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Public Star~目指せ若隠居への道~  作者: 黛紫水
第四章 新たなる出会いの章
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第九十一話 救われる魂(2017.12.11修正)

泣き崩れるロゼにかける言葉が見つからず、俺はロゼの友達だった変わり果てたモノへと再び目を向けた。


正直に言って目を背けたい。

魔力で体と魂を守っているとはいえ、気を抜いたらこちらが引き摺り込まれそうになる。

ロゼの友達には悪いが気味が悪いし、恐怖しか感じない。

だが、背けていたら駄目な気がした。

これは冒険者等の危ない仕事をしている者にとっては、誰にしも起こりえることかもしれないからだ。

いや、もしかしたら一般人でも起こる可能性だってある。

それに、この事件に俺自身の意思で関わろうと決めた時に覚悟は決めたんだ。

覚悟して足を突っ込んだのだから、どのような結果であれ目を背ける事は許されない。

それが例え自分の命が脅かされていても…


折角生まれ変わったんだ!後悔なんてしたくない!自分自身を恥じることはしたくない!!

前世で育ててくれた両親や兄弟!俺が死んだ時に悲しんでくれた人達のためにも!!

今世で俺を見守ってくれている人達のためにも!


目を見開き、覚悟を決めて意識を集中させた。

先程までは半ば見ることを拒否し、見たくないと思っていたモノが鮮明に見えてくる。

穢魂霊えこんれいになった二人は先程よりも苦しそうにもがき苦しんでいた。

俺が自分達を見れることを分っているかのように、手と顔を俺へと向け縋る様に助けを求めている。

それは生々しく、俺の体からどんどんと血の気と気力が失せるのが分った。


怖い。

恐ろしい。

『死』そのものが襲い掛かってくるみたいだ。

でも…なんで頭に浮かぶのはあいつ等なんだろう…


恐怖と言う形の分らない物が俺に纏わり付くと同時に、俺が思い出したのは前世の家族や彼女ではなく、

今世の仲間達や知り合いだった。


俺がもしシエルやルピシー、ゴンドリア達をこんな形で失ったらもっと悲しみに暮れるだろう…

もし俺が死んだらあいつ等はこんな風に悲しんでくれるのだろうか…

副院長は?…サンティアスの兄弟達は?…ジジ達は?


ああ…寂しいよな…悲しいよな…痛いよな…苦しいよな…辛いよな…



助けたい、救ってやりたい



そう思った瞬間、俺の意識はまるで遠に行くように薄れていく。

が、気を失ったわけではない。意識はある。

あるが、まるで何かに操られているかのような感覚であった。

自分が自分ではなくなったような、そんな気がしたのだ。


正直言うとその時の事は良く覚えていない。

全てが曖昧で靄が掛かった様と言うか、まるでモノクロの無声映画を遠くの画面越しに見ているような感覚。

後に仲間達が言うにはフラッと立ち上がり、ラングニール先生や兵士達の制止を無視して遺体の前に歩み寄って祝詞のような言葉を発したらしい。

その時の俺はまるでアルグムン大聖堂の大司教座の如き雰囲気を纏っており、顔つきまで違っていたとシエルに教えてもらった。




「これより先は一般人の立ち入りは禁止されている!戻りなさい!」

「おい。セボリー、何処に行く。おい!ここから先はい…」

『下がれ』


俺の意思とは違う言葉が出ると同時に、『俺』を止めようとした兵士達とラングニール先生の動きが止まった。

まるで声も出せず、その場から動く事が出来ないと言う様に体が硬直した。

『俺』は担架に載せられた遺体の前まで歩き穢魂霊えこんれいを哀れむように見ると、言葉を発した。


『精霊よここへ 我 精霊の愛し子セボリオン 精霊の代理人 死を知る者 輪廻の環を越えし者なり 浄化の光よ 清め給え清め給え この悲しき哀れな囚われた魂を救い給え 祖の待つ場所へと送り給え 生まれ変わるその日まで』


