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幕間 短話詰め合わせ一

『カリー店』


ヤンソンス・ラージャ・マハトベク・プラサドシンハ・マハルトラジャは現在、弟のヴァンサンス・ハーン・カザフベク・メノンシンハ・マハルトラジャと一緒に学園都市内でオープンさせるカレー店の物件巡りに来ていた。


「今度の物件はここだな」

「はい、兄上。今度こそ良い物件だと良いんですけどね」

「そうだな。ほぉ、悪くは無いな」

「家賃もそんなに高くもないどころか安いです。それに規制も少ないですし、掘り出し物かもしれませんね」


ヤンは弟のヴァンとカレー店を出店させるために、この一年近く色々な物件を物色していた。

構想当時はすんなり決まるだろうと思っていたが、物件選びだけでかれこれ半年以上も掛かっている。

提案者であるセボリーからも「まだぁ?」と言われる始末であった。

最初は人が集まる大通りか住宅街に店を出せたら良いなと思っていたが、大通りは家賃が高く住宅街なら規制が多く理想の物件は中々出てこなかった。


そんな中、本日3件目の物件である今回の物件は、建物、人通り、家賃ともに申し分なかった。

1件目と2件目は広さや家賃などの条件が折り合わなかったため、この物件は中々の好感触だ。

パブリックスター商会のある地区とは少し離れていたが、通うのにも苦ではない距離なので問題ない。

もっともヤンは成績優秀者なので移転陣の許可証フリーパスを持っているため、その問題は最初からあまり気にしてはいなかったのだが。

カレー店の店長予定のヴァンも兄と同じく好成績を収め、シエルの弟妹のジョエルとノエルと一緒に許可証フリーパスを貰っている。


「ふむ、やはり飲食店だと住宅街では出店しづらいからな。少し歓楽街に近いが逆に活気があって良いかも知れん」

「そうですね。しかもこの場所でこの家賃は破格ですね。この物件って確かセボリーさんの知り合いがご紹介してくださったんですよね?

「……あ、ああ…セボリーの知り合いと言うか師匠格かもな。」

「師匠格…ですか?」

「そうだ。シエルの兄貴分でもある」

「へぇ、そうなんですか。もしこの物件に決定するのでしたらお礼に伺わないといけませんね」

「いや、あの人はあの人なりに忙しい方だからな。それにしてもこの物件の持ち主の名前が…」

「名前がなんですか?」

「なんでもない。それよりももっと詳しく内を見させてもらおう」

「はい!」


物件状況確認書を見ながら何かを言い淀む兄の様子に首を傾げるヴァンだが、すぐに目の前の餌に興味が移った。


その数日後無事その物件に出店する事が決められ、ヤンは契約を交わすためにその物件のオーナーに会いに行った。


「それでは宜しくお願いします」

「いえいえ、ウィルからの紹介ですしね。こちらとしても丁度店子が退いたので渡りに船でしたよ」

「私としてもありがたかったですが」

「そう言ってもらえると嬉しいですな。いやぁしかしあの素晴らしい服を製作するパブリックスター商会の系列店が私の持ち物件に入ってきてくださるとは思いませんでしたよ。何せ私は会頭や副会頭、服飾部門の方やデザイナーさん、それにあの貴公子にも避けられている節がありますからな」

「……いや。まさかそんな…」

「まぁ、末永くお付き合いしてください。私の持ち物件に入っている店子の方は何故か数ヶ月で逃げるように出て行く事が多いですからねぇ」

「……ご冗談を」


それから数ヵ月後、ヤンがオーナーのカレー店『カリーサロン・マハルトラジャ』は人気に火がつき、学園都市の中でもトップクラスの集客力を誇る外食店に成長したのである。

その証拠に店が混みすぎて行きたい時に行けないとセボリーが愚痴る程であった。


『カリーサロン・マハルトラジャ』は学園都市西地区の中でも一番といわれる夜の歓楽街の近くの通り、マゾワン第5ビルヂングの1階に店を構えているので良かったら足を運んでみてはいかがだろうか。








『地獄の取立て屋の愛機』


「ヒィイ!来た!キタァ!!直ぐに逃げるぞドリエッタ!!」

「ヒィィイイイイイ!!お父様お母様ぁああ!!」


マルコとドリエッタは現在、借金の取り立て屋から逃げるために学園都市の中心街に沿って裏路地を必死で走っていた。

最初聖帝国に来た時には少し歩いただけでバテていた体も、迷宮冒険者になって早数ヶ月でそれなりの体力が付き走る事も苦ではなくなっている。


「まだ今週分の返済額が貯まってない!!今は逃げるんだ!」

「やっぱりあの時外食するんじゃありませんでしたわぁぁあああ!月に一回だけの屋台巡りで一人一品の約束でしたのにマルコったら二品も買ってきて!!」

「仕方ないだろう!!あのピケットが食ってたのを見てどうしても食いたかったんだ!!それにお前も半分食っただろうが!!」


罵り合いながら必死に逃げるが、追跡している取立て屋が遠ざかる様子はない。


「ヤバイ!今日は乗り物に乗って来てるぞ!!」

「ヒェッ!?でもそんなんじゃ小回りが利かないわよ!!逆に好都合ですわ!!!」

「いや!あれを見ろ!!!」


マルコの言葉に全速力で走りながらも後ろを振り返るドリエッタの目に見えてきたものは、先程自分が言った小回りが利かないを打ち消すような機動力と駆動力で追いかけてくる取立て屋の姿であった。


