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Public Star~目指せ若隠居への道~  作者: 黛紫水
第一章 別れと出会いの章
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第一話 毒殺?転生?憑依?

俺は今まで自分自身で自負できるほど平々凡々な人生を送ってきた。

幼稚園から公立小学校に入り、それなりの県立中学校へと進み、それなりの県立高校を選び、それなりの国立大学を受験し、人並みの交友関係を築き、そして人並みな異性交際をしてきた。


 どこで間違えたのだろうか……どこで踏み外したのだろう……



そうだあれは大学四年生の2月、就職活動も去年の11月に終えそれなりの会社に内定をもらい気楽な学生生活もあと少しかと呆けていた時だった。

ヴァレンタインデーの義理チョコを女友達から貰い、彼女から貰った本命チョコを彼女と一緒に談笑しながら大学の学食のテーブルで食べていたんだ…

まず彼女からのチョコを食べ当たり障りのない褒め言葉を口にし、しばらくして義理チョコを齧った数秒後、俺は急な呼吸困難に襲われた。


「…ん?なんだこれ…!…苦しい…!息…が…出来…な…………」


「どうしたの?ねぇ!!しっかりしてよ大丈夫!!?」

「っ!!」


薄れ行く視界の中で俺が最後に目にした光景は、彼女が必死な形相で俺を呼びかける姿と、女友達が少し後ろのテーブル席で恐ろしいほどの無表情でこちらを見ている姿だった…


「マジか…よ…」と声にならない呟きを漏らしながら俺の意識は暗転していった。


世堀公輔せぼりこうすけ 享年22歳 死因:毒物が原因の呼吸困難による窒息死。












視界がゆっくりと開け明るくなってきた……



「……ん?」


暗転していた意識が次第に晴れてきたがまだ頭が寝ぼけた感じがする…


「お~~い!!セボリー何ボーっとしてんだ!?早くしないとお祈りの時間始まっちまうぞーー!!」

「っあ…おぅ!!わかった~~!すぐ行く~~!!」


5歳くらいの男の子が俺に向かって声を張り上げている。俺も咄嗟に手を振り返事を返した。 そして男の子は俺の反応に満足したのかそのまま白い建物の中へと元気よく入っていった。 

咄嗟に返事をした自分の声と振り上げた腕に意識を移した瞬間にあることに気付く。


「ありゃ?俺ってこんな声高かったけか?あるぇ~…っていうか手ぇちっさ!!!」


ん~~?何この状況?もしかしたらまだ夢の中?…あれ?現実ってなんだっけ?


  うん、わからん!!!


これ以上考えても仕方が無いのでとりあえず今は流れに乗って建物の中に入っておこう。


建物の中に入ると知らない筈なのに知った顔の男女達がいた。

ああ…そうか。そうだ物心ついた時から一緒にいる奴等ばかりじゃん。先生達も兄姉弟妹達もいると、まるで頭の中の記憶のジグソーパズルが一つ一つはめられていくような感覚を覚えた。


段々と意識が覚醒してきたぞ。ここは……サンティアス…っ!そうだ俺はセボリーだ!…でも世堀公輔でもある…


22年間の記憶はなんとなく思い出してきた。そしてこの体の記憶もまるで昔にインストールしてあったアプリを開き、そう言えばこんな感じだったと言う様に思い出してきた。

いや、思い出したんじゃなくて理解したんだ。俺ことセボリーと世堀公輔の記憶は交じり合ってる…つまりどっちも俺だ…

今流行の転生か憑依か解からないが、今俺の置かれている状況はなんとなく掴めて来た。

ここはフェスモデウス聖帝国アルゲア教直轄領アルグムンのサンティアスだ。サンク・ティオン・アゼルス聖育院、略してサンティアス。

………そして俺の名はセボリオン・サンティアス。


「セボリー、思案し考える事は尊く素晴らしい事だがお前は自分自身の中に閉じこもる癖があるな。もう少し周りの事に注意を払いなさい」


思考の波に飲まれそうになった俺の頭上から優しくも厳しい声が聞こえてくる。灰色の長い髪に白いローブのような格好をした50歳代くらいの男性が声をかけてきたのだ。


「っ!…はい先生。努力します」


その言葉に俺は咄嗟に顔を上げ返事をした。


「よろしい、では皆今日も朝のお祈りを捧げよう、精霊のご加護がありますように」


「「「「はーーーい!!!セイレイのごかごがありますように!!」」」」



朝のお祈りを捧げた後別の建物の中に入り朝食を食べ、各々が決められたことをしていく。

あるグループはしゃべりながらバザーに出す品物や日用品の物作り、あるグループは庭で遊びながら畑仕事、あるグループは年長者に指導を受けながら洗濯や掃除をする。いつもと変わらぬ日常的な光景だ。俺達は物心つく前から何年もこうやって生活をしてきたんだ。


