黒い鎧
視点はマナちゃんですよ。
「ォォォォォォ!!」
魔物が声をあげた。
赤い波を打って瞬間移動するかのように剣を構えたソウナに激突した。
「くっ!」
重い体をぶつけられたソウナは増幅した魔力で強化してその剣で受け止めた。だがあまりにも重いために突進されて後ろへと足を引きずった。
そしてそれを狙ってウチは魔法を放った。
「〈螺旋焔球〉」
灼熱の魔法を放ち、鈍重な魔物は真正面からまともに受けた。
今度は守れる角も無いので直撃。
だが魔物は倒れる事なく脈打った体をもう一度ソウナに向かって突進した。
「〈武盾〉!」
魔力を強く込めた防御魔法で何とか凌ぐも、一度の突進でその壁が壊れてしまった。
「一度止められれば十分だわ! 〈武盾〉!」
ソウナはもう一度同じ魔法を発動し、こちらに来られないように張る。
ウチはその間にユニゾンレイドを完成させて、魔物がまた壁を割ると同時に放った。
「ォォォォォ!!」
今度も見事に命中した魔物は雄叫びをあげると何処からともなく魔物たちが湧きでてきた。
まるで鈍重な魔物に操られているかのようにボク達に向かって襲ってきた。
だがそれらを防ぐようにして横入りしてきた魔物がいた。それは全て鳥のような姿をしている魔物で、こちらはライナが召喚した物だ。
ウチ達はそんな鈍重な魔物が呼んだ魔物は無視をして魔法を発動し続けた。
ソウナが防御魔法を発動し続け、何とか前に出さないようにし、ウチが破壊した直後に魔法を発動したおかげで今の所全て着弾している。
それからウチは同じように二、三度と、同じ魔法を与え続け、魔法を受け続けた鈍重な魔物はやがて動かなくなる。
「お、終わり?」
「そ、そんなことは無いと思うけど~」
ウチもソウナも肩で息をしながら答えた。
まだウチは八発しか放っていない。ウチの見立てでは十発だ。
そこで、追い打ちを掛けるようにウチはまた魔法を放った。
「〈螺旋焔球〉!!」
「ゥゥォォォォォ……」
同じ灼熱の玉を喰らった魔物がうめき声を出した。もはや瀕死だろうかと思ったその時。鈍重な魔物からいくつかの物体が落とされた。主に魔法を何度も当てた頭付近だ。
「え……。何、あれ?」
それは黒いスライムのような感じに見受けられるが、違う。まるでうねうねと動くミミズが束になった集合体に見える。それが落とされて魔物と同じように消え去った。
「ォォォォォ!!」
少量落とされたその黒い液体があった場所からはまた黒い皮膚。もしかしてあれも先程と同じ黒いスライムのような、ミミズのような物?
(だとしたら、あいつはかなり大きな鎧を着ていると言う事になるッ!)
今まで皮膚だと思っていたそれはまさかもっと別の魔物出会った事が判別した今、むやみにもう一度ぐらいしか撃てない魔法を放つ事が出来ない。
それをはがさなければ倒せないと推測したウチは、魔法を放つべきか迷った。だが、今また新たな魔法を放てと言われても厳しい。
何か、他の魔法などの攻撃で破壊しなければいけない。
「マナさん! 魔法はまだ一回撃てるのよね!?」
「う、うん。でもどうして!?」
ウチがそう返したとたん。ソウナが今まで前進しなかった場所から走り出した。
「ディス! 残りの魔力の半分以上を使うつもりでやるわ!」
剣が光りに包まれ、その剣を振るった。
だが魔物がぐっと足に力を込めたかと思うと消え、ずっと後ろへと移動していた。剣は虚空を斬り裂いた。
ウチはその状態から魔法を放つべきかどうかを迷い、考えていた。
ユニゾンレイドを残り一撃ほどしか使えない。だがたぶん無理をすれば二発は撃てると思われる。
その後はたぶん他の人に迷惑を掛けると思われるが。
後ろからまた別の魔物が飛んでウチの横を通って行く。
それは羽の生えた鷹頭で獅子の体をしているグリフォンだ。これは、ライナの魔物?
