命の恩人
ボク達では歯が立たなかった人攫い達を十秒で片付けた白銀の少女は手を叩いて終わったと両手を腰に当て、頭を何かしらの魔法で倒した黄色の少女は、手に持っていた剣を鞘へと納めると、こちらへと振り向いた。
「さて。その子達、誰?」
「さぁ? 襲われてたから私は助けたんだけど……」
白銀の少女が分からないと言った風に首を傾げる。生えているくせ毛が器用にハテナを描いていた。
「またか。でもまぁ、そこがいい所なんだけどね」
黄色の少女の言葉から、こう言う事は何度も何度も繰り返されているらしい。白銀の少女はそれだけたくさんの人を助けていると言う事なのだろうか。
「まぁ、わからないんならいつものように聞くまでだけど。それよりもこの子たちは君の仲間?」
「は、はい!」
ボクが緊張した声で答えると、くすっと笑ってキリの縄をほどいた後につらされているソウナの縄を斬ってくれた。その際、ソウナが受け身も取れずに落ちてきたが、少女が受け止めてくれた。
「すまん」
「あ、ありがとう」
「どういたしまして」
残りの手に巻き付いている縄なども切って、キリとソウナに礼を貰うと今度は少し離れている所に倒れているマナを見る。
「後は……あの赤毛の女の子も?」
「えっと、そうです。さっき魔法で気絶させられちゃって……」
マナへと近づくと、少女は意識の無いマナの肩を持ってこちらまで運んできてくれた。
「にしても、派手にやったねぇ」
辺りを見回すと、真ん中に焚火に照らされているのにそこら中に砂鉄の黒い跡が残っている。木にもまんべんなくついているので真っ黒だ。
「えへへへへ」
「褒めて無い、褒めて無い」
手を振って否定する黄色の少女を気にせずに照れる白銀の少女。
二人とも強大な力を持っていたり、一人は有名そうだったりしたために天と地ほどの力差を先程から感じている。何より、命の恩人だ。
後数分遅かったらボク達は確実に今倒れている男たちによって連れ去られてどこかしこに売られていただろう。奴隷と言う制度があるのは初めて知ったが。
ボクは黄色の少女からマナを受け取ろうとするのだが、その前にキリに持って行かれた。
「お前じゃ絶対に引きずるだろ」
「そ、そんなこと無いです!」
とは言ったものの、おそらく必ず引きずるだろう。この中で一番背が低いのだから。と言うか、マナよりも低いのだから。
泣いてない。絶対に泣いてないもん……。
ボクが影で泣いているのも無視してキリはマナを背中におんぶして担ぐと、礼を言う。
「危ない所だった。助かった」
「良いって事よ♪」
人差し指を口元に持ってって言う彼女に、先程の凛々しい姿とは大違いの可愛らしさにボクは少し拍子抜けする。
その白銀少女は可愛らしい仕草もやめて、辺りを見回していた。
「そんなことよりこんな場所で何してるの? 真っ暗だし」
とてもこの場は暗い。だから倒れている人攫い達もあまり見える事は無い。
しかし、決して見え無いわけではないマナが焚火をしてあったり、ぽっかりと穴が開いているようになってるので、月は見えないが空から薄暗く光が舞い込んでくるためにある程度は見える。しかし四方八方にある森の中は真っ暗闇で何があるか分からない。先程の砂鉄も見ると、初めよりも更に暗くなったのではないだろうか。
「私達、迷子になってしまったのよ」
「迷子?」
黄色の少女が改めて聞く。
「ええ。ここがどこだか教えてくれないかしら?」
ソウナが白銀の少女にそう言うと、少女は腕を組んで考え込んだ。
「記憶喪失……と言う訳ではなさそうだし。だからと言って、ここまで歩いてきた訳でもないんだよね?」
「ええ」
白銀の少女の推測に素直に答えるソウナ。
「だとすると、ここまで連れてこられたと言う考え方しかないんだけど……」
それからまた視線を辺りに巡らせて、ある一点で止まった。
少女は何も言わずにただまっすぐに歩いて、止まった。
そこは丁度このぽっかりと円が出来ている中心。その場で止まった彼女は何かを感じ取る様に瞳を閉じた。
「小さな魔力粒子……。一つ一つが強力……。属性は時……。とすると……なるほど。そう言うことね」
何やらブツブツと話し始めた少女に、黄色の少女が声をかける。
「ユミちゃん?」
だけどなんの返事も無いとわかると、すぐに諦めた。
「うぅん。まぁいいや。そう言えばまだ互いに名前を名乗って無かったよね」
確かに一つもそんな話は出ていなかったような気がする。
「そんやぁそうだな。俺は仙道キリ。二つ名で【一匹狼】って名乗ってる」
「私はソウナ・E・ハウスニルよ。二つ名は【治癒天使】なんて呼ばれてるわ」
「赤砂リクって言います。一応【金光の白銀蒼】って二つ名です。それで、寝ている子が篠桜マナちゃんです。二つ名は……あれ? マナちゃんの二つ名ってなんでしたっけ?」
「知らねぇ」
「知らないわ」
二人に知らないと言われてマナは二つ名が無い事を知る。
その前に、無いと言われたかったのだが……。マナが不憫で仕方がない。
ボク達が軽く名前だけ自己紹介すると、首を縦に振りながら名前を繰り返し呟いた。
「キリさんにソウナさんにリクさんでマナさんね。私は小林ミユ。二つ名は……な、無いわ」
なぜか歯切れが悪い彼女、ミユに少し疑問を抱く。
彼女もあまり自分から二つ名を名乗ると言う人では無いのだろう。歯切れが悪いからなんて呼ばれているかぐらいはあると思われるが。
ただ、それとは別にボクは頭の中で別の疑問も持っていた。
それは名前だ。どこかで聞いた事のある名前に、ボクは疑問を持っていたのだ。
ミユは自分の自己紹介を軽くすませると、次は白銀の少女を紹介しようとした。
「それで、あっちに居る子きゃぁ!?」
突然背中に乗って来た白銀の少女に驚くミユ。
白銀の少女は満面の笑みで自分の名前を答えてくれた。
「私は電光ユミ! 二つ名は一応無いつもりだけど【雷光の姫君】だとか、【姫様】だなんて呼ばれてる! 一応ここから一番近い電光王国を治めてるの♪」
とりとめもない自己紹介。彼女にとってはそれだったのだろう。
しかし、そんな自己紹介にボク達三人は固まった。
「ちょっとユミちゃん? 急に抱きつかないでよー」
「良いじゃん♪ 減るもんじゃないしっ」
驚いたミユがユミと名乗る人物に向かってちょっとふてくされる。だがユミはこれと言って詫びを入れる訳ではないようだ。
しばらくしてピクリとも動かないボク達を見て不思議に思ったのか、おどおどとして来た。
「あ、あれ? な、何か私言っちゃいけない事言っちゃったかな? ねぇ、ミユちゃん」
「そんな事は無いと思うよ? ごく一般的な自己紹介だけど。もしかして女王様が何でこんな場所に、とか思っているんじゃない?」
「それならいいんだけど……」
不安そうに見てくるユミがミユの背中から降りる。
ボクの頭の中ではたくさんの事がめぐりにめぐっていた。
先程からミユが白銀の少女の事をユミ、ユミと呼んでいたが、それがまさか『古書』に出てくる『英雄姫』だとは微塵も思わなかった。
過去の人に会うために、ボク達は夢でも見に来ているのだろうか……? でも、何のため?
ボクの静かな疑問には、誰からも答えをもらう事が出来なかった。
誤字、脱字、修正点があれ場指摘を。
感想や質問も待ってます。