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ヒスティマ Ⅴ  作者: 長谷川 レン
第四章 雷神
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追ってくる別の恐怖

視点はキリからマナです。



「それで? これは一体どういう事?」


 下を指しながら言うセレクト。怒ってすっきりしたのか、一度冷静になろうとして状況説明を求めてきた。

 俺達が今立っているのは真っ暗な空中、などでは無く、暗闇だと思うほどの真っ黒な黒い土の上だ。


「見たまんまだろ? お前こんな事も考えられねぇのか?」

「あたしは戦力なんか練らないの! 策士じゃないんですぅ! 博士並みの知識は魔法関係しかないんだから!」


 つまり俺達が今立っているこの土はただの土なのだろう。こいつがなんにも気づかなかったと言う事は。


「なぁ、お前ら電光王国ってこの峪、調べた事あんのか?」

「あたしが知る限りは無いね。理由はこれまで他国との戦争や個人の過去解消とかのごった返しで土地を調べる余裕がなかったからね。文献だけ」


 書物でしか見た事が無いと言ったところか。だがセルスの千里眼なら土地がどんな姿形をしているかは分かるはずだ。

 あえて言わなかったか、それとも知らなかったのか。

 ともかく何事も起こらず、ようやく峪の底まで着く事が出来て安堵する。


「少し休憩すっか」

「あたしはまだまだ動けるけどね」

「馬鹿か。これからある奴に会いに行くんだからほんの少しでも疲れを残したくねぇンだよ」

「会いに? こんな所に居ないと思うなぁ」


 いや、いる。なぜなら、そもそも雷が降り続いていると言うのがおかしすぎる。この場所にあいつがいるなら全て納得できるからだ。


「ンじゃ、お前はついて来なくても良いぞ?」

「はぁ? ふざけないでよね。あたしは好きでついて来てんだから。それに、現地調査にもなって丁度良いし」


 手に持った魔法の杖を片手でくるくると回しながらカツンッと地面へと突き立てた。


「〈インヴィジブル〉」


 薄い膜が張られ、外から俺たちの姿が見えなくなる。


「にしても、暗い……。明るくしちゃダメ?」

「ンな事したら明かり目指して魔物が集まって来て面倒だろうが」

「そうなんだよねぇ。〈暗視〉」


 カツンッ。もう一度地面に突き立てて魔法を発動したセレクト。どうやら魔法を発動するのに一回、地面へと突き立てるのを魔法発動の条件にしているようだ。それが一番魔法を構築しやすいのだろう。


「あんたは見えるの?」

「ったりめぇだろ。何でも魔法で解決できるとは限らないからな。逃げる時は魔力納めて暗いとこってな」


 懐から持ってきていた保存食を口の中に放り込む。それから水筒の中身を飲んで一息つく。


「それより、ここからどっち側の方が魔力が濃い?」

「え? えぇっと……こっち?」


 疑問形の発言に胡散臭さを感じながら俺はその方向を見る。

 俺の目は暗い中でも見えるからその先がわかるけど、それでもずっと奥までは見えない。


 暗いな。


 どれくらい下にもぐったかと思って上を見てみるも雷を起こしている曇天が遮っていてわからない。

 だけど雷がこの崖の最層に落ちてこない事を考えると相当下なのか、もしくは意図的に落ちないのか。雷の轟音が聞こえないのも少し疑問が残る。


(まぁ、今は関係ねぇか)


 もはや口癖となってしまった言葉を脳内で吐いて、元気さが残るセレクトを見ながら立ち上がった。


「ンじゃ、行くか」

「了解のすけでありんす!」

「ンだよそれ……」



★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★



「リク君!? 嘘でしょ!? マナさん! すぐに追う事は――」

「う、うん! 〈炎翼〉!」

「待った二人とも! 〈カードアウト〉!」


 ウチが炎の翼を出して飛ぼうとしたその瞬間、ライナの静止が入った。

 ライナが放った魔法はウチの体を地面から出てきた鎖で縛り、動けなくさせるものだった。


「ライナさん、どうして!?」

「〈カードアウト〉!」


 ライナはそう言うと新たにとりだした三つのカードに魔力を入れて解放。そのすべてが鳥型の魔物で、急いでリクを助けにと崖の下を急降下していった。

 だが――。


「ゥォォォォ!!」


 不気味な声を上げた体格がサイのような鈍重の魔物が瞬時に消え去り、次姿を見せた時にはライナの放った魔物を三匹全て角で串刺しにしていた。


「嘘!?」

「やっぱり、白銀ちゃんが崖に落ちたのはあいつが意図的にやったことか! この目で見るまで信じれなかったけどッ! 〈カードアウト〉!」


 今度出てきたのは魔獣と言うべきか、とがった牙を生やした虎が合計六頭。それらは自慢の足を生かして壁を跳躍してその魔物に襲い掛かった。

 魔物はなすすべ無くその虎にそれぞれ首や体などに食いつかれ、牙が突き刺さるが物おじず、体を大きく震わせて喰らいついた虎を外す。かと思いきや、その魔物の姿が消えて――ドォンッ!!


