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Public Star~目指せ若隠居への道~  作者: 黛紫水
第四章 新たなる出会いの章
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第八十九話 命の重さ(2017.12.7修正)

その日は朝から冷たい雨が降っていた。

雨だからとルピシーも食べ歩きをする事は無く、皆で商会事務所に集まって商品開発やお互いの研究成果について話し合っていたときであった。

そんな中、息も絶え絶え雨でびしょ濡れになったロゼが飛び込んできたのだ。


「あら?ロゼじゃない、どうし…ちょっとあなたびしょ濡れじゃない!待ってて今タオル持ってくるから!!」

「た…大変な…んです!友達が!」


そう言ってまだ息が整わなくて苦しいのか膝に手を付いて肩で息をした。


「とりあえず落ち着け。お茶入れたからそれを飲んでから落ち着いて話せ」

「は…はい」


ゴンドリアが持ってきたタオルで髪の毛を拭きお茶を飲んで息を整えると、ロゼは早口に事情を説明し始めた。

どうやらロゼの友達が一時閉鎖前の試しの迷宮に潜ってから戻ってきていないのだと言う。


「試しの迷宮が一時閉鎖する前日に潜っていったんです。私はまだ資格を取っていないんで潜れないんですけど、その子達は留学生だから普段から潜ってたんです」

「試しの迷宮が閉鎖になって2日くらい立ってるよな」

「日帰りするって言ってたんです。でも結局その日は戻ってこなくて…」


あれ?もしかして迷宮に潜ってた人達に事前通知出してないとか?


「迷宮事務所は通告出してなかったのか?俺は副院長から直接の手紙で知ったんだが」

「私はそこまでは分りません…」


へ?マジで出してないの?


今にも泣き出しそうな顔のロゼの顔を見つつ俺は驚いた。

しかし、その直後シエルが口を開く。


「いや、出しているはずだよ。ちゃんと試しの迷宮にいる冒険者に聞こえるようにね」

「どうやってって…ああ、学校の校内放送のシステムと同じようなものか」

「緊急時に発せられるらしいんだよね。でもそれが出来る迷宮は試しの迷宮だけらしいよ」

「何で?」

「さぁ?他の迷宮は未攻略だからじゃない?他のといっても迷宮って今存在が確認されているのはこの学園都市の2つだけだからね。解明されていない所が多いらしいし。その割には国が色々な事応用して利用してるけど」

「それって解明されてないんじゃ無くて、一般に公表してないからじゃない?」

「かもね」

「もしかしたら他に攻略された迷宮があるが公表されていないとか」

「あの、話が逸れてる気が…」

「ああ、すまん」


ロゼが緊迫している状態の中、俺達は何故か迷宮のシステムの事に話が逸れてしまった。

うちのメンバーはルピシー以外似非研究者タイプが多いからどうしても話が広がってしまう。

まぁ、その広がった話からまた新しいアイディアも生まれてきたりするんだが…話を戻そう。


「と言うことは3日間は出てきてはいないんだよな」

「はい、そうです」

「でもちゃんと警告を聞いていたのなら普通帰ってくるよな」

「聞こえてても出れない状況だったのかもしれないじゃねーか。腹が減ってて動けないとか」

「それはルピシーと公星だけだ」

「モッキュー!!」

「こら、頭を齧るな。地味に痛いんだよ」


公星が俺の頭を甘噛みのような力で噛んできた。


「もしかしたら聞こえていても動けない状態だったか」

「それか既に聞こえない状態だったか…うん」

「…………」


どんどんと話が暗い内容になってきた。

それを反映するかのように最初は赤い顔だったロゼの顔が、真っ青から真っ白に変わっていく。


「私は未だ潜った事がないので分りませんが、試しの迷宮のモンスターってそんなに強いんですか?」

「浅い階層のモンスターならそんなに強くない。でも試しの階層は100階層まである。大体5階層を越えた辺りから敵がどんどんと強くなっていくんだ。10階層になると今の俺があの魔法を使わなきゃ楽には勝てないくらいの敵が出てくる」

「友達はそんな強くないらしいです。3階層の辺りでいつも狩をしているといっていました」


震える声で音を搾り出すロゼ。


「とにかく安否の確認を急がなくてはいけないが、今の状態では俺達が入ることは出来ないんだ。俺達迷宮冒険者の資格を持っている者は今、試しの迷宮に入ることを禁止されている。しかも入り口も封鎖されているし、もし閉鎖されていなくても警備を掻い潜っていかなきゃいけない。ついでに言うとその警備に当たってる人は俺達の知り合いだが絶対に通してはくれない」


俺はこの前ラングニール先生の話で改めて気付かされた事があった。

それはこの国は本当に他国人には冷たいと言う事だ。

ヤンが言っていた様に最善の事を選ぶのならば、小さい事は切り捨てる必要があるを実行しているのだろう。

俺はそれを酷いと思っていた。いや、今も思っている。

しかし、この学園都市の迷宮で働かされている犯罪奴隷はどうだろう。

俺は今までそれを当たり前だと思っていた。

この国に戦争を仕掛けて捕虜にされたのだから当たり前だと思っていたのだ。

命の保証は無くきつい仕事ではあるが給金が出て、ちゃんと休日もあり人権も保障されている。

それで何が悪いんだとずっと思っていたのだ。

だが、これは見方によっては人の命を使い捨ての道具と見ているのと同義ではないかと気付かされた。

そう思うと俺は急に恥じたい気持ちになって、それを仲間に言うとシエルやフェディのような貴族系の奴等からゴンドリアやルピシーの平民、ヤンやユーリのような留学生からも首を傾げられた。

