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小さなサンタクロース

作者: 高橋まりあ
掲載日:2014/12/20

「ねえママ、サンタさんはみーんなのお家に来るんじゃないの?」

すっかり暗くなった夕方、お台所では今夜のごはんがお鍋でぐつぐつことこと。ママは包丁でお野菜をとんとん切りながらお返事をします。

「どうしたの、けんちゃん。」

「だからぁーサンタさん!みんなのお家に来るんじゃないの?」

ママは切り終わった野菜をお鍋に入れ、けんちゃんの前にしゃがんでけんちゃんのお顔をじっと覗きこみます。

「なにかあったの?」

ママの心配そうな顔をみてけんちゃんはちょっとずつお話を始めました。

 お鍋からは美味しそうなぐつぐつことことという音が聞こえています。


 それは今日の幼稚園でのことです。けんちゃんたち年長さんクラスの子たちは先生と一緒にクリスマスツリーに飾りつけをしました。きらきらしたお星さまや、サンタさんのお人形、雪だるまさん、小さなくつした、みんなで一生懸命に飾ったので、いつもよりずっと綺麗でかっこいいクリスマスツリーになりました。けんちゃんもみんなも大満足でにこにこしています。

 それなのにあいちゃんだけがさびしそうなお顔をしています。けんちゃんはあいちゃんが心配になりました。いつもは他の誰よりもにこにこしているあいちゃん。

けんちゃんは先生がみんなに一枚ずつくれたサンタさんの形をしたクッキーをあいちゃんにさしだしました。

「あいちゃん、あげる。」

あまいお菓子が大好きなあいちゃん。いつもなら「おいしい。」といってにこにこ笑ってくれます。だから、けんちゃんはクッキーを食べたらあいちゃんが元気になってにこにこしてくれると思ったのです。

「あい、サンタさんなんかいらない。」

プンとあいちゃんはそっぽを向いてしまいます。

「あげる。」

「いらないったら。」

もう一度差し出したけんちゃんの手をあいちゃんはひっぱたきました。

けんちゃんの手から落ちたクッキーは床にぶつかってくだけてしまいました。

けんちゃんはびっくりして目をぱちくりしています。あいちゃんはいつもにこにこしている優しい女の子です。誰かをたたくなんて初めてのことでした。

「うわぁぁぁん。」

けんちゃんは大きなお声で泣きはじめました。すると、あいちゃんも一緒になって泣きはじめました。

けんちゃんとあいちゃんはわんわんいっぱい泣きました。駆け寄ってきた先生がけんちゃんとあいちゃんをいいこいいこしてくれましたが、それでもずっと泣いていました。


けんちゃんはママに一生懸命にお話ししました。

「あいちゃんね、サンタさん来ないんだって。」

けんちゃんはお話の最後にぽつんと淋しそうにそういいました。ママはけんちゃんを優しく抱きしめます。

「けんちゃんえらかったね、頑張ったね。」

「ママ、サンタさんはあいちゃんのところにも来るよね?」

けんちゃんは不安げなそれでいて期待のこもった目をしてママを見つめています。

ママは抱きしめたけんちゃんをそっと離し、けんちゃんの目をじっと見つめてお話をします。

「来ないこともあるんだよ。」

けんちゃんは目を大きく開いて驚いてから悲しそうなお顔になります。

「どうして?あいちゃん、いい子だよ。」

ママは勿論というように静かに頷きました。

「ねぇどうしてなの?」

けんちゃんは一生懸命ママに尋ねます。ママは優しく、けんちゃんに語りかけました。

「あのね、けんちゃん。サンタさんはいいこにしてても来ないことがあるの。」

けんちゃんにはママの言っていることがよくわかりませんでした。

毎年、けんちゃんはサンタさんからプレゼントとクリスマスカードを貰います。けんちゃんがお友達とけんかしてしまった年も、ママに妹がほしいと駄々をこねた年も、ちゃんとけんちゃんにはプレゼントが届きました。

「けんちゃん、あいちゃんの分のプレゼントはね、きっと他の子どもたちのところへいってしまったの。あいちゃんのパパとママは優しいあいちゃんになってほしくてきっとそうしてくれるようにサンタさんにお願いしたのよ。」

ママは困った顔をしていました。けんちゃんはママのお話がよくわからないままでしたが、困ったママと「優しいあいちゃん」という言葉できっと本当は良いことなのだと思いました。

 しかし、これではあいちゃんはにこにこしたいつものあいちゃんに戻りません。クリスマス、あいちゃんのところにサンタさんは来ないのです。けんちゃんは困ってしまいました。涙がぽろぽろぽろぽろけんちゃんのおめめから流れだします。

