戦争終結!?
「す、すごいわ、リク君……」
「い、いつの間にこんな魔法……」
隣に居た二人は兵士に攻撃をすること無くボクを見ていた。
「あ、あはははは…………」
入れる魔力。しっかりと考えていた方が良かったかも……。
今回反省するべき事なのだろうが、実際どうやってたらこんなでたらめな力が発動されたのかがわからなかった。
その時……。
「怯むなぁ! 冷静に対処しろ! 我らはロースクルスの神の名の元に戦いに来ているんだ! 中心に居るあの白銀の娘を討て!」
「娘じゃないよ! 彼女の名前は【金光の白銀蒼】よ!」
「ユミさぁあん!? そんな人の事を勝手に教えたら――」
「ぬ! ならばあの白銀の髪をした【金光の白銀蒼】を討て!」
「ほらぁぁっ!!」
完全に覚えられてしまったボクめがけて複数の兵士が襲い始めてきた。
それらの兵士にはなぜかイブの剣は回らず、仕方なしに刀に魔力を込めた。
「〈一刀両断〉!」
横に一閃。それらはすべて襲ってきた兵士たちを文字通り両断するのだが、兵士たちの体が上と下に別れるのではなく、赤いエフェクトのような物が浮き出てその線に沿って兵士たちは斬られていた。
自分で言うのもなんだが、おそらく神経や精神へのダメージとなったのだろう。斬られた兵士たちはみんながみんな、下半身を動かせなくなったようで、その場にバタバタと倒れてしまった。血が内部でも破裂していないようで、死ぬ事は無いだろうが何ヶ月か立てなくなる事は間違いないと思われる。
「な……何が、一体……」
今までそんな事が出来なかったし、始めてこの世界に来て襲われた時もこんな圧倒など出来なかったではないか。
それが今日。しかも敵国の精鋭だろう兵士たちを簡単に……。
そんな中、後方から多数の魔力が集められた。
その量は先程放たれた物と少し違い、数こそ少ないものの込めている魔力が違う物で特殊な物である事を知る。
「来たか。リクちゃん! ロースクルスの特異魔法だよ!」
「は、はい! うぇ!?」
ボクはいつまでも考えていてはいけないと思いユミに答えると、急に肩を何かに掴まれ、空へと上げられた。
すぐに目を向けると、そこには肩当て防具があり、それらがボクを引き上げた。魔力は無い。だけどそれを動かしている人はハッキリと分かる。
『ここからなら見えますか? スコープもありますが』
「ううん。大丈夫」
ここからわかる。それはなぜか?
ロースクルスの魔法使いが放つ魔法が、一人で放つのではなく何人かが魔力を集めて使っているのだ。魔力がそれだけ込められている事がわかる。
な、だけでは普通は見えない。これはある魔法を使ってからわかった事だ。
『よいかリク? 目に魔力を溜めるのじゃ。唱える魔法は〈ホークアイ〉』
「〈ホークアイ〉」
魔法を発動し、ボクは遠くに見える敵の顔がわかる。もちろん、顔が見えると言う事はその手から放たれている魔力も見える。
スコープやガラスなど、透明な物越しに見ると、どうやら魔力粒子が見えないようで、見るためにはこの肉眼で見るしかないと言う事。だからスコープは断った。
それから男たちは複数人、空へと浮かんだボクめがけてその特大の魔法を放った。
魔力粒子がそのままボクの方へと直線で襲ってくる。だがそれらは途中で別れ、一つが四つとなって真っ直ぐに突っ込んでくる。
ボクは柄をしっかりと握り、その魔法を斬り裂いてキャンセルした。
だが、その刀で斬れなかった魔法が存在し、それはボクの刀を避けて湾曲しながら襲い掛かってくる。その理由はイヴの物と同じだった。
魔法に魔力供給線を通して意志を、その魔法に伝えて操っているのだ。
だから……。
「せぃ!」
その魔法に繋がっている魔力供給線を断ち切る。すると魔法はあとかたも無く消えていった。
たいして強くも無いと思ったその魔法だが、魔力供給線を通して操れると言うのは少し得な物がある。
ボクは同じように魔力を込める。だけど、どうせなら四つでは無くもっとたくさんの方がいいのではないか?
そんなことを思ったボクが取った行動とは……。
「今使えるユニゾンレイド……あれ、この魔法に込める事出来ないかな……」
『どうでしょう? それより、『肩』でもたれるのもなんですし、わたしが『羽』をだしますか?』
『あ、それだったらあたしやるぜ?』『いえいえ~。ここは春が~』『…………私』
「えっと、慣れてるシラじゃダメかな……?」
ボクがそう言うと、他の三人はぶーぶー文句を言う事なく了承してくれた。
そうすると、腕輪になっていたシラの神具が光の粒となり、そして背中へと氷柱の三対の羽となったのを確認してイブに知らせる。
「イヴさん。肩の外していいです」
『わかりました』
肩につけられた防具を外されると、ボクは自分で氷の羽を動かして空中に浮く形をとる。
そして……。
「〈ファイア〉」
まずは手に火を込め。
「〈アイス〉」
次に氷をその火に混ぜる。
そこでまだ風の魔法を発動する前にロースクルスが放った特異魔法を何とか顕現出来ないか試してみる。
そして、もうここまでくるとなんとなくわかる。
どうしてユミが何ヶ月も掛かった魔法を一日で、しかも一回だけ見て参考にして放つ事が出来たのか。どうしてサラの似た魔法を一日も立たずにすぐ発動する事が出来たのか。そして、地下三階でユミが何を言おうとしていたのかも。
おそらく、ボクは特異魔法をコピーでもするような事を得意とするのではないだろうか?
