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Public Star~目指せ若隠居への道~  作者: 黛紫水
第四章 新たなる出会いの章
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第八十五話 お墨付き(2017.12.5修正)

翌日の朝、俺は副院長に宛てて手紙を送った。

今日か明日中には返事が来るだろうと、事務所の自分の部屋に引き篭もっている。

その日の夕方、俺が研究に没頭している時に俺の部屋にノックの音が響き渡り、返事も待たずにゴンドリアが部屋の中に入ってきた。


「セボリー!大変よ!」

「ん?どうしたんだ?」

「試しの迷宮で死人が出たの!それも例の件絡みらしいの!!」

「…詳しく聞かせてくれ」

「あたしも又聞きだから詳しくは分らないんだけど…」


ゴンドリアによると試しの迷宮の低階層で死人が出たらしい。

それも見たこともないモンスターに襲われたのだと言う。

ゴンドリアまで話が流れてきたのは、どうやらその死人はパーティを組んでいたらしく、生き残ったメンバーが他の冒険者仲間に話したかららしい。


この件について考え始めた時、開いていた扉の外からルピシーの声が聞こえて来る。


「大変だ!!セボリー!試しの迷宮で!!」

「今ゴンドリアから聞いた。とりあえずルピシーの話も聞かせてくれ」


ルピシーの話によると、俺が外道の使い魔と遭遇した10階層で狩をしていた時にいきなり見たこともないモンスターが襲い掛かってきたのだと言う。

そのパーティは8人パーティだったらしいが、8人中3人が命を落としたそうだ。

残りのメンバーは命からがら逃げ出してきたようで、例のモンスターがそれからどうなったのか分らないらしい。


俺はルピシーの話を聞いて立ち上がると、出かける準備をし始める。


「何処に行くつもりだ?」

「副院長の所だ。まだ返事は来ないが直接行ったらもしかしたらすぐに会えるかもしれない」

「それはグッドタイミングだね。オルブライト司教様から今手紙が届いたよ」


準備を整え部屋を出ようとした瞬間、シエルが手に手紙を手に持って部屋に入ってきた。


「僕も今帰ってきたところだったんだけど、事務所に入る前に配達の人が来てたんだ。それで事務所に入ってみたら会話が聞こえたんで今大体の事情を把握したって感じだね」


シエルから手紙を受け取り中を見てみると、そこには要約して『いつでも来い』と書かれていた。


「じゃあ、行って来る」

「いってらっしゃい」


太陽が沈む中、俺は一人アルティア司教座大聖堂へと向かう。

大聖堂の扉の前に付くと見張りの衛兵に手紙を見せ、プライベートエリアに入っていく。

途中で顔見知りの人に何人か会ったが、軽く会釈をして早足で司教座へと向かっていった。


「副院長、セボリオンです」

「入れ」


入室を許可され部屋に入るとそこには副院長とピエトロ先生、そして知らない男性がいた。


「失礼します。副院長、今日試しの迷宮で起こった事件はご存知でしょうか?」

「丁度今その事で話し合っていた所だ。専門家にも来て貰っている」

「専門家?」

「ああ、聞く所によると外法外道の術を使っているらしいからな。紹介しよう」


そう言って副院長は知らない男性に視線を向けた。

その男性も一歩前に出る。


「始めまして、我はゼクシオン。ゼクシオン・イクセンティオ・オイレンタール・フォン・ルシェブール・アウディオーソだ。儀式魔法の研究をしている者だ」

「アウディオーソ?………アウディオーソ伯爵家…」

「ああ。ゼクシオン卿はアウディオーソ伯爵の兄だ。普段はシルヴィエンノープルの研究機関で儀式魔法の研究をしている。だが今回の件で調査を行うために学園都市に来ているそのついでにこちらにきてくれているんだ」

「始めまして。セボリオン・サンティアスと申します」

「噂は聞いている」

「………聞かなくても結構です」


簡単な自己紹介も終わり、俺が知りうる事をこの場でぶちまけた。


「成る程、蟲毒か。君が言うそのキメラを作る方法は複数通りある。その中でも強力なものが作成できるのが蟲毒だ。だが、強力なものが出来るがその反面費用も時間もかかる」

「四方に魔石のような物体があって、それに沿って見えない壁のようなものが展開されていました。入るのは自由ですが出ることは出来ないような感じでしたね。その物体は持った瞬間に崩れ落ちましたけどね」

