残骸
視点はマナちゃんからキリさんです。
「二人ともまだまだだね。もっと強くならなきゃ」
ライナにそう言われるも、やっぱり電光王国の戦士は違うなと思った。
だって、魔物が消えたのにも関わらずドラゴンで踏みつぶすのなど、魔物の姿がしっかりと見えていないと出来ない技だ。
「青毛ちゃんももっと視野を広げないと」
「わ、わかってるわ……」
「ん。よろしい。それじゃあ先に進みましょう」
ライナに先行されて、ウチ達はその後を追う。
魔物使い。それなりに強いなぁとは考えていたが、目の前のこの人に限っては強すぎる。そんな感じがした。
「待って」
そんな時、先を行くライナの足を止めてソウナが言った。
「ん? どうしたの?」
ソウナは何やら倒れた魔物を見ているようで、しばらく観察していた。
まさか、起き上がる……などと言う事はしないだろう。潰されていて、知能が無い限り死んだふりなど器用なマネをする魔物はいないと思われるからだ。
そして次第にその魔物は沸騰した様に泡を立てて他の魔物と同じように蒸発していく。
――だが、中にあった何かだけは、沸騰する事なくその場へと残った。
「これ……」
「バッタ……?」
ウチとライナはその蒸発し終わった形を見始めた。
どう見てもバッタ。足は長いし、どう見ても二本で見たこのあるようなバッタしか想像できない。ただ、大きさはその比では無い。全長二メートルはありそうだ。
「なんでバッタが……?」
一体どういうことなのかさっぱり分からないが、ともかく黒い魔物に取りついたままだったのは、バッタが気にしなかったからだろうか。
ともかく、これはバッタが進化した魔物だったのだろうか疑問に残る所がたくさんあった。まぁでも、もう倒してしまったのだから、いまさらの話だ。
腐る事が無いバッタにウチは少し疑問を感じるも、リクが心配だと先を急ぐことにした。
「さ、早く行ってリクちゃんを捜そ!」
ウチがそう言うと、ソウナもライナも考えていたのが一度中断してから、先を急ぐことにした。
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「ったく、どれだけ奥に行きゃぁ気が済むんだ?」
「たくさん穴も開いてるけど見つからないね。一体だれを探してるかいまだにあたしにはまったくわからないけれども」
一言も話していないからな。
そんな風に思っていると、ついに崖の終わりまで来て、そしてこれまでと違った、一番の大きい穴に辿り着いた。どうやらここが終わりらしい。
「とすると、ここか」
俺は遠慮なくその中に入って行く。セレクトは少し不安げに死を踏み入れると言った感じだ。
そして洞窟へと足を踏み入れた瞬間。空気が変わったのがわかる。
(さっきよりも空気が重い。雷が酸素でも分解してんのか?)