それはソウナの横も抜けて先に居る魔物へとその前足の爪を突きたてて攻撃し始めた。その時、また魔物が壁へと向かって激突。だが間一髪のところで逃げたグリフォンと後退してソウナが魔力を込めた剣を斬りつけた。
「〈武乱〉!」
四連撃を受けた魔物の皮膚から、同じように黒い物体が飛び散り、その一部が剣をふるったソウナに掛かる。
「きったないわね!」
ソウナは悪態を突きながらウチが始めに穴をあけた場所に狙って剣を体に突き刺し、上へと斬りあげた。剣にもべっとりと付いた黒い液体はシューと音を当てて消えていく――と言う事をせずあろうことか意志があるかの様に動き始めて柄へと向かって、つまりソウナへと向かって動きはじめた。
「ソウナさん!? それ生きてる!!」
「わかってるわ! マナさん! あなたは最後の魔法をしっかりと命中させなさいよね! 〈武連〉!!」
ソウナが魔法を放ち、真正面から剣で何度もその魔物に向かって斬り刻んだ。
「ォォォォォオオオ!!」
先程とは違う声をあげ始めた魔物は、目の前で斬りつけるソウナに目を向けた後、足に力を入れた。
「! ソウナさん逃げて!!」
ウチの声が聞こえなかったのか、ソウナはその剣を刻み続けた時。
ソウナとその魔物の姿が消えた。
ズゥゥンッ!!
ウチは大きな音がしたその方向へと向いた。
その方では魔物が崖を超えた反対側の壁へと激突をしていて、穴と亀裂を作っていた。
「ソウナさん!?」
ウチはソウナが潰されてしまったのではと考えてしまい、悲鳴を上げるが、その魔物が振り向いたその時、剣が突き刺さっているだけでソウナの姿は見えなかった。
「まったく、危なっかしいんだから」
「し、仕方ないじゃない! 早くあいつを倒さないと……」
隣からの言葉。
ウチが視線をやるとそこにはソウナを脇に抱えたライナが魔物に乗ったままで現れていた。
更に状況は一変。魔物に刺さっている剣が人型となり、王子のような服を着た男の人に見えた。
その人は魔物にしがみついたまま、腰に刺さっている剣を抜いてその頭を更に斬り刻んだ。
すると、魔物の顔の皮膚が全てはぎ取られ、中から緑色の何かが現れた。ウチはそこを狙えばあるはと考え魔法を放った。
「〈火球〉〈火炎〉〈火柱〉〈火渦〉。〈焔球〉〈火炎旋風〉……」
魔物にしがみついていたその人が丁度上へと飛んだ。
「〈螺旋焔球〉!!」
魔法は真っ直ぐその魔物へと飛び、そしてぶつかるその瞬間、魔物が消えた。
「外した!?」
ウチが驚くと同時、真横へと飛んでいた鈍重な魔物がその目をウチへと向けていて、脈打つその足をまた引いて、バネで跳ねるようなしぐさをした時、やられると思った。
「〈カードアウト〉」
ライナが魔法を発動。
魔物の姿が消えたかと思ったら、次の瞬間にはウチの目の前に大きな。それこそ急に空から巨大な岩でも降って来たのではと思うほど大きな何かが目の前に降りて来て、大きな音を響き渡らせた。
「ゥゥゥ……」
声が下から聞こえた。
ウチはその声がする方を見てみると、そこでは大きな指の間に顔を覗かせ、完全に潰れている鈍重な魔物の姿が見てとれた。
今度はその魔物を潰しているものはなんなのか? そんな疑問を持って上へと顔をあげた。
「グルルルルル」
そこでは、牙を大きく見せて涎を垂らせているドラゴンがウチをその瞳に移していた。
だけど、そのドラゴンはどこかで見た事があった。そう、確か……。
「ありがと、もう帰っていいよ。ここはせまいでしょ。〈カードイン〉」
ライナがそう言うと、ドラゴンはうっすらと姿を薄くして消えていった。ライナの手にはドラゴンのカードがしっかりと握られていた。
「ま、初めからこれ使えば楽だったかな? ごめんね? 君たちが成長出来るように、あまり手を貸さないって心では決めてたんだけど……」
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