「ハハハハハハハハハハ!!!マテマテマテェェェェエエエ!!!」

「「ギィヤァァアアアアアアアアアア!!!」」

「やっほほーーーーーーい!!!アハハハハハハ!!」


ドリエッタ・チェレ・デ・ラロッソことドリエッタと、マルコ・マキシマム・マリノ・デ・ルーカことマルコはトリノ王国からの留学生であり貴族である。

そんな貴族の二人が何故にこんな必死に借金の返済に終われているかと言うと、一つはある人物の逆鱗に触れたことである。

そのある人物は今現在二人を追いかけている最中なのだが………見る限りとてもご乱心の様子であった。


「オラァア!もっと早く走らんと追いついちゃうぞーーーーう!!!」

「「イヤァアアアアア!!!」」


ご乱心の人物、トリノ王国大公家長男フェルディアーノ・ジョルジュ・イル・ディアマンテ・デ・パラディゾことジジは現在鈍く光り輝く乗り物に乗り、車輪の音を響かせて路地裏を爆走している。

目は赤く充血しており見るからにイッテいた。


「…つ~かま~えた~♪」

「「オタスケヲォォォオオオオオ!!!」」


二人の逃走劇は一時間近く続いたが、結局は追いつかれジジに縛り上げられている。


「大公公子!!何ですかそれは!?乗り物で追いかけてくるなんて卑怯です!!」

「そうですわ!フェアではなくってよ!!」

「ふ~ん。あっそぅ」


二人は怯えつつもジジに苦言を呈すが、全く効果は無いようである。


「所でお前達。セボリー達の所に行って金をせびらなかった?」

「「え!?」」

「大した情報でもない、しかも逆に混乱させるような情報で金をせびってきたって風の噂で聞いたんだけどさぁ」


ドリエッタとマルコは激怒した。


「あいつら!恩を仇で返すのか!!」

「あの人でなし!!無礼にも程がありますわ!!」


しかしジジはもっと激怒した。


「うっせーー!!……お前等、俺は前から言ってたよなぁ…迷惑を掛けるな、金をせびるな、息を吸うなと…」

「ちょ、ちょっとお待ちになって!!最後のは」

「うるさい…」

「大公公子!同胞に情けの心を」

「黙れ…罰として今持っている金は全部没収だ…」


二人の体にきつく縛られているロープを更にきつく締め上げ、ジジは誰が見ても目が笑っていない笑顔で二人の財布を没収した。


「「そ、そんな!」」

「大丈夫さ、明日も試しの迷宮に潜れば少しは懐に戻るよ」

「それは戻るとは言わな」

「大体先週の取立て分も貰ってない、一体何をしていたのやら」

「そ、それは装備品を整えて…!!」

「あるぇ?さっき外食が何とかって聞こえたんだけどなぁ」

「「オ、オナサケヲ!」」

「外食しないで学食食ってろやぁァアアアア!!!」

「「ヒィィイイイイイ!!!」」


ジジは二人を適度に凹った後、縛った状態のまま自分が乗っている乗り物にロープごと縛りつけ街中を走っていた。


「ヒィヒィ…大公公子…そのヒィ…乗り物は…ヒィ…なんですか!?ヒィ」

「そ、そうですわ…ハァハァ…そんなもの…ヒィ…見たことありま…フゥ…ありませんわよ!?」

「あ、これぇ?俺がパブリックスター商会に依頼して作ってもらったんだよねぇ。最初は魔石か精霊石のエネルギーで走るタイプにしたかったんだけど、学園都市の乗り物規制の規制に引っかかるらしくて断念したんだぁ」

「「マタアイツラカァァァァァアアア!!!」」


ジジはセボリーがデザインした現代で言うキックボードのような物に乗りながら、鼻歌交じりで嬉しそうに地面を蹴る。

二人はそれとは対照的に苦しそうに、汗と涙と埃で汚れた顔を歪ませて力いっぱい叫んだ。


「でもこれ便利だよねぇ。仮名称らしいんだけどスターボードって言うんだってさ。今の時点では量産化は無理らしいけど依頼して作ってもらって本当に正解だよ。やっぱりセボリー達って商才あるよねぇ……これでお前等を狩るのも楽になるし」

「「イィヤァァァァァァアアアアア!!!」」


現在その似非キックボードは商会のメンバーの他に、セボリー達と仲が良い数人しか持っていない。

製作時間と金が掛かるため注文も受け付けていない状態であるが、ジジやルピシーが街中で乗って走っている姿が良く目撃され欲しいと言う声が殺到した。

さらにウィルブラインが迷宮内で乗っていたことで迷宮冒険者からも欲しいと言う声に拍車が掛かり、将来セボリー達がてんてこ舞いになりながらも委託先を探して生産販売するようになる。

そして馬鹿二人の逃走劇とジジの追いかけっこは彼等が学園在学中学園都市中心街の風物詩と化し、後に『サンティアス学園都市スターボードレース大会パラディゾ杯』なる催し物が毎年開催されるようになったのであった。

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