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Public Star~目指せ若隠居への道~  作者: 黛紫水
第四章 新たなる出会いの章
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第八十七話 目撃(2017.12.7修正)

翌日、俺はルピシーと一緒に試しの迷宮に潜った。

何故ルピシーかと言うと、俺達のメンバーの中でこう言った事に関して一番勘が働くのがコイツだったからだ。

さらに前衛としても一番頼りになるからと言うのもある。


「なぁ、セボリー何か聞こえないか?」

「………俺には何も聞こえないが…公星、お前は何か聞こえるか?」

「キュ~モキュ?」

「ん~~……こういう時こそ野生の勘に頼るか」

「誰が野生だ」


あの二人が証言した階層へルピシーと一緒に向かい探索し始めてから約数時間、ルピシーの耳に何か聞こえてきたらしい。

とりあえずルピシーを信じてついていく事にしよう。


「………確かに何か聞こえてくるな」

「モキュ」

「な?だろ」


歩き始めて5分ほど経つと俺の耳にも何かが聞こえてきた。


動物の公星が認識できない音を、こいつの耳では聞くことが出来るって…

こいつの耳は一体どうなってるんだよ。


少し進むと通路を真っ直ぐ行った右側から光と共に漏れた音が聞こえてくる。

どうやらあそこは通路ではなく部屋になっているらしい。

緊張感に襲われながら恐る恐る近づき、中の様子をそっと伺うと。

「!」


「さて、諸君。例の実験は成功した。また我等の野望に一歩近づいたぞ」

「この実験が成功したのならこれからの工程も捗ることであろう」

「総帥。ここは一気に畳み掛けてしまえばよろしいのでは?」

「いや。まだ時期尚早だ。まだ様子を伺おう、なにせこれはまだ完成してはいないのだからな」


怪しい黒一色のローブを頭から足のつま先まで覆った10人ほどの集団が円陣を組んでいる。

距離も離れており薄暗くて良く見えないが、その円陣の中心に見たことも無い魔法構築式の魔法陣が描かれており異形の物体が横たわっていた。


俺達は話し合うために部屋から少し離れる。


「見るからに怪しいんだが」

「でも何かおかしいぞ?真ん中の物体から何もヤバイ感じがない。それとは別に少し変な違和感を感じたぞ」

「違和感?なんのだ?確かにあの魔法構築式は見たことも無いが」

「いや、なんつーか真ん中の奴に…こう生命力が感じられないというか。あと円陣を組んでいる奴らを見てると…なんか芝居じみてて…まるで演劇の練習をしてるみたいでな。そう思うともう違和感しか感じない」

「この状況と場所で?何のために?俺だったらこんな所で絶対そんなことはしない。ここは試の迷宮だぞ?命のやり取りが発生する場所でそんなことするか?それにこんな所で練習をやってたら内容ダダ漏れじゃん」

