第九十六話 誰このリア充?(2017.12.17修正)
はーいスタジオの皆さーん。こちらセボリオンです。今私が何処にいるか分りますか?なんと試しの迷宮の10階層に来ているんです。
見てくださいこのあちらこちらで睨み合っている冒険者の方達、そしてそこらじゅうに転がっているモンスターの死骸。
ここはとっても居辛い雰囲気です。
ではスタジオにお返ししまーす。
試しの迷宮の事件から早数週間、今俺達は10階層のクリスタルの近くに居る。
その理由はシエルの武器だ。
どうやらシエルの武器が完成間近だと言うので最終調整のため、より実践的な場所へと潜ってきたのだ。
しっかしあの事件後人が減るかなと思ったが、減るどころか増えやがったよ!
捜索隊が入って逆に安全と思われたのか?
「人多いね、実験どころじゃないよ」
「だな。私も久しぶりにと息抜きのつもりで来てみたが…」
「しかもメッチャ雰囲気悪いんですけど」
「どうやら横入りがあったらしいぞ」
「「「あ~…」」」
ルピシーの言う横入りとは所謂獲物の横取りだ。横殴りとも言う。
自分達のPTが狩っている獲物を勝手に他の奴等に攻撃されたりちょっかいを出されたりする事であり、これは迷宮での規則違反で故意ならば罰則が下る。
しかし、故意でなければ注意だけで終わるのだが…
「俺達が先に狩ってたんだぞ!!お前等のしたことは迷宮における規則違反だ!!」
「はん?こちとらお前等が危なそうだったから助けてやったんたぞ?それを恩を仇で返すとは学園都市の学生様ともなると人情も無くされるんだな」
若い…といっても俺達より年上だが学生のPTと、20代から50代くらいの男達のPTが言い争いをしている。
後者のパーティはどうやら他国から来た奴等のようで、物凄く汚れた格好をしている。
服どころか体自体汚れていて、一体何時からお風呂に入っていないのか分らない。
匂いがこちらまで漂ってくるようだ。
実際臭いのか、学生パーティの人達は汚っさんPTの男達が動くたびに顔を顰めていた。
「何が危なそうだ!俺達はほぼ無傷じゃないか!」
「回復魔法で治したんだろ?」
リーダー格らしき汚っさんの言葉に他の汚っさん達もニヤニヤ笑っている。
あ~、こいつらワザとだな。
多分助けてやったんだから報酬よこせとかそんな類の奴等だろう…
横入りにも色々な種類がって故意じゃない場合は割り込んできた奴等が謝りすんなり納まるんだが、そうでない場合がややこしい。
それは金銭目的だったり、相手PTを全滅させるために周辺のモンスターを引き連れて相手のPT周辺に放置することがある。
前者なら罰金刑で済むが、後者ならば罰金刑と強制労役後国外追放になってしまう。
それは聖帝国籍の者でも変わらず、下手をすると国籍を剥奪される可能性だってある。
なのでまともな聖帝国人なら絶対にやら無い行為なのであるが…
うわぁ、これは面倒くさいわ。
学生PTは早く話し終わらせたいのは山々だけど相手にその気は無く、ゴネて金をせびろうと言う魂胆だろう。
つまり親父狩りだな。え?相手のほうが若い?じゃあカツアゲで。
もうお分かりだと思うが、この10階層にこんなたくさん人が集まっている理由は野次馬である。
俺達は偶然この場を通りかかっただけだ。
「白々しいにも程がある!!いつまでこんな話を繰り返すつもりだ!」
仕方が無いから9階層まで上がるかと相談しようとすると、他のPTの人が俺達に話しかけてきた。
見覚えのある顔だと思ったら、何回かこの迷宮で顔を合わせているPTだ。
「もうかれこれ二時間近くやってるってさ」
「うえ…二時間もですか…」
「目撃者が居ないから堂々巡りなんだろうな」
「そうですねぇ」
「何の騒ぎだ?」
心の中で学生PTに手を合わせ今度こそメンバーに相談を持ちかけようと思った瞬間、見るからに立派な装備をした男女混合PTのリーダ格っぽい人が割って入ってきた。
男女混合PTだって!?何それ!超羨ましい!
俺の周りなんて殆ど男だぞ!!唯一の希望はロゼが迷宮冒険者資格とってくれたらだけど、まだ少し先の事だろうな。
あ~、しかもこのPT男女比率で言ったら女のほうが多いよ。
キャー!いやらしーぃ。けしからん!けしからんぞぉ!!
リーダー格も含めて数人は鎧やフードで顔が分らないが、なんかイケメン美女臭がするぞ!
しかもあの鎧、何あれ?フルアーマーってやつ?す、すごくでっかいんですけどぉ。
「なんだあんたら、これはこちとら達の問題だぞ」
「実はこう言うことでして…」
何故か焦る汚っさん達を尻目に、学生PTのリーダー格がご立派(深い意味は無い)PTに事情を説明し始めた。
「成る程。では一回迷宮事務所に行くと良い。それか迷宮の職員を呼んできなさい」
「な!?何でそうなるんだ!ここで済ませれば良い話じゃねーか!!」
「横入りが起こったのはここなのだろ?クリスタルの近くならクリスタルが一部始終を見ているはずだ。記録を探れば良い」
は?クリスタルが見てる?何それコワイ。
おい!聖母像様がみてるんじゃなくてクリスタル様が見てはるんかい!なんぞやソレ!!