特にサンティアスの養い子以外のメンバーからはそれの何が悪いんだと逆に不思議がられたのだ。

彼等が言うには他国の奴隷制度はこんなものではく、まさに労働と貧困を絵に描いたような生活で、食べ物を貰うために血と血を洗うような生活を強いられているのだと言う。

何故なら他国の平民はこの国の平民のように豊かではなく、自分達の生活を維持することに必死であり、弱いものが奴隷に落とされ使い潰すことが当たり前、中にはこの国の奴隷になるために他国の平民が必死で国境を越えてこようとし、たどり着けず死んでしまう者達も多いらしい。

人の命は重いものだと思っている俺に、仲間達は他国ではそういう考え事態しないのだと教えてくれた。

平民や奴隷の命は低いものであり、それを使い潰すのが大商人や王侯貴族の当然の権利と思われているのだと。

シエルがアードフさんを例に挙げて、俺は平民と言う名の農奴だった彼がこの国に来て祖国にいた時よりも豊かになって喜んでいたことを思い出した。

彼以外でも先程例に挙げた迷宮奴隷の人達を思い返してみると、彼等は皆笑顔で生き生きと働いており、裏ではどう思っているかは分らないが俺の目には不幸には見えなかった。

そう思うと本当に俺は暖かい環境で育ってこれたのだとまた気付かされ、もし他国の平民や奴隷に生まれていたらと身震いしたのだった。


そんな事もあり考えの違いにカルチャーショックを受けていたのだが、憤慨しながら聞いていた俺はその考えを知り何故か逆に普段の冷静さを取り戻す結果となった。


「今ラングニール先生が入り口を見張ってるんだっけか?」


ルピシーが軽い口調で聞いてくる。


「ああ」

「あ~、そりゃ無理だ。もし無理やり通ろうとしてもボコボコにされて気絶して終わりだわ」

「そんな………とりあえずその知り合いの方に情報を聞きに言っては駄目でしょうか?」

「駄目元で行って聞いてみるか…」


俺たち7人は試しの迷宮の入り口前まで到着するとラングニール先生の姿を探す。

しかしそこに知っている姿は無く、数名の軽い武装をした兵士が立っているだけであった。


「いないな」

「いないわね」

「だな」

「何処に行ったんだ?一回家に帰ってるとかか!?プラタリーサ先生今臨月だしな!」

「え!?まじ?もうそんな大きくなってるの?もうすぐ生まれるじゃん。お祝いの品見繕っとかなきゃ」

「ラングニール先生がいないとなると…あ、あそこに警備兵の人がいるから聞いて来るわね」

「おう」


中身は男だが、あの成りのゴンドリアなら男の警備兵に警戒心をもたれる事も無く情報を仕入れることが出来るだろう。

ゴンドリアが警備兵に近づき、事情を説明する。

しかし、警備兵達は入り口をしっかりガードしながら首を横に振った。


「駄目ね。それらしき人が戻ってきたって情報は入ってないって。それに今は迷宮だけじゃなくて迷宮事務所自体閉鎖してるらしいわ」

「迷宮事務所自体が機能停止してるのか!?」


話を聞いて戻ってきたゴンドリアの言葉にルピシーが驚く。

俺も驚いた。何故なら迷宮事務所は試しの迷宮のほかにもう一つの未攻略の迷宮の管理も行っている。

いくら試しの迷宮が一時閉鎖されようとも、迷宮が開いている限りほぼ年中無休なのだ。


「じゃあ、今迷宮に潜ってる奴等はどうしてるんだよ」

「普通に潜ってるらしいわ。潜る際には警告文は出したらしいけど、試しの迷宮と違ってあそこは聖帝国籍の人でも潜った際何かあっても自己責任だから問題無しってスタンスなんでしょ」

「いやいや…いくら潜る際に警告出してても、それ以前に潜ってた人たちは何も知らないじゃん。あそこ一度入ったら一週間近く潜る奴がザラだぞ」

「下手したら数ヶ月潜ってる人もいるけどね」


試しの迷宮ではない迷宮は未だ攻略されてはおらず、階層ごとの広さ事態まちまちで、一体何階層あるのかも分かっていない。

しかも試しの迷宮のように一回踏破した階層に直で行けるクリスタルのシステムもあるにはあるが、10階層にひとつや30階層にひとつと階層ごとにばらついている。

なので深い階層に潜ろうと挑む冒険者は長丁場を見越しそれなりの準備をして潜るのだ。


「兎に角、ロゼの友達の情報やそれらしき情報を聞いて回ろう」

「はい!」


結局その日、ラングニール先生を見つけて話を聞くことも、ロゼの友達の情報を耳にする事は出来なかったのである。

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