「それもそうだよなぁ」

「「……」」

「「!!」」


二人揃って微妙な顔をしながら無言で見詰め合っていると、部屋から先程よりも大きな声が聞こえてきた。

慎重に中の様子を覗き見ると円陣を組んでいる奴等が両手を前方に突き出している。


「時は満ちた!完成まで後一歩だ!これで全てが整う!今再び!再び蘇れ!」

「今こそ目覚めの時だ!」

「我等の悲願!」

「我等の野望!」

「我等の希望!」

「偉大なる古の奇跡の力を我等にもたらすために!」


さっきのルピシーではないが、まるで演劇のようなシーンだと思いつつも奴等を止めようと俺は部屋の中へと飛び込んだ。


「動くな!!」


突然俺が現れたからか、中にいた奴等の肩が大きく跳ねて俺を一斉に見つめてくる。

ルピシーも俺に続き部屋の中へ突入し、奴等を警戒しながら剣を構えていつでも動ける状態を作った。

そんなルピシーを確認しつつ勢い良く奴等へと走りより、円陣の中心にあるものを確認する。

遠目からでは薄暗くて良く分らなかったが、近くで見ると薄気味の悪い物体が横たわっていた。


「お前達何をしていた!これは何だ!?」

「ひぇ!!?」

「何って!?」


顔まで覆っていたローブのフードを下げ顔をあらわにし、恐怖とおびえが混じった声で叫ぶように声を発してきた。


「あれ?バッソさんじゃねーか!」

「……ルピシー知ってるのか?」

「ああ、俺たちより2コ上の先輩だ。こんな所で何をやってんすか?」


見知った顔がいる事に驚いているルピシーだが、警戒したまま話しかけている。


「お、俺達は今練習をしていたんだ」

「練習?なんのだ!」

「演劇の練習だ」

「……………はぁ?」


バッソさんとやらの言葉に頭の理解が追いつかず、たっぷりの間が開き自然と声が出る。


「俺達はサンティアス学園演劇同好会のサークルで、今度公演しようと思っている演劇の練習をしていたんだ。ついでにその公演する演劇の題名は『そのままの自分で』だ」

「いや、別にそこまで聞いてないから。なんで試しの迷宮の中でやる必要がある。俺が見た限り呪術、それも禁術の系統の儀式に見えるんだが。それにこの異形の物体はなんだ!?」

「ああ、これかい?これは俺たちの大道具小道具の制作班と、サンティアス学園美術同好会の粋を集めて作ったモンスター模型の不愉快君13号だ。最初は俺たちの力ではどうあがいても制作できなかったんだが、ラッキーなことに美術同好会に知り合いがいてね、協力してくれたんだ!見てくれ!!このリアルな質感!!そしてこの気持ち悪さを!!!まさに不愉快の権化だろう!!!さらに!!この魔法構築式風の落書きが味を」

「ストップ。その説明は必要無いから。っていうかいらない」


話しているうちにヒートしてきたようで、どんどんと目の動向が開き声の大きさが増してくる。

俺は引き気味にそいつの話を止め、さらに質問をする。


「それで、なんでこんなところで練習する必要がある」

「……いや、それがね…」


バッソとやらは苦々しい顔で事情を説明してきた。

途中ルピシーに先輩なんだから言葉遣いに気をつけろと突っ込まれつつも、演劇同好会のメンバーの話を聞くことになった。

この人の話を纏めると演劇同好会が使っている練習場が他の公演をするメンバーに既に使われており、尚且つこの不愉快君とやらを作るために相当な額を使ってしまったらしく新しい練習場を借りることができず、無料で使える公共の練習場も全て埋まっており、外では演劇の内容がバレてしまうし大声を上げるので周りに迷惑がかかる。

なのでいつでも練習できるように、現在閑古鳥が鳴いている試の迷宮に潜って練習をしているのだという。


「不愉快君のプロトタイプを作るたびに制作班と美術同好会の人の職人魂に火をつけたらしくてね、試作を繰り返した結果俺達に振り分けられていた同好会費の一部が干上がってしまったんだ。いやぁ、困ったね」

「あの時はどうしようかと思いましたよね」

「でも制作班に文句を言っても全く耳が働いていないんじゃないかってほど集中して燃えてたしね」

「そこらで打ち止めでって言おうものなら物凄い勢いでこの素晴しさが云々って力説されたし」

「止めても聞かないというか止まれないって感じだったよね。言うとさらに火に油注いだみたいになっていたし」

「まぁ、使ってしまったものは仕方がない。でも幸いにしてもう15歳を過ぎているから自由に迷宮に潜れて良かったよ。ははははは」

「……………」


沈黙する俺の不穏な空気を感じ取ったのか、ルピシーは俺から距離を取り耳をふさいだ。


「良かったよじゃねーよ!ボケェーーーーー!!!」

「「「「「ヒィイーーーーー」」」」」


どうやらドリルが目撃した怪しい奴らはこの人たちだったらしく、演劇同好会の一人がドリルが床に這いつくばって何かを探しているドリルと豚の姿を目撃していたようだ。

その人の証言では、極彩色のズタ袋を縫い合わせたような個性的な服装をしていたから役作りでもしてるのかなと少し親近感を覚えたと言っていた。

いいえ、違うんです。あれは役作りのためでは無く自作のゴミなんです。

ジジに報告する内容を心のノートにメモっておかなくては…


後に彼らの練習していた劇『そのままの自分で』は公演され、たった一回で学園側から公演禁止作品として指定を受けたらしいが俺には関係のない話なので詳しくは知ろうとは思わなかった。


訳の分からない倦怠感と疲れから重い足を引きずりつつもルピシーと一緒に試の迷宮を後にして、商会事務所に戻りこの話をゴンドリア達にしていると、先程まで事務所にいなかったシエルが顔を見せ俺達にこう告げた。


「どうやら今回の件で国が聖帝国軍を動かすらしい」


俺とシエル以外の全員が目を見開いて驚愕の表情を浮かべた。

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