第九話 準備二
学園入学まで残すところ後1ヶ月ほどだ。
これまでの訓練でステータスの数字が変わってきたんだ。一応開示しておく。
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セボリオン・サンティアスLV1 性別:男
年齢:6歳1ヶ月 状態:健康
体力: 4
筋力: 3
耐久: 3
速度: 3
器用:13(11+2)
精神:12(11+1)
知力:12(10+2)
魔力:14(11+3)
スキル:土魔術LV5・毒耐性LV4・ハムハムLV7・雑食LV4
加護:精霊の祝福2・公星の信頼
契約:魂の使い魔契約
使い魔:公星
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母さん……何もしてないのに雑食のレベルが上がってるよ。
マジでどうゆうことなの?俺何かした?
しかし相変わらず後半の数字が大きいな。
「公星、お前のステータスを見せてくれ」
「モキュ!」
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公星LV2 性別:雄
年齢:230日 状態:腹3分目
スキル:大喰いLV5・雑食LV6・エアライズLV3
加護:セボリオンのハムハム愛
契約:魂の使い魔契約
主:セボリオン・サンティアス
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ふむ、腹3分目は無視無視、大喰いと雑食のレベルがかなり上がってるな。
っていうかお前、いつもふよふよ浮いてたのにエアライズのレベルがあんまり上がってないのはどうゆうことなの?
やっぱり俺のポケットや肩の上とかに乗ってる時間も長いからか?そうなのか?
っは!そうかわかった!浮いてる時間より食べてる時間のほうが長いからだ!!
「………………………………………………」
「………モキュ?」
「………………………………………………」
「………モk「ガシッ」」
「チョエェーーーーイ!!!」
俺は公星の体を掴み全力で放り投げ、飛んでいく公星を眺めつつ「ファーーーーーーーーーー!!!」と大声で叫んだ。
「モキュッ!モキュキュッ!!モッキュー!!!」
浮いて自力で戻ってきた公星は俺に抗議の鳴き声聞かせてきた。
「うるせー!お前一体どれだけ食えば気が済むんだ!この約半年間肉や魚、野菜に穀物系統食いまくってるの見てて調べたら、ピケットってハムスターに似てる癖に食事は野菜中心だそうじゃねーか!!お前の胃袋一体どうなってるわけ!!?」
「モキュ、モキューキュ」
そんなの自分でもわからないと鳴いている様だ。だがそんな事言い訳にはならん。
「黙らっしゃい!大体お前のスキル構成がおかしいわ!!なんなのこの役に立たなさそうなスキル構成!?エアライズはまだいいとして、大喰いと雑食ってなんなんだよ!!」
「モキュー!」
「モキューじゃわからねーよ!!!」
そんなやり取りをしていた時に俺たちの会話をさえぎった声があった。
まるで地獄の底から這い上がってきたかのような声。聴いた瞬間に金玉がキュッとするのを覚えた。
「………朝っぱらからうるさいわよ。あんたたち一体どんな声の大きさしてんの、低血圧のあたしの事も考えなさいよ………潰すわよ…色々」
ゴンドリアの雰囲気に本気で物理的に潰されると感じ、俺は即行動を起こす。
「申し訳ございませんでしたぁ!!」
「モキュキュ!!」
そう。精一杯の謝罪だ。
まさか朝からジャンピングDOGEZAする羽目になるとは夢にも思わなかったぜ。
今日は朝から学園都市に出向いて必要なものを買う準備などをするようだ。なんでも入学手続きと制服の注文、教科書などの購入に学園の下見などをするようらしい。