「おそらく精霊石か魔石を加工して作られた物だろうな。その術式を組んで発動させるだけの術力を持つ者か…」

「やっぱり高等魔法にはいるんですか?」

「ああ。だがいくら禁術指定が解かれたと言ってもこの作成方法は本来極秘の筈なんだがな…」

「でも学園の図書館の奥に普通に作成方法が書かれた本がおいてありましたよ?少し遠まわしな書き方でしたけど。」

「何だと!?」


ゼクシオン卿との会話に副院長が混じってきた。


「これは由々しき事態だ。学園は教団の管轄ではないので直接的には変えることは出来んが、学園長や国にちゃんと報告をしておかなければ…」

「あ~、やっぱりあれ異常なことなんですね。俺も見つけて読んでいる最中にあれ?って思いましたけど」

「極秘の作成方法が記されている本が、学園の図書館にあること自体おかしいんですよ」

「確かに我もあそこでかなりきわどい本を読んだ覚えはあるが、流石に極秘の本がそんな場所に…」

「管理がなってない以前の問題だ」

「まぁ、それは置いておいて。これからどうするんでしょうか。俺的には早く犯人を突き止めたいんですけどね」


俺は苦い顔をする3人に話を進めさせるために口を開く。


「そこは学生のお前の領分ではないだろう。それに迷宮の管理は国がしているんだ、教団でもそう易々とは足を突っ込む事は出来ん」

「じゃあ、なんでゼクシオン卿を呼んだんですか?」

「確かに教団は足を突っ込む事は出来ん。ただ偶然に教団に属している冒険者が、偶然に迷宮に潜って、偶然に事件を解決しても何も言われないからな。迷宮事務所で説明を受けた後でこちらへ来てくれたんだ」

「ものは言い様とは言うし俺も人の事言えないですが、迷宮事務所ってセキュリティがガバガバすぎませんか?」

「まぁ、そうだな。でもそのおかげで事件が速く解決したりしているから迷宮事務所もスルー状態だ」

「良いのかそれで…」


前から思っていたがこの国本当に大丈夫か?いくら強大な国力があるとはいえこんなとこしていたらいつか滅ぶぞ…


「しかしこんな短い間隔で蟲毒の儀式をするとはかなりの資金と伝があるものでないと無理だぞ。しかもそれなりに大量の魔力も必要だしな」

「複数犯か支援者がいると言う事でしょうか?」

「その線が強いな…それに先程迷宮事務所で調べたんだが、これまでにも何人か犠牲者が出ているらしい」

「え!?それは初耳です!」

「どうやらその時はいつも被害者が生き残らなかったので表には出ていなかったようだ」

「じゃあ、キメラは野放しのままだったんですか?」

「キメラは良くもっても1ヶ月ほどしかもたない。防腐剤などを使えば3ヶ月はもつが匂いが酷い。おそらく動かなくなって廃棄されたのだろう」

「と言うか犠牲者が出ているのに何で今まで迷宮事務所は公表していなかったのですか!?」

「もしかしたら犯人と迷宮事務所の職員の誰かが繋がっていた可能性がある。この話も書類倉庫のファイルの中に少し書かれていただけだしな。その書類を書いた職員は何ヶ月か前に死んでいるらしい」

「話だけ聞いてるとばっちりその職員と犯人が繋がってるようにしか聞こえないんですけど、それで何か不都合があって殺されたとか…」

「掘り下げたいのは山々なんだが、残念ながらそこまで我が踏み込む権利がないのだ。我は研究員だからな、捜査員ではない」


迷宮事務所もちゃんと管理してろよ。

お役所体質なのはなんとなく分っていたが、犠牲者が出ているのに他の冒険者に直ぐ伝えないって…


「まぁ、とにかく俺は俺で動きます。副院長」

「なんだ?」

「間接的でも良いので協力してください」

「まぁ、私も早く解決したいしな。分った約束しよう」

「絶対ですよ」

「……何か嫌な予感しかしないんだが…」


俺が笑顔で約束を取り付けると、副院長は一歩引いてそう答えた。


「大丈夫ですよ。法律には違反しないように頑張りますので安心してください」

「その言葉で既に不安だ!!お前はまだ未成年だぞ、サンティアスの庇護には入っているとはいえ無茶はするなよ。もしお前が逮捕されるような事があれば大問題になるのだからな」

「うぃーす」

「こら!聞いているのか!」

「さて、約束も取り付けたし俺はそろそろお暇しますね。じゃあ皆様ごきげんよう。言質さえ取れば後はこっちのもんだ。全て副院長に押し付ければいいことだしな…お墨付きって素晴らしい…」

「おい!今聞き捨てならん言葉が聞こえたぞ!!あ!こら待」


俺は勢い良く司教座を出た。


「これで良し」


活気溢れる街を歩きつつ、そう呟いた。








「あれがセボリオンですか。弟から伝令の話は聞きましたが確かに面白い子ですね。今度弟に直接どんな人物か話しておくとしましょう」

「セボリーは昔からあんな感じですからね、見ている分には楽しいですよ」

「聖下にはできるだけあやつの言動を制限するなとは言われているが、先程の言葉が凄く不安だ…」

「ははは、良いではありませんか。我はオルブライト司教の昔の武勇伝を聞かされて育ってきたので大司教様に良く同情しましたよ。さぞ苦労されたでしょうね」

「お前は大司教の孫だろうが!嫌味だったらもっと直接的に言え!」

「いやいや…我や弟妹はまだ又聞きですので良いですが、父上は日常的に愚痴られて育ってきたので大変だったらしいですよ。もし父上がここにいたら嫌味どころではないでしょうね」

「身から出た錆びとは回りまわってくるのですね。私も気をつけます」

「………」


フルボッコ状態の副院長の音にならない声が司教座に消えていった。

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