「な、何!?」


 鈍重な魔物が壁へと物凄い速さで激突。首とその近くに食らいついていた虎は潰されてしまって、残りの虎は下へと落ちていく。だがその虎も空から降って来た雷に撃たれて死んでしまった。どの虎も消えてしまった。


「つ、強い……」


 特に血も垂れていない鈍重の魔物。それはのそのそと空中を歩いてウチ達の前に出てくると、ジッと見つめてきた。


「ま、まさか今度は私達に?」

「さ、さすがにあんな速度で壁に挟まれて激突されたらさっきの虎と同じような末路に……」


 どうする……。どうすればあの魔物の突進を防げる。

 おそらく直線的な攻撃だろうが自分ごとぶつかる所を見ると体の皮膚は相当固くて痛みなど感じない。危険だ。危険すぎる。

 角に刺されても潰されても即死間違いない。下に落ちたリクが心配で心配で仕方ないこの状況で、どうやって後を……。


 だが、一向に攻撃しようとしてこない鈍重の魔物。ジッとこちらを覗いてくるだけで決して攻撃しようとはしていなかった。


「一体、どういう事?」

「わからないけど、警戒するに越した事は無い」

「それよりも、早く先に進んで別の場所から底についてリクちゃんを捜しに行った方が!」

「「それよ(だ)!」」


 そうときまったら、ウチ達は行動を実行した。

 その魔物に注意を向けながらある程度距離をとってから、走り出した。


「く、こんな走りにくい場所じゃなかったら!」


 足場は歩幅程の感覚しかなくて、片方が壁があるのでとても走りずらい。右肩の服がかすっているがそれでも走るしかなかった。

 前で現れる魔物を斬り裂いて行くは前衛のソウナで、召喚師であるライナは真ん中。後ろはウチが担当する事になった。

 ウチは後ろを確認しながら走るので少し速度が遅くなるが、背中に炎の翼を顕現しているので特に遅れる事は無くついて言っている。


 後ろからは、魔物が少しずつまるでテレポートするかのように近づいてきているのだがウチはそれに対応するべく魔法を放つ事が出来なかった。

 もしこの場で魔法を放って爆撃などで岩などが落ちたらリクが潰されてしまう可能性がある。だからもっと遠くに行ってから魔法を……。


「マナさん! あいつは!?」

「まだついてきてる! だけどわかった事がある! あいつが瞬間移動するみたいに走る距離は長くて五十メートル! 仮につけるけど休憩時間は約十秒!」

「十秒以内に五十メートル以上の距離が必要だね! 〈カードアウト〉!」


 鳥の魔物がウチ達に並んで、上や下から来る魔物に対して対処する。


「どこかに隠れる所無い!?」

「無理よ! ここは崖よ!? 何とかして倒せない!?」


 ソウナにそう言われ、ウチは心の中で舌打ちする。

 ここは崖でしかも雷がなぜか隅に居るウチ達よりも飛んでいる鳥たちに向かって容赦なく降り注ぎ続いている。

 これはまさか飛んでいる物を集中的に狙っている? そんな考えてよぎってしまう。だけどウチに来ない所を見ると崖の間に飛んでいる鳥だけを狙っている。これは明らかに雷に意志があるとしか思えない。


(まさかここにキリが来た理由って……。いや、そうとしか思えない!)

「〈火球〉〈火炎〉〈火柱〉〈火渦〉! 〈焔球〉〈火炎旋風〉!!」


 ウチは魔物が走り終わったその瞬間をねらって連続魔法使用、そしてユニゾンレイドを発動した。だけど、それだけでは終わらない。


「〈螺旋焔球〉!!」


 ユニゾンレイドにより発動された魔法を更に組み合わせて更に強力なユニゾンレイドを発動した。

 始め出した〈火球〉がその何倍もの大きさとなり、その周りをまるで奇跡を残した惑星の様に飛ぶ焔。それが鈍重の魔物へと衝突した。


「これで、終わり……な訳ないか~……」


 巨大な魔法を喰らってもびくともしない鈍重の魔物。だがニ角は中程からぽっきりと折れてしまっている。おそらくあれで受け止めたのだろうが折れて、残りは体をぶつけて破壊したと思われる。


「どうしたら……」


 悩んだその時。


「ゥゥゥゥォォォォォォォォォォ!!」


 鈍重の魔物は声を上げてその体に赤く光る線が現れた。それはまるで血脈のようで、真っ赤な血が流れているかのように薄気味悪く流れていく。

 まさか、今ので怒ってしまったのだろうか。


「二人とも! アタシの魔物がこの先に洞窟があるって! それまで走り続けて!」


 ライナがそう叫んだ。

 なら、隠れるために魔物の視界はせめて潰しておかないとッ!


「〈酸硝煙〉!」


 すぐさま思いついた魔法を構築、発動し、赤く光らせた魔物に放った。

 その魔物はまともにその魔法を受けると、姿を消した。



 ――ズゥンッ!!



「!?」


 ウチの真横に開いた穴。


 パラパラと落ちていくその壁の破片。


 まるで巨大な一発の弾丸のように飛んできたその見えない速度に恐怖を覚えながら、先程眼つぶしがしっかりと効いている事を確信した。


「マナさん! 魔物は!?」

「だ、大丈夫! 今なら逃げ込める!」


 ウチはソウナにそう言い、そして見つけたその洞窟のような穴へと入った。


誤字、脱字、修正点があれば指摘を。

感想や質問も待ってます。

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