬鹿の学友だよ。ロイズでもロイドでも好きなように呼んで」

「はい、ロイズさん。それと俺のことはセボリーって呼んでください」

「うん。わかった」


少し余裕が出てきたためロイズさんの姿を良く見てみる。

ウィルさんより少し低めの背丈で細身だが180センチは越えており、漆黒の髪の毛にブルーサファイアのような瞳をしている。

その顔は男臭いウィルさんの顔とは違い中性的で、穏やかだが何処か危険な香がする微笑を湛えていた。


「モッキュー!」

「コイツは俺の使い魔のピケット?の公星です」

「はい。宜しくね、公星君」


どうやら公星は完全に目が覚めた公星が、ロイズさんに挨拶をしようと彼の目の前まで浮かんいった。

ロイズさんもそんな公星の短い腕を掴んで握手をする。


「そう言えばもう朝食は食べた?まだだったら作るけど」

「モッキュー!!」

「お前朝からクッキーとか蜂蜜食いまくってたじゃねーか!!あ、俺はまだです」

「モキュキュ!モッキュー!!モキュキュキュキュ!!!」

「うん、わかった。君のもちゃんと作るよ」

「モッキュ~♪」


ロイズさんの言葉に嬉しそうに鳴き声を上げ、彼の頬に体をこすり付ける公星。

そんな公星の頭を指で撫でながらロイズさんはまた苦笑している。


珍しいな。

公星が初対面の人間に対してここまで懐くなんて。

餌か?餌の力なのか?


食事の準備を始めるロイズさんは手を動かしながらウィルさんとの関係を話してくれた。


ロイズさんはサンティアスの養い子で初等部入学からウィルさんを知っており、寮も同室だった事もあって未だに腐れ縁のような付き合いをしているらしい。

ウィルさんは少なくとも1ヶ月に一回多くて毎日ロイズさんの店に来るらしく、いつも酔っているのでその扱いも慣れた物のようだ。

ただロイズさんも迷宮冒険者もやっている様なので頻繁に店を開けることは無い。

つまり店が開いている時はほぼ入り浸っているらしい。

ウィルさん。あんた何処から開店の情報聞きつけるんだよ…ロイズさんも告知はしてないって言ってたぞ。


それと衝撃的な事実なのが、この建物のオーナーはロイズさんらしいのだ。

地下1階上10階建ての1~9階を貸しており地下は店として、10階は自分の住居として使っているようだ。

地下の店にはこの建物の裏路地にある扉と10階にある移転陣からしかいけないようになっており、10階の住居スペースも9階とは階段で繋がっていないらしい。

外から少し見ただけだけど結構このビル大きかったぞ!?

やっぱり高位の迷宮冒険者って儲かるんだな。


「そう言えばロイズさんは例のあのお方から香玉を貰ったって本当ですか?」

「本当だよ。その馬鹿から聞いてるかもしれないけど僕の香玉は無臭なんだよね。正確に言えば匂いを分解して消臭する香かな?こんな仕事やってるから結構便利で気に入ってるんだ。君の香も素敵だけどね」

「成る程。ロイズさんって聖職者の資格持ちなんですか?名前にラの称号が…」

「そうだよ。君も後数年でこの称号を名乗る事になるからね」

「え!?何で…」

「だって君は浄化葬送の儀をやってのけたじゃないか」

「浄化葬送の儀?」

「試しの迷宮の入り口前でやったでしょ?あれのこと」

「あ、あれは…!!」


その時店の中に怒鳴り声が響いた。


「おい!ロイズ!!雷魔法を俺の頭に食らわすたぁ…お前なんて事しやがる!!俺がハゲたらどうしてくれんだ!!」

「心配はそっちかよ!!」


いつ間にか復活したウィルさんが大声を上げてロイズさんを非難するが、ピントのずれた怒る理由に思わず突っ込んでしまった。


「大丈夫だよ。君の頭皮はそんな事では滅びない。もしかしたら雷の力で頭皮が活性化して逆に髪の毛がハツラツとするかもよ?」

「え?本当か!?」

「多分そうだよ。ほら、飲み物入れてあげたから座りな」

「じゃあ許す!」


ウィルさんはカウンターテーブルの椅子に座り、機嫌良さそうに飲み物を飲み始めた。


「いつもこんな事やってるんですか?」

「うん。大体鉄板だね」


この人達もう三十路過ぎてる筈なのに何やってんの?

ロイズさんも独身って言ってたが、こんな事してるから結婚出来ないんとちゃうか?


呆れながら二人を見ていると魚を焼いている匂いが漂ってきた。

何とも言えない美味しそうな匂いに俺の腹は音を立て…ない。

立てる前に公星の腹が鳴ったからだ。

おい、お前空気読め。


それから暫く俺は二人のやり取りを見て本当に仲が良いんだなと思った。

ロイズさんがウィルさんを弄りまくり、ウィルさんがロイズさんに非難の声を上げる。

楽しそうに話しているそんな二人の姿を見て、俺も将来こんな風に馬鹿が出来る友達が残って居たら良いなと微笑んだ。


「出来たよ」

「おお!出来たか!早く食わせろ!」

「モッキューーー!!」

「はいはい。お行儀良くしないと没収するよ」


そう言って出された物を見て俺は驚愕した。


ほかほかの白米にお味噌汁、魚の干物に納豆と卵。

そして白和えと海苔と言う完璧な和食の献立だったのだ。


「こ!こ!これはぁ!!」

「おい!何だよこの糸のひいた腐った豆は!!?俺にこんなもん食えって言うのか!?」


俺が驚愕の言葉を発しようとするとウィルさんが納豆を侮辱してきた。


おい、貴様。もう一回言ってみろ。

納豆様に向かってその物言いは何ぞや。

日本人的条件反射的で納豆を箸でかき混ぜつつ心の中でウィルさんに最大級の罵声を送る。


「文句あるなら食べなくて良いよ。全部」

「美味しく頂きます」


ロイズさんの言葉に手の平を返し味噌汁を啜るウィルさんを見て、何故かお前にはまだ早いという言葉が浮かんだ。


「納豆…納豆…懐かしの納豆様…ああ!しかもちゃんと芥子も付いてる!」

「ちょっと残念なのがこれ芥子なんだけどちょっと味が違うんだよねぇ」


納豆に醤油と芥子をたらしまた混ぜ始めると懐かしい匂いが鼻をかすめ、涙が溢れてきた。


納豆を真剣に混ぜ終えた後、卵に視線を移す。

卵を掴むとこれはゆで卵ではなく生卵だと確信した。

俺は急いで湯気の出るほかほかご飯の上で殻を割ると、黄色よりも赤に近いオレンジ色の黄身が姿を現す。

ロイズさんが無言で俺に爪楊枝らしきものを差し出すと、俺はそれを受け取り震える指で慎重に慎重に卵の黄身に差し込んだ。


見事に立ち刺さる爪楊枝を見て俺とロイズさんは固い握手を交わすのであった。

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