え?入学試験はって?サンティアスの子供は基本的に入学試験はありませ~ん。
中には試験をする場合もあるが、それは聖育院に入った直後に入学する子だけで~す。
俺たちは日々の生活で必要最低限の文字や計算を教えられてるから入学試験は無いって訳。
多分先生たちが学園に俺たちの学習内容を知らせているのだろうな。そうでなければいくらサンティアスの養い子だろうと入学試験が無いなんて絶対にありえないからな。
「あー…あと少しでここをでなきゃいけないんだなぁ…」
「何よ、ルピシー。不安なの?あたしはワクワクしてるわよぉ」
「俺だってワクワクはあるよ。でも弟妹や先生たちと離れるのがつらいんだよ」
「帰ってこようと思ったらいつでも帰ってこれるじゃん。現に兄さんや姉さん達もたまに顔を出すじゃないか」
ルピシーとゴンドリア、そして俺たちと同じく入学するロベルトが話し始める。
「そうなんだけどな…」
「わかった。知らない人がいるのが怖いのね」
癖の強いブルネットをした女の子リュパネアが話しに加わった
「ちげーよ」
「あんたガルディが一緒じゃないから落ち込んでるのね。弟たちの中じゃ一番かわいがってたもんねぇ」
「な!ち、ちちがうぞ!!」
(((((わかりやすい…)))))
こうやってルピシーをいじって遊んでいた時に『パンパン!』と手を叩く音が聞こえた。
振り返ってみるとプラタリーサ先生が後ろに立っている。
「ほら皆静かに。今年度の入学組みは51名ですね、例年より少ないわね。こちらへ集合しなさい」
プラタリーサ先生は俺達の人数を数えながら集合をかけた。
そこに副院長先生がやってきて
「お前たちはしゃぐ気持ちは分からなくはないが、あまり羽目を外すとプラタリーサが怒るぞ」
「副院長!私を引き合いに出さないでください!!」
と夫婦漫才のようなことをやっている。仲良いなあんたら。
「お前も昔はこんな感じだったぞ。一番はしゃいでたじゃないか」
「昔の私のことは良いですから!さっさと行きますよ!!ほら!!皆さっさとついてきなさい!!!」
あれ?完全に俺たちとばっちり受けてない?
副院長もそんなに悪戯が成功したって顔やめたほうがいいですよ、プラタリーサ先生に蹴られてるし。
「あれ?先生?前学園に行ったときは魔車で行く為に院の外に向かってましたけど、なんで今日は建物の中にはいるんですか?」
「ああそれはな、転移魔法陣があるからだ。そっちのほうが早いし便利だろ」
「確かに便利ですね。でも何で前回は使わなかったんですか?」
「いつも便利なものを使用していると慣れてしまうからだ、一度便利なものを知って浸ってしまうと恐ろしいことになる。慣れと油断は一番怖いことのひとつだ」
「確かにそうですね。俺も裁縫をしている時に調子に乗ってたら針で指を刺してしまいました」
「それにな、お前たちがいつ帰ってきてもいいように、帰る方法を教えるためでもある」
「なるほど…」
俺達の事を考えてくれている発言に心の中が暖かくなった気がした。
転移魔法陣は院内の建物の中にあった。
半径5メートルほどの複雑な記号や文字やら絵などが描いてあったが、全く理解することが出来ない。
ぶっちゃけコレって暗号だよね?
「さぁ、皆この中へはいりなさい。心配することは無い一瞬で着くからな」
「もしかしたら悪い子は違う所にと飛ばされるかもしれませんよ」
「プラタ…」
「私の入学時に先生が今と同じことおっしゃってましたよ」
「ぐっ……」
はは、やり返されてやんの。
あ、やべぇ。笑い顔が出ていたらしい、副院長に睨まれた。
「『io@+%<H=(サンティアス学園前)'|*+Я』」
何いってるのかわからねぇ…と思った瞬間に視界が光に満ち、気が付いたらものすごく広い空間にでてきた。
人がたくさん行きかっている、ここは駅みたいなものか?
