Intermission 口無 白夜(ハク・ローズマリー)+ルナ
「…………デューク」
「え? なんだって?」
傍に居た竜田が聞き返して来るけど私はそれを無視した。
白い塔に住み始めて一ヶ月。ショウから何度かの戦争を仕掛けられるもそのすべては私と竜田とその他大勢で迎え撃っている。
他の名付きの五刑囚と七柱芯は暇してる。だから名付きで動いているのは私と竜田だけと言う事になる。
とは言っても、動くのが私と竜田だけなのだ。
七柱芯は元より城、今は塔を守っている。
五刑囚は私、竜田を抜いて、ハナは自由奔放に遊び、カンマはとある事情で塔の七十階に居て出て来ない。もう一人は新人だ。一番弱かった風香のレベルを超えて、五刑囚らしくなってきたが、まだ戦いには出さない。
ちなみに風香は五刑囚を抜けた、と言うよりも死んだ。その理由は王の命令だった。おかげで私の知らない所でいつの間にか鬼族のリリカに殺されていたのだ。
「なぁ、何言ってたんだ?」
「……知らない」
「はぁ。別にいいじゃないか。俺達コンビだろ?」
ジャキンッ。
「ひっ!?」
「……二度と聞かないで」
「は、はひ……」
口の中に槍を入れて言ってあげると、ようやく竜田は諦めた。
どうして今思い出したかはわからないが、デュークの顔が浮かんできた。
もうあれは十年前の五歳の頃の出来事だ。私は一度もあの日の事を忘れた事は無い。眠れば必ずと言っていいほどあの日の出来事を夢見る。
『へ、へぇ。お前、ハクって言うのか……。お、俺はデュークってんだ。よ、よろしく!』
初めて会った時にはそう言われた。ちょっと強引な男の子だったけど、おかげで家で引きこもっていた私は外に出るようになった。
笑ったり、泣いたりした事がある。今では失われた感情だ。
私の所為で村が無くなった後、何度も泣いた。生き残った村人に何度も殺されそうになった。何でと問いたかったけど出来なかった。何度も泣いて、泣き疲れて、泣いて。そんな感情が邪魔になった私は自分の感情を壊したのをよく覚えている。
あれから一度も表情が変わった事は無い。何を思う事も無い。
「はぁ。にしても、各国から来る兵隊も、強ぇの居ないなぁ。俺達も他の名付き同様、暇しないか?」
「……勝手にすればいい」
私はその場を立ち上がって塔へと帰って行く。その後ろ側では、幾百もの兵士が積み上がっている。
その兵士は全員がショウの国章をつけている訳ではない。他の国の国章をつけている兵士もいる。それは一か月前、ヘレスティア王が全国へと向けて宣戦布告をしたからだ。世界を操れる人になったのだから、別にそんな事しなくてもいいと思うのだが、それは面白くは無かったらしい。まるであの塔は魔王の塔のような物だ。
「お~い。こいつら、どうすんのー!」
「……好きにすれば」
他のヘレスティア兵士を無視して私は一足先に塔へと戻る。
「……おいおい。んじゃお前ら、先帰っていいぞ。後は俺がどっか飛ばしとっから」
耳に入って来た竜田の言葉から兵士は全員、竜田の魔法によってどこか遠くへと飛ばされるだろう。何処へ飛ばされたかなんて興味は無い。
ライコウの街を歩いている間に、少し学校の方へと回ってみた。
桜花魔法学校の門前だ。
「……いつ戻ってくるかな。……リクちゃん」
武器を引いて、わざと時間魔法の空間の中へカナが逃がすのを見送った私は、リクが強くなって戻ってくるのを今か今かと待っている。
門内へと入り、校舎内へと入って行くと、まずは食堂へと来る。
初めてリクと出会った場所だ。
『ありがとうございます。……予想してましたか?』
あの時は驚いた。目の前に私を殺せる神々に愛されし子が来たのだ。アキやハナ、レナと一緒に食べている手すら止めて、つい魅入ってしまった。
リクはレナを見ていたために気が付いていなかったようだけど、アキが私の視線に気がついてリクへと声を掛けていた。
今では人の気配などまったく無く、食堂のおばちゃんもちろん居ない。全員ショウへと逃げたのだ。居るはずが無い。
逃げ遅れた市民はいなかった。そこは〝クロノス〟のカナがぬかりない。
もし居たら、また一つの命が犠牲になる。リリカが喜んで殺すだろう。ヘレスティアの王は捕虜など必要としない。
『どうしたの白夜? 何か思う所があるの?』
「……無い。……それより影が話しかけてくるなんて珍しい」
『なんでだろうな』