「どうしたらいいの、ママ。」

涙でぐちゃぐちゃの顔をしてけんちゃんはママに尋ねました。

 ママはいたずらっ子のような顔をして優しくけんちゃんに言いました。

「けんちゃんがサンタさんになってあげたらいいのよ。」

けんちゃんは小さなお手てで涙をごしごしと拭いながら首をかしげました。ママはにこにこ笑っています。


 クリスマスイブの1日前、カレンダーの数字が赤いお休みの日のことです。ママは朝から何やら張り切っています。お気に入りのクマのぬいぐるみを抱いたけんちゃんは大張りきりのママに尋ねます。

「ママ、どうしたの?」

「けんちゃん、サンタさんになる準備をしようね。」

けんちゃんはびっくりしてから大きく頷きました。

 あれからけんちゃんはあいちゃんとお話が出来ません。悲しそうなお顔ばかりのあいちゃんを元気にしてあげたいのに、けんちゃんが近づくとあいちゃんは逃げて行ってしまいます。それに、サンタさんになったらいいというママはにこにこするばかりでどうしたらサンタさんになれるのかはずっとヒミツのまま。けんちゃんはトナカイさんのそりももっていないのにどうやってサンタさんになればいいのか不思議でならなかったのです。

「さぁ、お買い物にいきましょう。」

「うん、ママ。」

けんちゃんはわくわくしてきました。きっとこれからトナカイさんのそりと素敵なプレゼントを買いに出かけるのです。

 けんちゃんがママと手を繋いでスキップしながら着いたのはいつもお買い物をするスーパーでした。このスーパーにはけんちゃんも大好きな戦隊物のお菓子は売っていますが、トナカイさんのそりも、素敵なプレゼントも売っていそうにありません。

「ママ・・・。」

がっかりしたけんちゃんとは対照的にママはるんるんにこにこしています。

「ほーら、けんちゃん早く!」

ママはお買い物かごを手に意気揚々とスーパーのどこか決まったコーナーへ進んでいきます。けんちゃんはママを慌てて追いかけました。けんちゃんは次々と何かをかごに入れていくママを見ながらこう考えました。もしかしたらスーパーでのお買い物のあとにどこか別の場所へ行くのではないかと。

 しかし、いつも通りにレジで支払いをしたママはにこにこしたままお家へ向かっていきます。


 帰るなり台所でエプロンをつけたママは、けんちゃんにも小さな青いエプロンをつけてくれました。ダイニングテーブルの上にはさっき買ってきたばかりの小麦粉、グラニュー糖、卵、バターと大きなボウル、泡立て器、オーブンの黒い鉄板、麺棒などとお星さまやツリーの形をした小さな型。

「けんちゃんサンタさんは、あいちゃんに美味しいクッキーを作りましょう。」

そう高らかにママは言いました。

「ママ、あいちゃんはいらないって言ったよ。」

泣きだしそうなお顔のけんちゃんにママは優しく、楽しそうに言います。

「任せて!とびきり美味しいクッキーだもの。あいちゃんもけんちゃんサンタからなら喜んでもらってくれるわ。」

けんちゃんは少し不安でしたが、大好きなママが大丈夫だというのですから信じるほかありません。それに、けんちゃんにはクッキーを頬張るにこにこしたあいちゃんの顔が浮かびました。けんちゃんもにこっと笑います。


 はじめてのクッキーはとっても上手には作れませんでしたが、小さな手で泡立て器を使ったり、生地をのばしたり、お星さまの型を抜いたり、けんちゃんは一生懸命に頑張りました。味見に一枚クッキーを食べると甘くて優しい幸せがけんちゃんのお口いっぱいに広がります。

 ふわふわやわらかい匂いに包まれながら、クッキーをプレゼント用の可愛い袋に入れました。ママに手伝ってもらって、初めてちょうちょ結びも出来ました。

けんちゃんは明日の幼稚園が楽しみで仕方ありません。きっとあいちゃんはいつものにこにこ笑顔を見せてくれるに違いありません。けんちゃんはわくわくしました。


次の日の幼稚園からの帰り道、けんちゃんはスキップしながら歩いています。隣りでお手てを繋いでいるのはママではありません。

「けんちゃんサンタ大好き!ありがとう。」

いつものにこにこした顔のあいちゃんにけんちゃんもにっこりとお礼を言いました。

「あいちゃんありがとう。」

けんちゃんサンタはあいちゃんから素敵な素敵なプレゼントをもらったのです。誰よりも素敵なあいちゃんのにこにこした笑顔を。


 人は誰でもサンタさんになれます。

誰もが持っているとても素敵なプレゼントを贈ってみませんか。きっとあなたも素敵で優しい世界一のプレゼントを受け取ることが出来るでしょう。


よかったね、けんちゃん。


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