ボクは何?
「えっと、何かマズイ事なのかな? それとも知らなかった?」
「し、知らないも何も、一体どういうことなんですか?」
自分の魂が覗かれていると言う感覚を覚えつつも、今彼女が言った半人半神プラス四分の一黒とは一体、どういうことなのだろうか。
「だからね? リクちゃんの元々の魂が半分人間で、もう半分が神様の魂なの。その構成でリクちゃんの魂が生成されている」
「つまり、リク君は人間でもあり、神様でもあるってこと?」
「そう言う事」
ぼ、ボクが人間でも、神様でもある?
そして、それ以上の魂を四分の一の大きさだけど持っていると言う事?
……え? ボクって何者なの?
「リク考えるな! お前の頭から火が出てるぞ!」
「な!? ぼ、ボクがバカだって言いたいんですか!? ボクはバカじゃないです! ちゃんとテストの点数だっていい点が取れてるんですから!」
「ほぅ。ちなみに俺は平均九十だが?」
「…………」
ボクのテスト平均が実は四十だったりする。
「キリさんのバカ……」
「まぁまぁ。でもその様子じゃ本当に知らなかったって感じね。魂を扱うような魔法を使える人はいなかったの?」
なだめるように言うユミだが、ボクの記憶ではそう言う魔法を――ヒスティマに関わってから半年ぐらいだが――使うような人は聞いた事が無いと思われる。
実を言うと、リク達は雁也、つまりはミュアが魔眼を使って魂を操る事ができるのだが、ミュアの魔法の説明を受けていないので知る事は無い。
「いなかったみたいだね」
「あぁ。だが俺はリクが人と神様の間に生まれたってことは少し前に知ったからあまりビビらなかったけどな。むしろビビったのは黒って部分だ」
え? キリが人と神様の間に生まれた事を知っていた?
「カナの奴。本当に何も喋ってねぇンだな。責務って所か……」
「キリさん。あなたが言いたい事がこれっぽっちも分からないのだけど。いい加減話してもらえる?」
ソウナが言うと、キリが「あぁ」と短く返事をする。
それからユミとミユを見る。
「私達の事は気にせずどうぞ♪」
しばらく静かにしているから、と暗に言うユミに礼を言ってからキリは話した。
「カナ本人から聞いた。あいつは神〝クロノス〟だと。どんな経緯があってかは知らねぇが、〝クロノス〟になったんだと言う。そして、その〝クロノス〟と人間との間に生まれた子がリクだってことだ。カナが今まで意味不明な行動ばかりをしていたのは、未来が見えていたからだ。いくつもの未来の中で、最善だと思われる物を選んでいったんだろ。俺達を掌の上で操る事でな」
キリの話す衝撃の事実にボクは少しの間、息をするのを忘れていた。
母さんが神様で、その神様の子供だと言われ、すぐに理解できる人が居るだろうか。
「で、でもボク。魔力の扱いが下手だし……。今だってなぜか魔力が使えなくなってるし……」
「それでも~。リクちゃんの魔力が他の人よりもありえないほど多い事に説明が付くよね~」
「マナちゃん!?」
キリの背中から急に声が聞こえたかと思うと、マナが重い頭を上げてこちらを見ていた。
「もう大丈夫なんですか?」
「うん~。なんとかね~」
「起きたんだったら降りろ。おめぇ」
「重くないし!? 言われなくても降りるよこんなとこ!」
キリの背中から早々抜けだすと、少しフラフラとしたマナにソウナが手を貸した。
「にしても……半神は良いとして、黒ってのが気になるな。なんだ?」
「教えない♪」
顔を向けるもユミはそっぽを向いて再び歩き始めた。
「ユミちゃん、どういう事?」
「ちょっとね。……教えたらダメのような気がするからね」
二人が小さく相談すると、先へと歩いて行った。
ボク達は腑に落ちないまま、その後を追って行った。
「ところでマナちゃんはいつから起きて?」
「意識があったのはキリが平均九十って言った辺りかな~」
あの時からか。
ボクがそう思うと同時、マナがキリを見て「くすり」と笑っていた。
だからボクはキリがマナに向かって睨んでいるのが良くわからなかった。
「ほら、早く行くわよ」
ソウナに手を引かれ、ボク達は話を切り上げて先を行く二人の後を追って行った。
それから森を出たところで、ボクは空を見上げてまた驚いた。
「た、太陽?」
「は?」
「ほ、ホント……だ……」
「ど、どういう事~?」
太陽が空に昇っている。
森の中からは見えなかったが、太陽が昇っているとは思わなかった。
今は夜なのだ。太陽では無く月が昇るはずだ。
「何かおかしい所があるの?」
ミユがボク達を不思議そうに見る。
どうやらミユにとって当たり前のような事らしい。
「まぁおかしいよね。夜に太陽、朝に月が二つもあるんだから」
「あ、やっぱりユミさんもおかしいって思うんですね」
気軽に言う彼女が居るんだから、きっとミユだけがそう思ってたんだろう。
「そりゃぁね。私は元々地球から来てるんだし、ヒスティマと関わったのは実は二年ほどだしね」
に、二年?
「はぁ? 『英雄姫』って元々地球から来たってことか?」
「あれ? それは知らなかったの? それから『英雄姫』だなんて言うのはやめて。私の事はユミでお願い」
そう言えば『古書』の初めに部活やら何やら書いてあったような気がする。
「えっと、ユミさんって年号、何年から来たんですか? ボクも地球から何ですけど……」
「えぇっと……二〇〇六年かな?」
「に、二千……六、年?」
ボクがヒスティマを知らずに生きていた時代から二十年ほどしか離れていないではないか!?
「もしかして、自分が生きている時代と近かった?」
「は、はい……。二十年ほどしか……」
事実だけを述べると、彼女は話してくれた。
「このヒスティマと地球を繋ぐゲート。その事をどれだけ知ってる?」
「えっと……通れる事しか……」
「そっか。まぁ後はあそこについてからね」
そうやってユミが指した先。
そこには城壁が無く、家々がむき出しになっている、村のような場所が見えた。木の家で、ヘレスティアもこうだったなと思うほどだ。
だが、ヘレスティアとは違い、一番目につく物があった。
中央にそびえ立つ塔だ。
純白の色が映えており、とても綺麗だった。
遠目だけでもこうして大きく見えるのだから、近くへと言って見上げたらさぞ首が痛くなるだろう。
「にしても今何時だ? まだ町は明るいじゃねぇか」
「ん~。十時ぐらいかな? たぶん明るいのは私の家と、酒場だけだと思う」
確かに、暗いのに純白の色が映えているのだから、昼間はきっと驚くほどに綺麗に見えるのだろう。
「それよりも、姫様がこんな所にこんな時間に居ても良いの~?」
今度はマナがそう聞くと、ユミは笑顔のまま答えた。
「大丈夫大丈夫♪ どうせ今頃慌てて私の事を探して――」
「――いるのがそんなに面白い、ですか? 姫様?」
先程まで柔らかかった空気が一瞬にして凍った。
ユミの目の前には、テレポートしたかのように現れた一人の男が立っていた。
そしてボクは、この光景に何処か見覚えのあるような感じがした。
あぁ、ボクの母さんが仕事を抜けだして遊んでいる所をルーガが見つけて説教をする場面だ。
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