「皆。サンク・ティオン・アゼルス学園へようこそ」
「1ヵ月後にお前たちの学び舎になる学校の登竜門みたいなところだ。」
「登竜門ですか。俺はてっきり駅だと思いましたよ」
「言い得て妙だな、まぁここの場所の名前自体が駅みたいなものか。サンティアス学園前移転陣だからな」
「すげー…」
「みんな見てるわ」
「こわい…」
兄弟たちが驚愕と興味、恐怖などを見せているなか、先生たちは「こっちだ早く行くぞ」とどんどん前に歩きだす。
それに俺達は慌ててついていった。
20分ほど歩いてある一軒の店の前に止まった。
どうやら外観からして服屋らしい、ゴンドリアが異常なほど興奮している。
「ここは学園指定の制服製作の店のひとつだ。院内の子供は昔からここで制服を仕立ててもらっている」
「先生、俺たち育ち盛りだからすぐに制服が合わなくなると思うんですが…」
「セボリーはやはり聡いな、聖育院指定のこの店の制服は普通の制服とは少し違うんだ」
「え?違うとは?」
「服自体が魔道具なんだよ。着用者の体に合わせて大きくなったり小さくなったりする。ある程度の汚れと臭いも日光に当てれば分解されていくように作られている」
「なにそのファンタジー」
「ふぁんたじー?なんだそれは?」
「いえ、独り言ですので気にしないでください」
「では入るぞ」
カラァンコロォン
ベルが付いた扉を開けるとそこには布、布、布で溢れた棚とたくさんのマネキンに服が飾られていた。
「すごいわ!!なんて綺麗な生地なの!こんな仕立のいい服がたくさんいっぱいあるわ……あたし今日からここで暮らすわ!!」
兄弟たちがゴンドリアにドン引きしている。
そこに誰かがこちらに歩いてきた。その顔には満面の笑顔が湛えられていた。
「はは、褒めてくれてありがとう。職人冥利に尽きるよ。先生お久しぶりです」
「ああ、久しぶりだな。元気そうで安心したよロディ」
「そりゃ、もう健康だけが取り得ですから」
と笑いながら先生たちに30代ほどの青年が話しかけてきた。
「お前たち、紹介するぞ。こいつはサンティアスの卒業生、つまりお前たちの兄のひとりだ」
「ロディアス・ラウド・サンティアスだ。よろしくな、弟妹たち」
そう言って先程よりも大きな太陽のような笑い顔を見せた。
先生達が少しロディアスさんと話をした後、ロディアスさんは直ぐに仕事に取り掛かった。
速い……51人分の採寸と数人分の簡単な仮縫いをもうやってる……まだここにきて2時間もたってないぞ。
どうなってるんだ、あんたの腕は!
俺たちの驚愕といった顔とゴンドリアのラリ顔をみてロディアスさんは苦笑しながら説明をしてくれた。
「職業柄人の体型見ただけで大体の寸法はわかるからさ、そんなに時間は掛からないよ。魔道具を一から作るんだったらものすごく慎重になるけど、実はこれ生地の段階である程度魔法が掛かってるからそんなに慎重にやらなくても良いし」
いや、生地とかの問題じゃなくて技術の問題です。なんですかその圧倒的なスピードと仕上がりは!?
「いやいや、俺も裁縫とかしますけどそんなの絶対無理ですって。ここでラリ顔を晒してるゴンドリアも針が見えない位の速度で縫い物しますけど、ロディアスさんはそんな生易しいレベルではないですって」
「慣れだよ慣れ」
はははと笑いながら動き続ける手にゴンドリアは釘付けだ。
まるでショーウィンドウのトランペットを見る少年を100倍ヤバくした感じと言ったら理解してくれるだろうか。
「うぉぉぉおおおお!!!師匠と呼ばせてください!!!一生付いていきます!!セボリー邪魔じゃぁああ!そこにいたらあの繊細かつ大胆でいてセクシーな指使いと技術が見れないじゃないの!!!」
「ぬお!すんませんでしたぁ!!」
「まぁまぁ、落ち着いて。それに僕はまだ独り立ちして10年ほどだから職人としてはまだまだだよ。師匠なんて呼ばれるほどの腕ではないよ」
「謙遜は時には残酷に人の心に傷をつけますよ!!」
やばい、ゴンドリアがこんなに逝ってるの初めて見た。
その時、俺はあるものを見てしまった。
「あ、公星!!」
公星が仮縫い中の服の生地の中で遊んでいた。
「おい、公星やめろ。戻ってこい!!」
ガチャバターーーン!
ガシッ
「どっせぇぇえーーーい!!」
ゴンドリアが窓を開けた後、流れる動作で公星を掴み
投げた。
「モキュウウウゥゥゥゥゥゥゥゥ……」
「公ーー星ーーーー!!!」
そして公星は星になったのだった。
「ファーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!」
その10分後、何処で貰ったのかわからないがクッキーを口に咥えて無事に戻ってきました。