キリを探して
視点がリクちゃんからソウナさんになります。
「キリさんは?」
「いいえ、地下にはいなかったわ」
「まったく、あいつはどこ行ったの~」
深夜一時。そんな時間になっても夕飯以来戻ってこなかったキリに、ボク達は心配して寝ずに探しているのだがほんの少しの情報すらない。
部屋や城に居ないとすると、やはり外へと出たのか。
「こんな時間に失礼だと思うけど、セルスさんの部屋に言ってみたらどうかしら? 彼、千里眼使えるのでしょう?」
確かにセルスに頼めば必中だ。だが何故それをしないかと言うとやはり時間帯だ。こんな夜更けに他の人の部屋に立ち入ろうとするのは気が引ける。
「でも、それしかないよね~。心配だもん」
「はい……」
ボク達は三人して三階へと転送し、そして廊下を奥へ奥へと進んでいく。とは言っても廊下が丸になって繋がっているのでセルスの研究所がある場所まで歩くのだが。
そして、ボク達がセルスの研究所の扉の前に来た時だった。
「あ、そう言えば今はセルスさん、部屋の方に居るんじゃないかな~。こんな夜更けまで要ると思う?」
「寝ていると言う可能性の方が圧倒的だけどね」
確かに。ボクの予想では十中八九寝ていると思われる。
そんな時。
キィ……と音が鳴りながらセルスの研究所の扉が勝手に開いた。
なんだか、招かれているようだ。
ボク達はその扉の中に入って行くと、扉はまた勝手に閉じた。
「やぁ。こんな夜更けに何の用だい? なんとなくわかってるんだけどさ」
回転式のイスを回しながらセルスはボク達の方へと振り向いた。
その右目は渦を巻いている所を見るとおそらくボク達の行動を見ていたのだろう。
「あの、キリさんが夕食の時から帰ってこないのですが……知りませんか?」
「知ってるよ」
やはり。おそらく千里眼でキリの姿も捉えているだろう。
ならばあとは教えてもらうだけだ。
「教えていただけませんか?」
「嫌だね」
セルスがあまりにも堂々と言うので、驚く。てっきりすぐに教えてくれる物とばかり思っていたが、一体どうして……。
「大体ね、キリさんは自分から聞きに来て口止めをされちゃったんだ。セレクトを連れて行かれちゃってね。今僕暇なんだよ」
寝ないのですかとは聞かない。おそらく聞いたら最後。明日の朝になるまでキリの行方がわからなくなる可能性が出てくる。
「どうしてキリさんが? どんな理由があるの?」
それはそうだ。セルスに訊きに来る事とは、一体どんな事だろう。
「ん~。それは良いかな。未来のための布石、だってさ。とある神様の居場所を聞かれてね。まぁよくわからなかったんだけど」
神様の居場所? まさか、キリは神使いになるつもりなのだろうか。それはそれでありがたいけど、でも神様の一人も持っていないキリが戦ったらきっと、返り討ちにあう可能性が……。
「き、キリさんは……強くなったんですか? 強くなったから神様の場所を……?」
「いやぁ、どうだろうねぇ。ただ、レインと理菜が何かやってしまったようでね。キリさんの魔眼と二人がやってしまった事を掛け合わせると、たぶん勝てると思うよ。彼、一般人の中では最強と言っても良いだろうし」
キリの魔眼? そう言えば、キリはセルスに頼みこんで魔眼を手に入れていた事を聞いた。一度も使った所を見ていなかったのですっかり忘れていた。
「ま、そう言う事だから、諦めたら? セレクトも付いてるから死ぬ事はまず無いし」
「……死ぬ事は無い、ね」
ソウナが復唱するように呟き、ボクを見てくる。ソウナはここで手を引くべきかどうか少し迷っているようだ。だけどそれはボクも同じだ。
今ここで本当に手を引いていいのか、あるいは関わって行くべきなのか……。
「とりあえず君達、今日はもう寝たら? キリさんもたぶん何日かは掛かると思うから」
「それはどうして~?」
「遠いってだけじゃないからね。キリさんが言った場所。『雷鳴の峪』とも呼ばれる場所の最奥だから行くのがただでさえ難しいんだよ。あそこの雷は魔法使いがしっかりと防御を張らないと撃たれたら感電死の危険性があるからね」
セルスはそれだけを言い、白衣を脱いでイスに掛けた。
「あぁ、調べるなら六階が図書館になってるからそっちでどうぞ。まぁ今は閉館中で入れないよ? 一人で毎日受け付けしてるライナさんも寝てるからね。この時間帯は」
そう言ってセルスは部屋から出て行った。
結局。起きている間にキリを見つける事は出来ずに、その日は終わってしまった。キリが『雷鳴の峪』と言う危険な場所へと行った情報は手に入れたが。
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「さて……と」
キリを探すのをまた明日になった以上。早く寝たいと思ったが、今日最後の難関である物が残っている。
私はまたリクとマナが寝た後、二人に迷惑を掛けないように地下へと箱を持って行った。
もちろん、箱とは『パンドラ』だ。
場所は地下一階。
なんやかんやでこの部屋を気に入っている私はこの場所が丁度良いと考えたのだ。
箱を開ければおそらく出てくるであろうたくさんの病魔や災厄。それらを全て払いのけなければいけない。
そんな中で、私はキリの事を考えた。
私が少しでも力をつけたいように、彼も未来で力をつけたくて神様を求めたのではと。
「ディス。準備はいい?」
『もちろんだ』
私の服はディスの神具によって包まれる。それから、ディスに教えてもらった強化魔法も唱え、いつでも治癒の魔法と、状態を回復させる魔法を用意させておく。
そうして……。
「さぁ。始め――」
「ソウナさん……? こんな時間にどうしたんですか?」
ぱかっ。
「え? リク君!? どうして!?」
黒い瘴気によって、私と後ろに居たリクが巻き込まれて零の世界へと旅立ってしまった。
次に目が覚めたのは暗い、だが私とリクは色付きで他は何も無い場所へと放り出されていた。
そして自分とリクにそれぞれ毒や麻痺などの異常な状態になっているので回復を掛けた。
「〈クリア〉」
光が私とリクの体にそれぞれ振りかかり、体の自由が戻るとともに息苦しさも治った。
「もう! どうしてリク君が追って来ちゃったの!?」
「だって、キリさんが居なくなったらソウナさんだっていなくなるか持って思うじゃないですか! ボクとマナちゃんが寝ちゃった後にすぐこっそりと外に出たんですから!」
「そ、それは……」
口ごもる私。これでは隠していたと言っているような物ではないか。
「ホントは、ちょっと不安だったんです。キリさんが出て言っちゃって、ソウナさんや、マナちゃんも無理をするんじゃないかって……。マナちゃんはすでに無理をしていますけど、命のやり取りはなさそうですし……。そう考えたら、ソウナさんが急にいなくなるんじゃないかって……。それで眠れなくて」
リクが少し涙目で訴えてくる。この不安な表情にさせたのは、やっぱり私だろう。
そう思った私は、自然とリクの頭を優しく撫でていた。
「大丈夫よ。危ないことなんてしないから。私は確実なことしかやらないわ」
「ホント、ですか? 絶対に、無茶しないでくださいよ?」
「それはリク君には言われたくないわね」
「それもそうですね」
私が苦笑しながら言うと、リクも一緒に笑った。
そうしてると、急に少し遠いところで、黒い闇が現れた。
それはローブで全体像は隠され、決して姿を見させてくれない格好。
「誰……。箱を開けた愚か者は」
誤字、脱字、修正点があれば指摘を。
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