そう言い終わると遺体の周りが光ったのだと言う。

魔力を持たないユーリでさえ、その場が光って見えたらしい。


《あ…り…がと…う…》


穢魂霊達が嬉しそうに涙を流し光と共に消えていったのを見たと同時に、『俺』は意識を手放した。



目が覚めたのはその翌日、見たことも無い天井が俺の目に入り、窓から入る眩しい光が俺を迎えてくれていた。


「…どこだここ?」


状況確認のため、まだ冴えていない頭とだるい体を立ち上げて自分の体に目を落とす。


「あれ?いつの間にか着替えてるし。記憶に無いぞ。もしかして脱がされて寝巻き着させられたぁ?キャー、もうお婿にいけない。ってそんな事言ってる場合じゃなかった」


段々と冴えてくる頭で部屋を見渡す。


見渡すと俺が寝ていたベッドの横の机に、見覚えのある籠が置いてあった。

その中を覗き込むと公星がグースカ鼾を立てて寝ている。

なんとなく公星のぷっくりとしたほっぺをツンツンすると、俺の指を餌だと思ったのか齧ってきやがった。


「イテェ!!俺の指はお前の朝食ではありません!」

「………モキュ?モッキュー!」

「うがぁ!モガモガ!!」


俺の叫び声を聞いて公星は起き出し、俺の顔にへばりつく。

息が出来るか出来ないかの微妙な力具合で張り付く公星を引き離そうとするが、全くはがれる気配がしない。


「フガァ!……お前は何でいつもいつも俺を呼吸困難にさせようとするんだよ!!ご主人様を殺しかける使い魔ってなんぞや!!お父ちゃんはお前をそんな風に育てたつもりは、あっりません!!」

「モキュー!」

「コラァ!だから顔にへばりつくんじゃねー!!」


置きぬけでの公星の攻撃に完全に頭が覚醒し、気を失う前のことを思い返す。


あれ?俺は皆と一緒に迷宮の入り口で……


「そうだ!あの時試しの迷宮の前で調査隊が出てくるのを待っていたんだ!それで…っ」


そしてあのおぞましい穢魂霊の姿を思い出し、壁に両手をついてしゃがみこんだ。


「ラングニール先生があれの説明をして…それであの後…どうなったんだっけ?………っ!どうぞ」


その時、コンコンと扉を叩くノックの音が聞こえ、その人物に入室を許可した。

通常なら警戒するのが当たり前だが、寝起きだったのか、それとも酸欠状態で頭の働きが著しく低下したのか、咄嗟に返事が出てしまったのだ。


「気分はどうだ?」

「副院長……と言うことは、ここはアルティア司教座大聖堂ですか?」

「ああ、そうだ」


扉が開くと物心ついた時から知っている顔が見え、何故か分らないが心から安堵した気持ちになった。


「あの…副院長はあの後の事をご存知なんでしょうか?正直記憶が曖昧で、覚えている事と靄が掛かっている事が所々ありまして」

「ラングニールから聞いている。試しの迷宮も数日後には一時閉鎖が解かれると通達があった。迷宮事務所もな」

「事件は解決したんですか?」

「概ねな。詳しくは他の者に聞け」

「役に立たんおっさんですこと。イッテー!!」


久しぶりに副院長の拳が俺の脳天に炸裂した。


「ちょっと副院長!頑是無くていたいけな少年の頭を殴らないでください!」

「誰が頑是無くていたいけだ。頑丈で痛い子の間違えだろう」


虐待だ、虐待!おまわりさんと児童相談所さんこちらですよー!!

キャー変態聖職者ー!!


「人一倍デリケートなお年頃の俺になんつーこと言うんですか!グレるぞ!!世の中には厨二病と言うものがあってですねぇ!」

「セボリー」

「多感なこの年齢に誰しもが経験する、果てしない絶頂と絶望が渦巻くそれはそれは恐ろしい病で」


あの病だけはガチですわ。

今思い返してみても前世の俺なんであんなことしたんだろう。

え?今でも色々やらかしてる?

なんか幻聴が聞こえたような気がするがスルースルー。


「セボリオン・サンティアス」

「何ですか!?人が波に乗ってきた時に!!」


あらやだ、このおっさんにフルネームで呼ばれたの久しぶりなんですけどぉ。


「汝を助祭の位に叙階する」

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