お城へ
「何か言い訳は?」
「この人達を助けていました」
今現在、目の前で信じられない光景が広げられている。
男が腕を組み、仮にも女王であるユミを正座させて説教をしている。
男は重装鎧を着ており、その上に白いマントを着ている。言うなれば聖騎士。パラディンと言う名前が似合いそうな男だった。
そこで、女王である彼女に説教をできる人を『古書』の中から思い出していたが、白夜に急かされて深く呼んでいない事を思い出し、名前も出なかった。
名前を読んだ場面は、『ミユ』『カリスト=ナーガラージャ』そして『電光ユミ』だけだった。
小林ミユと名乗った時に、気が付くべきだったのだろうが、まさか過去に来ているとは思わなかったから分からなかった。
「それで、あなた達は一体何者なのです?」
説教が済んだのか、男の人がこちらへと近づいてくる。その間もユミは正座のままだ。
「みんな迷子だって。何らかの理由でだと思うけど、〝クロノス〟に飛ばされてきたんだと」
「〝クロノス〟に? ……また厄介事に関わったのですか」
額を押さえる男。すると、ユミがその頬を膨らませていた。
「む~。世界が平和になるまでは他の国と関わるんだから別にいいでしょ。それに、その人達未来人だよ。七千年以上先のね」
「七千……って、なんで分かるのです?」
「年号があるんだってさ。私達の時代もそろそろ年号欲しいんじゃない?」
「そうですか。私は電光エクト。特に目立つ事はしていないので二つ名はありませんが姫様の補佐をしております。と言うよりも私が電光王国の政治をほとんどしているのですが」
年号と言うユミの提案を軽く無視して皮肉を言いながら自己紹介してくるエクト。
それよりも、名字が気になった。
「電光?」
ボクはエクトにそう聞くと、エクトは案の定と言うように話してくれた。
「最近までは雷光エクトと名乗っていました。最近私は此処に居る姫様と血が繋がっている事を知りまして、私は改名しなくて良いと言ったのですが、姫様がどうしてもと聞かなくて……。ですので、名字を戻させていただいたのです」
「私の兄だったりする」
ユミが兄だと証言する。
その割には彼の髪色は白銀色では無く金色だ。
「どうして電光と、雷光が?」
「簡単よ。本家と分家の間柄。私の祖父、つまり本家が電光と言う姓でね。分家の姓が雷光なの。で、エクトが分家……と言う訳じゃないの。エクトは私よりも先に本家に生まれた。その次に私が年子で生まれたの」
「まぁ詳しい事はあまり聞かなくてもいいでしょう」
ピンッと指を鳴らしたエクト。
するとすぐそばに何人かが膝をついて傍に控えていた……のではなく、一人の白銀髪の少年がイスに座って手元にある何かをいじっている立体映像として映し出されていた。
「城に帰ります。客人が四人いますので、お持て成しできる料理を作っていただくよう、雪美さんにお願いいたします」
『分かってるよ。ここから千里眼で見てたからね。お母さ~ん、帰ってきたら僕と夕飯のデザート賭けた将棋しようね~』
お母さん!?
ボクはぎょっとしてユミを見る。どう見ても彼女は十代後半にしか見えない。なのに少年と言われるぐらい成長している子供が居る。
ど、どどどうなっているの!?
「嫌だよ!? セルスとやったら百パーセント私負けるじゃん!?」
『あははっ。お母さん単純だもんねぇ。お母さんの世界のお遊戯なのに、今では僕が最強だもんね。それじゃあ、お客様待ってるよ~』
ボクが親子であるかと言う関係を聞く前に、セルスと呼ばれた少年の立体映像はそこで消えた。
仕方無いので、後で聞く事にした。
なんだかたくさん聞く事が出来てしまった。
今の通信技術に驚いていると、エクトがユミを正座から立たせていた。
「あ、足痺れた……」
「ほらほら、さっさと立つ。ではみなさん、ここから歩くのもなんなので帰還用テレポートを使いましょうか」
その手に透明に近い色の粒子が付いた紙を取り出し、それを地面へと投げた。するとそこから魔法陣が展開された。
今のエクトの会話からテレポートだと言う事はわかったが光系統か、闇系統かさっぱりだった。
魔力粒子の色からどちらの系統魔法で無い事は明らかだ。透明と言うところも気になる。透明は、ボクの魔力と同じ空白色を思い出したからだ。
「どうぞ」
「じゃあ先に行くね」
ミユがその魔法陣の上に乗ると、瞬時に消えた。
何の属性かは分からないがテレポートをするという所は同じようだ。
「私も先に行くよっ」
今度はユミが入り、消えた。
ボク達は顔を見合わせて、エクトに勧められた所でその魔法陣の上へと立った。
目を瞑る。
それはテレポートによる為の物ではなく、誰もがなる自然現象だった。
目の前の景色が暗い外の平原から、明るい室内へと変わっていたのだ。
「す、すごい……」
「マジか……」
「見ただけでも……」
「お嬢様……」
目が慣れてきてから見回す。
この部屋は何千人以上も入るような大部屋で、そんな部屋を明るくしているのは電球が付けられたシャンデリアと、それぞれの柱に綺麗な電球だった。
天井も大きく、二階と思われる場所が此処から丸見えだ。階段からその場所へとあがる事ができる。
しかし、今はこの場に人が一人もいないので静寂に包まれていた。少しさびしい空間だ。
「ここは大広間でね。塔の一階全てを使ってるの。普段は人が一杯要るんだけど、たぶんみんな食堂に行ったね……」
ユミが説明をしてくれる。
「え? 一階全部を!? あの、階段で上がった場所……は?」
「あそこも一階の内だよ? 二階は私の部屋だからね。はぁ。そんなに大きく無くても良いって言ったのに、町のみんな聞いてくれなくて……。なんて言ったと思う? 『ご謙遜を姫様。私たち一同、立派なお部屋を作って参ります!』って言ったんだよ? 何とか部屋を二階って事にはしてくれたんだけど……」
どうやら二階全部が彼女の部屋らしい。一階でこれだけ広いのだから彼女の部屋もさぞ広いのだろう。
「ほら、みんなそんな所で話してないで五階に行くよ」
ミユに先導されて、一階にあるいくつもの魔法陣を眺めながら中央にある魔法陣の上に乗った。
「みんな乗った?」
「ええ、俺を入れて全員」
「それじゃあ、転移・五階!」
ミユがそう叫ぶと、景色がまた一転した。
そこは廊下が出来ており、真っ直ぐ進むと左右に扉がいくつかあり、もっと進んだ前に両開きの大きな扉が鎮座していた。
その向こうからはたくさんの人の気配がする。
エクトとミユが前に出て、両開きの扉のノブをそれぞれ掴んだ。
そして、扉を開いた。
まずはじめに飛びこんできた物。それは光を反射して綺麗に輝いている、
――なぜか十字槍の矛先が向かってきていました。
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