威力は落ちてしまうが、完全に自分の物にすれば彼女らと同じような力が出せるのではないか?
威力は違っても、コピーからアレンジもできるのだ。考えようによっては先ほどよりもさらに強くすることもできるはずだ。
ボクはそんな自信を持って、右手にとどめた魔法をそのままにして、左手で目の前に翳した。
ボクはまだ両手で他の魔法を使えるほど魔力操作が得意ではない。だが、ルナが居る。
右手の魔法をとどめることをルナに任せると、ボクは全神経を左手に集中させた。
彼らが放った魔法はたくさんの人数が居た。それだけ魔力を喰う。でも、ボクは今、五人の神様と戦っている。
あ、そうか。先程魔法を発動した時に五人いる事を忘れていていつものように使った結果があれだったのか。
玉を形成する。光の玉だ。その玉をどうアレンジするかと言うと……。
玉に使う魔力は、ボクの魔力と、そしてユニゾンレイドで使わないソメの魔力を込めた。ソメの魔力には一体どんな属性が与えられているかわからないが、ボクは彼らが数人で作った魔法の玉を一人で作り……。
「〈エアロ〉!」
右手の魔法に最後の魔法を込めた。
「〈フロストバーニング〉!」
その白い玉に向かってその魔法を放ち、それが合図となってその白い玉が魔法に巻き込まれながら後衛陣へと飛んでいった。
大丈夫。成功する。
そんな確信を得ながら、ボクは白い玉を分裂させる最後の言葉を放った。
「〈レイ・シーズン〉!」
ボクが想像した魔法は……。ホントに、ホントに簡単な魔法だったんだ。
光の玉はロースクルスの後衛陣へとまるで凍るような雨の如く降り注いでいき、一瞬にしてここと向こう側の季節が違うかのようになってしまった。後衛陣が居る場所は極寒の地。地面が氷、雪のような物まで見えるような気がする。
そして、その中で燃える冷たい炎。弾けて数百はあっただろう光に当たった兵士たちは全員死んだように動かなくなったりして、ほぼ全滅してしまったと言っても仕方ないだろう。
「…………ボク、特異魔法。使うのやめても良い……?」
『圧倒的な力を得るのは仕方ないのぅ。七体もの神と契約しておるのじゃから』
『ちなみに、私の魔力属性は楓。いろんな状態異常を引き起こす所謂病気になる魔力。人の免疫力も下げたりする。病気になって、みんな喜んでる。きっと、体が熱くなって、風邪を引いて喉を痛めて、自分の肌をむしり掻きたいほどになって……きっと、快感』
ルナの言葉の次にソメが自分の魔力について話してくれた。
うん。それってさ。まるで病気の神様見たくなってるよね……。
『私と同じ性癖になってくれるような病気も――ぁふん♪』
頭の中で誰かに殴られたような声を出すソメ。おそらくツツだとは思う。
「ま、魔導隊が……ぜ、全滅!? ひ、退けぇ! 退けぇ!!」
ボクがソメについて悩んでいると、下でリーダーらしき兵士が撤退する声が聞こえた。
だが、今起きている兵士は目視で数えて数百人ほどだろうか?
始め襲ってきた時は八千とか聞いていたのに、たくさんの人が倒れたんだなぁなんて現実逃避をしてみたが。
「クソッ! 電光王国に新たな戦力とか聞いてねぇ!」「【金光の白銀蒼】とか、あいつマジでヤベェじゃねぇか!」「ふつくしい……」「逃げろ! 逃げろぉ!!」
完璧にボクの二つ名覚えられちゃってる……。これ、大丈夫なのかな……。主に歴史的な意味で。
ボクが思ったそんな時。
「だぁれが逃がすって?」
兵士たちがまるで静止するかの様に止まった。
そして……数百人いただろう兵士たちが一斉に地面へと倒れ込んだ。
「リーダーみたいなあんた一人以外。全員転送させて返すに決まってるじゃない」
そうやって、ボク達が過去に来て初めての戦争は幕を閉じた。
『戦争時間。九分三十六秒。残念ながら新記録ではありませんね』
「まぁ、仕方ないじゃん? リクちゃんに自覚してもらいたかったから」
新記録じゃないって……一体何分なんですか……。
敵国からしてみたら、この速度で戦争が終結してしまうなんて恐ろしすぎるだろうと容易に想像できた。
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