そうするとちょっと危険だ。分解された酸素原子が三つ組み合わさると出来る、オゾンと言う同位体は体に毒だ。吸えばたちまち呼吸が荒くなり、めまいがし、それを知らずに更に吸っていればいずれ呼吸困難や麻痺をして死ぬ可能性が十分にある分子だ。
もしそれが大量生産されているならば入らない方が良いだろう。
だが、鼻で吸った時に特に刺激臭がしないことから、一応は無い事を悟る。
とりあえずは危険は無いのでズカズカ遠くへと入ってく。中は一本道で特に迷うような事は無い。
「ねぇ。ホントに誰に会いに来てるの? そろそろ教えてくれても良いじゃん、けち」
「誰に……な。別にそんくらいなら良いぜ。名前は〝建御雷神〟。雷神だよ」
俺は軽く返す。別に、隠していないし、これから会いに行くのだから隠す必要が無い。
だけど、そんなふうに俺が軽く言ってしまったからか……。
「なぁんだ。雷の神様に会いに行ってるのかぁ…………え゛? 雷神? しかもミカヅチ!?」
セレクトが大声をあげて驚いていた。
まぁ、名前だけはいろんなところで聞く神様だしな。驚いても無理は無い。だが俺は特に反応する事も無くあくまで聞き流すようにしている。
「なんで? どうしてそんな神様に戦いに行くの? あんたバカ?」
「うっせ。やんなきゃいけねぇンだよ。それに、昨日までの俺と一緒にすんな」
正直、今ならどんな相手が来ても怖くは無い。
「ま、あえて言うなら、未来で俺が戦っても勝てなかったから、だろな。俺は負けず嫌いなんだよ」
「うわぁ……。あんた達がいる未来だと神様の力って弱まってんだよね? だったら過去に着たらもっと強いんじゃないの? 勝てるとは到底思えな~い。あたし、手を貸さないからね?」
ちょっと嫌みを込めた言い方だったが、俺はそんなのは無視して奥へ奥へと進んだ。特に魔物は出てこない。おそらく魔物はこの場所へは本能的に近づいて来ないのではないかと思う。死ぬのは誰だって怖いからな。
「う~ん。でも、そっか。雷鳴の峪はもしかして、雷神がいるから、年中無休で雷が止まないんだ……」
「おそらくな」
それしか思いつかないし、そうでなければ崖を掛け下りる人が現れて、雷神までの道がかなり近くなってしまう。だから崖へ出た人を中心的に狙うのだろう。
「それじゃあさ、何であたしに魔力に重さがあるかどうかなんて聞いたの? この近くでは戦争なんて起きないし、人が魔法を使うようなことなんて無いんだけど」
「簡単だ。雷神の雷が降ってるんだから、微量だが魔力があるだろ? そして狼ってのは崖で生活するなんて正直無理だ。そして魔物が主食とすんのは魔力だって言った。つまり重さがある魔力は底にたまってて、そこを狼が住処にしてるってことだ。とすると、俺達が初めて会った狼がいた所、あれはもう底がかなり近いってことだったんだよ」
「へぇ。ほぉ。なるほどぉ。そんなことが考えられるなんて、あんたすごいねぇ」
「褒めても何も出ねぇし、これくらい考えつく」
マナとかなら俺よりもさっさと思いつくだろ。俺の場合はすでに答えがでそろった後だったから、簡単に出ただけだ。
「帰ったらセルスに頼んで策士の勉強でもしたらいいんじゃない?」
「断る。俺は何も考えずに突っ込んだ方が好きなんだよ」
考えるのは俺の仕事じゃない。それに好き勝手に動いた方が面白い。
俺はそんな考えを持ちながら、ようやく一つの部屋のような物が見えてきた。
そこは雷が放出されてて、中があまり見えない。
要るのは明らかだろうと思った俺は少し歩く歩を速めてそこへと向かって行った。
すると――パチンッ。
「これで、どうですか!」
「しまった!? だがまだまだ!」
パチンッともう一度聞こえる。
一体この音は何だ? そんな考えがよぎるも、どうして声が二つあるのかがわからなくて、俺は疑問を抱きながら中へと入った。
そして、俺がそこで見た物は……。
「二、三、成金。これで俺の勝ちだな! 積みだ!」
「あ、ホントだ。後ちょっとでしたのに……」
「ふっふっふ。やはり将棋はたのしい……の……。……ッ!?」
一人が、俺の姿に気がついた。黒髪に小さいツインテ。そしてツリ目。
そしたら、それは慌てたように顔をそむけ、一目散に逃げ出していった。とは言っても決してこの場はそんな遠い場所なんて無い。だから近くに居た影に隠れた。
「キリさん!」
そして、もう一人の声が聞けた。こちらは白銀の髪が背中まで伸びていて、とても可愛らしい容姿である……。
「なんでこんな所にリクがいんだよ!?」
黙って出てきたはず。なのにリクがいる。
その事に俺は全くと言っていいほどわからなかった、が。大体は予想が出来ていた。
この後、リクがとりそうな行動も。
誤字、脱字、修正点があれば指摘を。
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