「普通に会話してるが、日本語じゃないのに理解できるし。これは決まりだな」



この世界は世堀公輔の世界、つまり地球では無い。地球に良く似ているが違う世界だ。

まず最初に、先程『精霊のご加護』と言ったがこの世界には本当に精霊はいる。そして魔法もある。が神はいないらしい。アルゲア教の経典には太古の昔にはいたらしいが、今はもう存在しない事になっているようだ。今その神のような信仰の対象になっているのはこの世界に存在している精霊らしい。


精霊にも種類はあるらしく、まずは自然界の力を受けて誕生する精霊だ。

分かりやすく言うと大地の力が集まり結晶化され命が吹き込まれた者が土精霊、海や湖または川の水の力で生まれたものが水精霊と言うらしい。だが、どの精霊も自然や現世に干渉出来るため一括りで精霊と言われている。


また動物などの生命体が偶然力を手に入れ長命化し肉体の呪縛から解き放たれ、精神体から現世への力の干渉を出来るようになったものも精霊の一種と言われる。ここで重要なのはただ長命化しても精霊になれるわけではないらしい。なにか特別な事を成さなければ動物は精霊へと進化できない。


そして最後、長年使い込まれた道具や武器などが何かの理由で意思を持ち、本来の姿とは違う姿になり自分の意思で動け精神体から現世への力の干渉を出来るようになったものも精霊という。

これは日本で言う九十九神のようなものらしい。


この3種類の存在をこの世界の住人は『精霊』と呼び敬ってきた。いや、違うな。この世界ではなくこの国とアルゲア教の信徒たちだ。

俺が住む国、フェスモデウス聖帝国はこの世界で最も広大な国土を持ち、最も巨大な力を持った国であり、アルゲア教を国教とする超大国である。


そしてその超大国の中にあるアルゲア教の大本山アルグムンを擁する領地の一角に、俺達が暮らすサンティアス聖育院がある。

サンティアス聖育院は様々な理由で親が育てられなくなった子供達の孤児院のようなものだ。

唯このサンティアス聖育院とはただの孤児院ではない。国とアルゲア教団の完全バックアップで運営されている国営施設なのだ。

ただの国営施設と思ってもらっては困る。サンティアスは昔から様々な優秀な人材を輩出してきた。サンティアス聖育院に属する子供達は例外等もあるが、無料で国とサンティアス直轄の学園、サンティアス学園という学校で教育を受けられる。

サンティアス学園は世界中の学校の中でも最高峰の教育機関であることは他国人でも認める程であり、正にこの世界の最先端の最高学府だ。

その教育を受けさせたくて他国の親は子供を留学生として、または孤児と偽りサンティアスに送り込まれる子供も多い。

サンティアス学園の敷地は広大で最早都市と言われる程広さがあり、それ故学園都市とも呼ばれている。学園全体が都市としての機能を果たし、商店や工房、はたまた歓楽街など商業施設も存在して学園に住む人の雇用と供給を賄っていた。

雇用と供給があると言う事は金の流れが出来る。そのため学園都市はフェスモデウス聖帝国の中でも有数の経済都市であり、学問や文化における最先端の都市でもあった。 

そしてなんと言ってもこの学園都市には迷宮と言う物が存在していた。そのためその恵みを少しでも受けたい者は挙ってサンティアス学園都市へと向かっていった。


俺が住む国フェスモデウス聖帝国は一万年以上という冗談のように長い国の歴史の中でずっと聖帝国はサンティアスの者達を見守り保護してきた。

アルゲア教は別名精霊教と言われ、フェスモデウス聖帝国の国民の安寧を祈り精霊に感謝しながら非営利的に活動する宗教団体だ。

なぜ非営利で活動できるかと言うと、教団のトップがフェスモデウス聖帝国の元首、つまり聖帝聖下だからだ。日本の天皇と同じく国の元首であり宗教的集団のトップでもある。

なので運営のお金のほとんどは国のお金だ、そして貴族やサンティアス出身の人々達からの寄付や、一般の市民からの寄付(お金では無くとも現物)で成り立っている。


サンティアスの子供たちは基本的に自分の苗字はサンティアスと名乗ることが一般的だ。それはいくつか理由がある。

まず一つ目は子供同士の差別をなくすため。


孤児院では皆が平等でなくてはいけない、何故なら家族だからだ。喧嘩や揉め事もたまにはあるが、本格的にいがみ合ったりする事はない。後腐れの無くその日の晩に寝て朝起きればいつものように笑い会っている。正に家族である。