教えてくれない影だけど、感情を壊している私は興味をすぐに無くして丁度震えた携帯に出る。
画面を見るとキャンバルと名前が出ていた。
「……メイド長が何の用」
仕方なしに電話に出る――と言う事はしなかった。と言うか、通話終了ボタンを押した。
もう一度掛かってくる。もう一度切る。もう一度掛かってくる。
「……はぁ」
何度も掛けられたらたまらないので電話に出た。
「……何」
『今どこに居るザマスか?』
桜花魔法学校だが……。
それよりも二回ワザと切った事はわかっているはずだ。何事も無く話すとはさすが仁王像のメイド長。前の竜田とは比べ物にならない。
「……どっか」
『そうザマスか。ところで竜田は傍に居るザマスか?』
「……居ない」
食堂を抜け、今度はスペ組の教室へと回って来ていた。
『なら丁度いいザマス。竜田にスパイ容疑がかけられているザマス。調べて欲しいザマス』
「……何で私」
『王の命令ザマス』
ブッ。電話を切られた。
まさか王自ら私に命令するとは。仕方ない。
竜田、まだヘマをやらかしたのだろうか。私は元より竜田が二重スパイをしていた事を知っていたが、黙っていたと言うのに。
ため息を大きく吐き、ここから一番近い出方はと考えて、屋上へと向かった。
桜花魔法学校の屋上への扉を開いた。
――壮大な魔力が、私の頬を撫でた。
ドクンッ。心臓が大きく鳴り、私はその魔力の風が来た方向を向いた。
森の奥だ。ずっと奥の方だ。その方向から数多くの種類の魔力を感じる。そしてその数秒後に、また新たな膨大な魔力を感じた。
その魔力は、あの人の魔力だ。間違いない。
「……二ヶ月ぶり……。……二ヶ月ぶりだよ、リクちゃん」
心の底から待っていた。この私の血塗られた人生を閉じる事の出来る人を。
「……さぁ。……早く私を壊しに来て。……じゃないと、今度は私を憎んでいるはずのマナを壊すよ……」
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「何故セレネとマルスが付いてくるのじゃ?」
「別にいいじゃん! それよりヘカちゃん! 最近遊んで無かったじゃん? 遊ぼ!」
「子供か、主は。妾は仕事を途中で放ってきたおかげで山積みなんじゃ。急いで帰らねばならんのじゃ」
「僕だって仕事がある。だからセレネの遊びには付き合っていられない」
あの時の魔法でリク達を見送った後、妾たち神はそれぞれ自分の住処へと帰って行っていた。四季の女神は風の中へと消えていき、雷神はキリに言われた事をやるために急いで空へと消えていった。災いの箱も同じように消えていった。
炎翼を持つ金色の炎は元々ユミと契約しているためにユミの元へと戻った。
そして残った三人なのだが、妾もマルスも仕事があるからさっさと帰りたいのにセレネが引きとめた。
もうあの場所からは抜けて遠くへと来ていたが、それでもまだセレネが言ってくるので天界へと一度行く前に遊ばなければ妾の家まで来てしまう恐れがある。
「遊ぼうよぉ!」
「はぁ。仕方ないのぅ」
妾がため息を履くと同時、マルスが耳打ちをして来た。
「遊ぶのか? ヘカテ」
「家までついてくるぞ? セレネは」
妾の言葉に肩を落としたのでポンッと肩は叩けないので腰辺りを叩いておく。
「いやったぁ! いよぉっし! マルスとは初めて遊ぶからね、何する!?」
考えていないのかこのバカたれは。
ヒスティマの地へと足をつけると――ズドォンッ!!
「なんじゃ?」
妾たちの目の前に派手な爆発音を立てて振って来た何か。
「セレネが呼んだのか?」
「ううん。あたしは呼んで無いよ?」
誰も呼んでいない。と言う事は偶然か?
土煙りが治まり始めると、その顔が新明になって来た。
黒色の短髪に紫色の瞳の男。
「なん……じゃ?」
妾はそれしか見れなかった。
次の瞬間には、神の魔力すら凌駕出来るのではないかと言うほどの魔力が放たれたのだ。
「二人とも下がるのじゃ! 〈イージス〉!」
そこからはあまり覚えていない。妾の魔力の大半をその魔法によって削られたのはわかった。
魔法が爆破して、その爆風に耐えようと両腕を交差する。あまりの風の強さに目を瞑り顔を隠し次に目を開けた時には、すぐ目の前に男の掌があった。
「〈メモリークラッシュ〉」
意識が奪われ、目が覚めた時に見た物は何も無い、虚無の世界だった。
最後のルナ視点の部分を追加しました。