後で知ったがクリスタルは所謂記録の魔法道具なのである手順を踏めば記録映像を解析できるらしい。
防犯カメラかよ!!じゃあこれの小型の物を試しの迷宮の狩場に付けろや!そしたらあの事件もっと簡単に処理出来たろ!?
つーかさ、なんか気のせいかもしれないんだけどあのご立派(深い意味は無い)PTのリーダーの声ちょっと聞き覚えがあるんですけどぉ!何処かで聞いた!何処だ!?思い出せ俺の記憶!!
「どけ!こちとらこんなことしてる時間は無いんだよ!稼ぐために深く潜るんだ!通せ!!」
「それは出来ないな。ゴネていたのはあんた達だろう?なら最後まで通せ」
「ぐ…」
その後、若いPTも汚っさんPTに構うのが面倒くさかったのか疲れたのか分らないが、もう良いと言う事で話しは有耶無耶になった。
これで良いのか?と思ったが、後日迷宮事務所の目立つ所に汚おっさんPTの似顔絵とPT情報が張り出されていたのできちんと報告はしていたのだろう。GJ!
って言うか張り出されるくらいだから他にも何件かやってたんだな汚っさん等…
「さ、じゃあ。早く行くか」
「そうだね」
「おい、セボリー」
野次馬も散り散りになり俺達も早く行こうと歩き出すと、ご立派(深い意味は無い)PTのリーダー格がピンポイントで俺に話しかけてきた。
「………どちら様で?」
「ティグ兄久しぶり!!」
「ほぇ!!?」
さっきから聞いたことのある声だとは思っていたが、ルピシーが答えを言ってくれたよ。
ルピシーは最初から分っていたらしいんだが、理由を聞いてみたら、匂いが同じだろ?とか言いやがった。
匂い?匂いでわかるって何ぞ!!?
しかも、分らなかったのか?とかすっ呆けた顔で言われても困るわ!!
つーか、わかるかい!!!本当に犬かお前!!?
「ティグレオ兄さん!!?」
「おう!おいおい忘れたとは言わせないぞ」
そう言ってフルアーマーの兜を外すと、前より少し精悍になったティグレオ兄さんの顔が出て来た。
俺は何処か遠くの場所へ行ってしまったようなティグレオ兄さんに遠い目で返事をした。
「ティグレオ兄さん久しぶりです。色々ご立派になられて…しかもほぼハーレムPTとは…このリア充め」
「何だそれ?それはそうと、セボリー。お前この前大活躍だったらしいな?」
「…へ?何のことですか?」
「試しの迷宮の入り口で色々凄い事やらかしたらしいじゃないか」
「……ナンノコトザマスカ?」
「さすがは副院長、いやオルブライト司教の秘蔵っ子なだけはあるよ。何をやったか俺は良く分らないんだが、俺昔からお前とそれなりに仲良かっただろ?だからお前の情報をサンティアスの情報網に流しといたぞ?」
「ナニサラシテクレトン!!?っていうか前から思ってたけど何その情報網って!!?」
「あれ?お前知らなかったのか?アルゲア教の教会とか施設に行くと宝玉みたいなのがあるんだが、それに手をついて情報を入れると閲覧できるんだよ。見れるのは成人したサンティアスの養い子か教団の関係者、または許可された者しか見れないがな」
ナニソレェ。初めて聞きましたよ…
そう言えば大分昔の話になるが、初めて学園都市に来た時にあのお笑い界に打って出れそうなPTさん達の話からその情報網の話になってたような。
サンティアスの情報網があるから学園都市を出てもフェスモデウス聖帝国にいる限り白い目で見られるって…
ッハ!もしかして…もしかしなくても…あのおっさんが俺の情報をこの国の重鎮に言い触らしてるのって…まさか!これかぁあーーー!2chかよ!!そんなのに俺の情報流すなんて…!!
ざっけんな!個人情報流出ってレベルじゃねーぞ!!!
「ま、何故か直ぐにお前の情報が見れなくなったがな」
「え?本当でですか!?」
良かった。俺の個人情報は守られた。
誰がやったかわからないが親切な人ありがとう。
「ああ、閲覧禁止になってたぞ。普通余程の事が無い限り閲覧禁止にはならないんだけどな。お前何やったんだ?」
「知りませんよ。俺が教えて欲しいくらいです」
え?余程の事が無い限り?俺なんかした?
何?この前の件?それとも聖下関係?
それともあのおっさんの有る事無い事言ったり、ウィルさんの有る事有る事言った事とか?
えぇい!!見当が付かん!!
とりあえず見れなくなったのならそれで良いや!!
その後ティグレオ兄さんと少し話しをして、こちらもまた久しぶりにあった兄さんのメンバーのお姉さんと挨拶を交わし、俺達は実験ついでの探索に出かけた。
ついでにそのメンバーのお姉さんは確かアシャンティさんと言う名前だったと思うんだが、正直スマンかった。久しぶりすぎて最初名前を思い出せなかったんだ、護符を買ってくれたのに。
途中で何とか思い出したから許してくれ。