白銀の少女
「君達。覚悟は良い? 小さい子達を大人数で寄ってたかって、自分達が何をしているのかわかっているの?」
手足が自由になった。
ボクを抱きかかえている白銀のショートボブのボクとあまり年齢が変わらないくらいの少女が縄を斬ってくれたのだ。
頭にはくせ毛が一本ぴょこんと生えていて、服は白い布地にピンクの軽装鎧を着ており、足はスカートと横に一本だけ黒線の入った白いニーソックスでほとんど隠されてあった。
抱きかかえている反対の手には天使の羽根のような柄がある綺麗な剣を握っていた。
それとは別に、ボクと少女の周りにはバチバチと火花では無く雷の鳴る音が聞こえていた。魔力粒子は見るだけでとても濃く、魔力をうまく扱えない自分でさえ肌からはびりびりとした空気を感じていた。
「あぁん? 誰だテメェは」
「誰だと聞かれて、名乗る人なんてそうそういないよ」
明らかに不機嫌な空気を漂わせて睨む頭に、なんにも動じることなく淡々と告げる少女。
少女は頭に向けている剣を下ろし、鞘へと納める。
その内、頭の近くに居た人攫いの一人が声をあげる。
「あ、あぁぁ!? お、お頭ぁ! こ、こいつ、例の! 例の奴ですよ!!」
「あぁ? 例のだって誰だ」
「あいつ……あの、今世界中に話題になってる姫君っすよ!!」
「なッ!?」
姫君?
そう思いボクはその顔を見上げる。
天真爛漫そうなで、天使の様な可愛らしい顔だが、どこかで見た事があるような顔。だけど見た事のある人とはどこか雰囲気が違うといったところだろうか。 白銀の髪はボクと同じなために遠い親戚のような人なのだろう。
ボクがずっと見ていたために、少女がこちらに向いて満面の笑顔をくれた。とても可愛らしい笑みに、ボクはつい見とれてしまう。
「大丈夫だよ。すぐにこいつら倒してあげるからね? お姉さんに任せなさい♪」
そう言われて、不思議と安心してしまうボク。
ボクは少女に近くに木を背もたれにさせて座らせてもらい、人攫い達に一人で立ち向かった。
「だ、ダメですよ! その人達、物凄く強くて――」
一人で十数人の人数を相手取るだなんて無理だ。そう思ってボクは止めたのだが、少女はこちらに振り向いて笑った。
「大丈夫って言ったでしょう? 私は負けないから、ね?」
ついでに頭を撫でられてしまって、ボクは言い返す事も何もできなかった。
一人で人攫い達の前に出たからか、少し動揺しながらも覚悟を決めて頭が叫んだ。
「噂に踊らされるんじゃねぇ。こんな奴が俺達全員を相手取れる訳ねぇだろうが!」
頭の喝に人攫い達が体を震わせてその手にそれぞれ武器を握り始めた。
その様子を見ていた少女は呟いた。
「へぇ。ただの噂だとか思ってるんだ。それだったら、ちょっと見当違いだね♪」
無色の魔力粒子がここら一帯を囲むように解き放たれた。
その無色の粒子は次第に色づいて行き、黄色へと変化。
少女は戦うに鞘から剣を抜き放つのではなく、その手から放たれた雷が地面へと貫通し、その雷を伝うようにして地面から黒い何かを吸い出していた。
「何、だ。それは?」
さすがに動揺を隠せなかった頭が少女に訊く。
「ただの砂鉄よ? まぁ振動させればチェーンソー代わりになるし、完全に固めればそこらの鉄よりも丈夫よ。魔力が流れてるからだけど」
黄色の魔力粒子がその地面から吸い出された砂鉄に色濃く付着されている。先程は無色だったのに、いつの間に黄色になったのかと検討する余地も無くボクはただ呆然と見ていた。
そしてその砂鉄が少女が剣を握る様にすると剣のような形を作り握られた。
だがその刃先は携帯のバイブ音のような音が常に発生されており、触れたら即アウトな予感がする。
「さぁ。捕まりたい人からどうぞ掛かって来なさい!」
少女が高らかに叫び、砂鉄をまるで剣のように振ると、その砂鉄からヴゥンと音が鳴る。しかし、その音も次第に小さくなり、ほぼ無音を貫いて振動する片刃の剣となった。
「やれ!」
頭が指示を出すと、人攫い達がその少女へと群がった。
まずはじめに縄を持った男が捕まえようと迫ってくるも、黒い砂鉄に地面から襲われ、次の瞬間には少女の真下にピクリとも動かずに倒れていた。
次に襲ってきた剣を持つ男の剣に合わせると、男の剣がいともたやすく焼き切れて少女は男の腹に拳を入れた。男は元来た道を飛ばされていき、その一撃で動かなくなった。
更に二人で襲ってきた男たちには固めていた剣を解放し、二つの剣に分けて滑らかな剣舞で斬り裂いた。焼き切ったために出血する事は無かったらしいが、足を斬られたために痛みで立てない。
二人で無理ならと更に多い複数人で襲ってきた男たちに向かっては剣を解放して砂鉄とし、広い範囲で攻撃した。
次から次へと襲い掛かってくる体格のいい男相手に明らかに不利だろう体つきの少女が今までボク達を圧倒していた人攫い達を一歩も動く事無くほぼ一瞬で全滅させたのだ。
「ふんっ。こんなもの?」
左手を腰辺りに当てて、手に持っていた砂鉄の剣を地面へと戻した。
バシャァンッと水のような音が鳴って砂鉄が分解され、地面に黒い丸を作った。
頭は倒れた部下達を見て、その体を震わせていた。
「嘘だろ……。あの噂はホントだってのか!」
「本当だって。あんたバカ?」
「!?」
一人となって頭が何者かに首元に剣を当てられて動く事が出来なくなる。
「だ、誰だ……?」
「誰だって言われたら、私はユミちゃんの親友って答えるよ」
白銀の少女と同じ質問をした頭。首元に剣を当てていたのは白銀の少女と同じぐらいの年の少女だった。
黄色のセミロングに大きなリボンが特徴的で、やはり白の布地に黄色の鎧を着ていた。ただ、スカートは同じように膝まであるのだが、ニーソックスは履いておらず、脇が出ているが代わりに腕を隠すように袖がつけられてあった。
その少女は剣を持っていない手で人差し指を頭へと向けて、逆時計回りを描いた。
すると頭は眠る様にして倒れてしまった。
白銀の少女が戦い始めてから十秒。
そのたった十秒間の間で十人以上も居る人攫い達を全滅させたのであった。
――しかも、一人も殺す事無く無力化する事によって。
ボクは思った。
目の前に居る白銀の少女とボク自身の力の差が、途方も無く離れていると言う事に……。
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