二つ目は本当の名前が分からない者がいるからだ。


サンティアス聖育院にいる子供の半数は、生まれて直ぐに他国の人間が国境付近に置き去りにした子供達。つまり聖帝国が拾った捨て子達だ。

なぜ子供を置き去りにするかというと、フェスモデウスは豊かな国だから。

広大な国土と肥沃な大地、そして優秀な技術と人材を有するこの世界一の大国である。

なので他国の貧しい人々は子供の将来を思い、親元で貧しい生活をするならばと聖帝国でサンティアスの養い子として生きて欲しいと願い捨てられる。

勿論中にはある程度裕福な者で、聖帝国と関わりを持ちたいがために故意に捨てられるケースもある。

ワザと捨てられてたため名前や身元身分の分かる物を持たされている事が多いが、聖育院では15歳の成人になるまで何も教えないし知らさないし、後に成人して知らされたとしても、自分はフェスモデウス聖帝国人のサンティアスの子だからと今まで名乗っていた名前のままか、今までの名前に元の名前を付け加えて名乗る者が多い。

たとえば本名が『イヴァン・ボルト』で今まで名乗っていた名前が『イヴァン・サンティアス』だった場合『イヴァン・ボルト・サンティアス』か『イヴァン・サンティアス・ボルト』といった感じで名乗る。故にこの国ではサンティアス姓がたくさん存在し、街中を歩いて石を投げれば必ずサンティアス姓に当たる程だ。

もし未成年者が自分の他の名前を知っているのだとしたら、それはサンティアスに入る前の自分の名前を覚えているからである。


三つ目は奴隷の子供がいるからだ。

この国には奴隷制度がある。奴隷といっても普通に想像する奴隷ではなく使用人のような者と考えてくれれば良い。

奴隷にもちゃんとした人権はあり、奴隷を所有する者は雇用給金義務が発生し、労働環境も週に一日は休みを与えなければならない。

更に過度な労役や体罰、理不尽な命令や要求も法律で禁止すると記されている。

監察官もキチンとおり、守られていない場合雇用主に重い罰則が下るし、人として必要最低限の保障はされており、前世のブラック会社の社畜よりもマシであった。

フェスモデウスは長い歴史の中で自ら戦争を仕掛けたことは無い。

しかし仕掛けられる事が多くその度に打って出る事が多々あった。

そして必ず圧勝してきた。

そうした戦争の捕虜や他国人で聖帝国内で犯罪を起こした者、元々聖帝国人だがある一定の犯罪を起こし国籍を剥奪された者が奴隷となる。

聖帝国人で重大な犯罪を起こした場合は国籍を剥奪の上、国外追放か死刑または生涯苦役である。

生涯苦役の場合は人としても認められない。

コレはそれだけの罪を犯したという戒めであり、死刑より生涯苦役のほうが罪が重いのは後に罪人に下る罰の重さだからだろう。

ついでに他国人の重犯罪者は即生涯苦役のようだ。


他国人の捕虜奴隷は永久にフェスモデウス聖国籍は取れないが、元聖帝国人の犯罪奴隷はある程度罰を受けた後に給金から貯めた金で自分の身分を買いなおせる仕組みになっている。

捕虜奴隷は結婚は出来るし奴隷の地位も子供に引き継がせる事も無く、基本的に国内で生まれた者はフェスモデウス聖帝国籍になる。

しかし、奴隷の賃金では子供たちに十分な生活や教育がさせられないと考えサンティアスに子供を託す親が多いのだ。


サンティアス学園で教育を受ければ自ずと手に職をつけられたり知識も学ぶことも出来る、つまり選択の余地が多く出来る。

もちろん親元で育つ子供もかなりいるがな。

こうして、託された子供達も本当の名前を成人になるまで知らされることはないし、親の名前や顔や地位を知らされることは無い。そして、親も会うことを許されない。

15歳になり全てを知らされた後に初めて親や親戚と関わり合うか自分で決めさせることになる。

そうやってサンティアスの子供は兄弟たちと親代わりの先生達と国と国民に見守られ健やかに成長していくのだ。

それはまだ5歳児のセボリーこと俺でも知っているようなこの国では常識的なことである。


一日が終わり兄弟と部屋で眠りにつくと、世堀公輔とセボリーの記憶がより一層交じり合うのを感じる。


「両親は泣いてるのかな…って言うか彼女には一生もののトラウマ植え込ませちゃったな…友達だと思ってたけどあいつ……もう会うことは無いと思うが、次に会ったらただじゃおかん。とりあえず、明日から色々考えよう……」


俺は深い眠りにつくのであった。

2016.6.27修正

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[気になる点] 一話でいきなり説明多すぎるような…この説明今要る?
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