第九十八話 悪酔い馬鹿とその友達(2017.12.18修正)
おめでとうございます!!!
精霊のご加護を!!!
祝えや踊れ!!!
新たなる歴史の誕生を祝して!!!
高台から辺りを見下ろしながら俺は昨日から今日までの事を思い返していた。
見下ろす景色は人、人、人で埋め尽くされ、華やかな音楽とそれに負けない盛大な拍手が鳴り響く。
ふと見れば片手には酒や飲み物を、もう片方の手には花やコインなどを持ちながら笑い。
また視線を動かせば楽しそうにダンスを踊る姿がえ見る。
まだ空気は肌寒い中だと言うのに人と屋台の熱気で湯気が上がり、祝いの宴会で出される料理の匂いがこちらのほうまで昇り上がって来るかのようであった。
これからが大変だな…と思いつつ横を見てみると、そこには昨日知り合ったばかりの人が悪い顔をして笑っていた。
おはようございます。セボリオンです。
えー、現在朝の5時40分。迷宮事務所の前まで来ています。
そして今ひとりでございます。
そうひとりなのだ。
おい!ウィルさんはまだ来ないのか!?
あの人俺に五時半に集合と言っておきながらもう既に10分も過ぎてるんだけど!!
どういうことなの?俺5分前集合ならぬ30分前集合してたんですけど!?
ざっけんな!眠ってる公星を起こすのにどれだけ苦労したか分るのか!?
ハムスター…じゃなかった。ピケットらしからぬ握力で寝床にしがみついて離れない公星を無理やり起こしてきたんだぞ!!?
無理やり起こされたから大竹星の機嫌は最悪で、ご機嫌取りに朝のおやつをあげたけどクッキーや飴ちゃんだけじゃ腹の虫が納まらず、俺にコームハニーを要求してやっと機嫌が直ったんだからな!!?
しかも今その公星様は俺のポケットの中で鼾かいてるんですけど!?
マジでふざけんな!!!
この憤りを如何にぶつけようか!!!
それからウィルさんが来たらどんな攻撃魔法をぶっ放すか考え始めて約20分、酒の匂いをプンプンさせたウィルブライン様がご到着成されました。
「死に晒さぇぁああああああ!!!!」
「うお!!危ねー!!何するんだよ!」
俺の渾身の攻撃魔法(魔導陣Vrにあらず)を咄嗟に出した魔法で打ち消して、眠たいですと言わんばかりの顔で問い掛けて来たウィルさんを殴り飛ばしても俺は罪にならないと思う。
「何するんだよ。っじゃねーよ!!!今何時だと思ってやがるんじゃこのボケナスがぁああああ!!」
「え?6時だけど?」
「おい貴様、昨日俺に何時集合かとほざいたか言ってみろ」
腰を捻らせ顔を右斜め上に傾けて、左手を胸に当ててもう片方の手の指でボケナスを指差しながら質問する。
「五時半に集合だな」
「覚えてるじゃねーか!!このバカチンがぁああああ!!!」
「すまんすまん。いやぁ、昨日は4時まで飲んでてさぁ」
「2時間前まで完全に飲んでるじゃねーか!!!貴様はヤニホリックだけじゃなくアルコホリックか!?」
「なんだそれ?それより遅れてきた事に怒ってんのか?細かい事気にしてたらもてないぞ」
「…………」
あ。今何か切れた音がした。
あ~そうか。わかったぞ。
堪忍袋の緒が切れたんだ~。
さて、どんな攻撃しようかなぁ?
「あー!!いや、マジでスマン!この埋め合わせは必ずするから許してくれ!!」
今度こそ魔導陣バージョンの攻撃魔法をぶっ放そうと詠唱に入る俺に、流石にヤバイ雰囲気を感じ取ったのか今度は真剣に謝ってきた。
「………ブツブツ……ブツブツ……」
「そうプリプリすんなって。どうせ俺が遅れるだろうからって少し早めに言っておいたんだよ」
「おい、その時点でおかしいだろ。あんたが遅れるのならその遅れそうな時間に設定して集合をかけやがれ」
そんなやり取りをしながら移転陣のある場所へと移動しようと歩き出す。
5分ほど歩けば到着したが、その移転陣の行き先が問題であった。
「あのぉ、ウィルさん」
「なんだ?」
「この移転陣の先って、高級店や少し離れて高級住宅地が立ち並んでる地区に向かう移転陣ですよね?」
「ああ、そうだけど」
「…………」
「なんだよその沈黙は?あ!さてはお前怪しい店が多い地区だと思ってたか?」
普通そう思うだろ。だってウィルさんの知り合い通り越して友達だぜ?
マゾワンさんだってドギツイ物お持ちなのにウィルさんの友達がまともなはずが無い!!
しかも消臭剤みたいな人って聞いてるから余計にだ!!
あ、消臭剤って言うのは俺が勝手に想像したことですからあしからず。
「いや…ウィルさんのお友達って時点でそう思ってましたけど…っは!そうか!実は友達とかじゃなくて女王様とか!」
「何だよその女王様って!!?」
「え?鞭とか蝋燭とかで」
「そんな趣味ねーよ!!!」
「じゃー鎖と首輪と動物の耳のカチューシャで」
「だからそんな趣味無いつってんだろうが!!!」
うん。やっぱりウィルさんはこうでなきゃ。
さっきの腹いせにはまだまだ足りないが十分楽しませてください。
「ほら行くぞ」
「へ~い」
俺はやる気の無い返事を返しつつ移転陣へと飛び乗った。
は~い。セボリオンだよぉ。
今高級店の通りを抜けてちょっと薄暗くて怪しい感じの裏路地に来てま~す。
あるぇ?ここって確かセレヴゥな町だったよねぇ?
「やっぱり怪しいじゃねーか!!何このそこはかとない不安感!!」
「何騒いでるんだよ。この路地は知る人ぞ知る名店が多いんだぞ。ちょいと金持ち目当てのカツアゲとかあるが概ね平和だしな」
「カツアゲが発生している時点で全然平和じゃないわ!!!」
やっぱりウィルさんはウィルさんだ。
何でこの人いつも俺に怪しい店しか紹介しないんだよ!!
しかもその殆どは店の中には入れてくれないし!
マジでざっけんな!!!
本日何回目か忘れたウィルさんへの罵倒の言葉を隠しもせず、俺はウィルさんについていく。
「お、ここだここ。って閉まってるじゃねーか!!」
「見紛う事無く閉まってますね。だって朝っぱらだもん」
ウィルさんの足が止まったその先に少しクラシカルな黒い扉があった。
その扉には準備中と立て札が架けられており、ドアノブを回してみても鍵が閉まっている。
「ウィルさん本当に許可と言うか予約取ったんですよね?実は勝手に来たとか無しですよ?」
「ちゃんと取ったわい!!おーい!!開けろぉ!!俺だぞぉ俺!!開けないなら扉壊しちまうぞぉ!!」
「あら、ヤダ。こんな図々しいオレオレ詐欺初めて見ましたわ。ってやめぃ!!扉壊したら弁償すんのアンタだぞ!!?」
「おい、放せ!絶対中に居る筈だ!俺の悪寒がそう言っている!出てこい!コノヤロォ!!」
「勘じゃなくて悪寒かよ!!当然の事だけどコイツまだ酔ってやがる!!だから朝の4時まで酒なんて飲むんじゃねーよぉぉおお!!」
「チクショー!また俺で遊ぶつもりだな!?こんな扉叩ききってやるレェエエエ!!」
「ヤメェェェエエエイ!!」
「間に合ってます」
流石に剣を構えて扉を切ろうとするウィルさんを止めに入ると、その扉の中から声が聞こえてきた。
声が聞こえた瞬間にバチィッ!と言う音が聞こえウィルさんが地面に倒れ伏す。
「ウィ、ウィルさん!!大丈夫ですか!?」
倒れたウィルさんを揺すって見るが全く反応しない。
あ、死んだ。と思っていると鍵が開く音がして扉が開いた。
「大丈夫大丈夫。いつもの事だから。起きたら酔いも冷めてるでしょ。さぁ、どうぞ。この馬鹿放っておいて入りなよ。セボリオン君」
そう言って柔和な声と顔で笑いかけてくれたのが、俺とこの人の初めての出会いであった。
好きなキャラだからか分らないが、ウィルが出ると話がスイスイ書ける。
セボリーとの掛け合いが書いてて面白いからだと思うけど、乱発注意ですな。