箱
視点はソウナさんですよ~
路地裏は表通りと同じように整備されていて、未来では怪しいと思えるような店でもまったく怪しく感じない。
路地裏と言うよりは、普通の道路の様の見える。道幅もそれなりに広いし、光も差しこんでくる。
「モンスター雑貨屋……モンスター雑貨屋……」
『なかなか無いな。もっと奥なのではないか?』
「そうかもしれないわね」
私はディスの答えに相槌を打って奥へと店を見ながら歩いて行った。
すると……。
「あ、あった。あれじゃない?」
『だな。しっかりとモンスター雑貨屋と書いてある』
中から誰か出てくる気配は無い。窓から中へ見てみると何十人かが集まって何かしているようだ。
「ここからじゃ良く見えないわね。アリスさんが居るはずだから、まずは中へ入らないと」
私はそう言って雑貨屋の扉を開けた時だった。
「なな、何と今回の腕相撲、勝ったのは可憐なアリスちゃんだーーーーーーーッッ!!!!」
「「「おぉぉぉぉぉぉぉぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!」」」
ブワッと来る熱気と歓声。
まるで私自身が飛ばされるような感覚を覚えながら立ちすくんでしまった。
「えぇ~。それでは今からアリスさんから優勝者のコメントをお願いします」
ごくり。そんな片時も油断できないような雰囲気が一気に店内の熱を冷まして静かを貫き通した。
「お前ら! まだまだだな!! アリスに負ける様じゃ世界をとることなんて諦めな!!」
「くっそぉぉぉぉ!!」「次こそは! 次こそはぁ!!」「あの高い鼻をへし折りてぇ!!」「誰かアリスちゃんに勝てる力自慢はいねぇのか!!」「魔力を注ぎ込んでも勝てねぇって、男の名折れだちくしょぉ!!」
「はぁーはっはぁ!!」
…………。
「ディス。しばらくそこら辺を歩いていましょう。私が入れる領域じゃないわ」
『アリスに様があって来たのではなかったか?』
わたしは問答無用で扉を閉めてとりあえずその店とは正反対の扉を開けた。
「いらっしゃぁい……」
とりあえずで入ってみたが、なんだか少し暗い店のように感じる。
そう思ったら、なんだかカーテンが閉まっている。暗いのはそのためかと思い、とりあえず店内を見回してみた。
中は暗くて見にくいが、確かに商品がたくさんある。
「何かしら、これ?」
私はその内の小さな箱をとる。
中になにが入っているのか、開けるぐらいなら大丈夫だろうと考えた私はその箱に手を掛けて――。
「嬢ちゃん……」
「ひゃぁ!? ……あッ!?」
急に後ろから声をかけられたので手に持ったその箱をつい落としてしまった。
「わっ、わっ、わっ!」
だが、何とか空中キャッチをしようとして何回か手の上で跳ねさせてようやくキャッチする事に成功した。
「あ、危なかった……。ちょっと、急に怖い声で話しかけないでくれる?」
「怖い声とは失礼な……。君にその手に持っている箱を開けるのをやめさせようとしただけだよ……」
そう言えば、前にもこんな事があった。
あぁ、そうだ。ヘレスティアに行ったとい、マナと入った閻魔の腕輪を手に入れた店だ。
あの時もこうやって驚かされた。
とすると……。
「この箱。ただの箱じゃないのね?」
「知ってるのか……? そうだ……。それはパンドラの箱。決して開けてはならない恐怖の箱だ」
「パン……ドラ……っ!?」
もう一度落としてしまいそうになるのを何とかとどめて私はその箱をジッと見つめた。
「やめとけ……。それは見る人を魅了させ、開けさせようとする……。君の様に魅了された人間が持つ物じゃない……」
店主のしわくちゃな手が私が持つ箱を掴む。
だけど……私は手を離さなかった。
「ねぇ。これ、開けてみない?」
「バカを言うんじゃない……。それからは疫病、悲嘆、欠乏、犯罪、それらを強制的に起こさせる悪魔が生み出される……。嬢ちゃん……それを電光王国に撒き散らすなら今すぐワシが嬢ちゃんを殺す……」
「ねぇおじさん。これ、いくら?」
「聞いていなかったのか……? そいつは売れねぇよ……」
そう言って店主の剣が首に突き立つ。
いつの間に用意したか分からないが私はそれに落ち着いて対処した。
「ディス」
『ああ』
瞬時に服が切り替わる。
剣を腰に下げ、柄を握ってその剣を真っ直ぐ上げて首に突き付けられて剣を弾いた。
「私が、魅了されるはず無いでしょう? むしろ私が魅了させてやるわよ」
「…………」
箱をしっかりと左手で持ち、右手で剣を持って店主の首筋へと付き立てた。
ディスの補正があれば、一般市民ぐらいは何とか退けられるようにはなっている。いや、この店の店主と言う時点で一般市民ではない事は分かっている。未来でもクムイと名乗る強敵だったのだから。
案の定。首に付き立てた剣は急に振り上げられた剣で弾かれ、店主と私の間に距離が生まれた。
大丈夫、強くなってると私は自分の心に自信をつけさせ、その剣を握る手に力を入れる。
「面白い……。神の使い手だったか……。人はやはり見かけによらん……」
だが、その店主はゆっくりと剣を下げて鞘へと納めていった。その剣はゆっくりと壁へと立てかけられ、元いた奥へと戻って行った。
あまりにもあっけなく引き下がった店主に私は動揺して、剣を鞘に納めるのも忘れる。
「どうした……。持って行かないのか……」
「い、いえ。あまりにも簡単に引き下がるのね」
私はそう言うと、ようやく剣を鞘へと納めて店主を見た。
「神の使い手ならば魅了される事はまず無い……。そして、お前回復魔法が得意だろう……」
「え!?」
一度も見せた事が無いのに何故そんな事がわかるの!?
第一、私はまだ一度も魔法を見せていない。魔力は普段から解放するようにしたが、それだけで分かるはずがない。
「回復魔法が得意ならば、そのパンドラを開けた後の呪術を解く事が出来るかもしれぬ……」
「待って! どうして私が得意だって……っ」
「簡単だ……」
店主はそう答えると、店のカウンターにある水晶を指した。
それは水色にキラキラと光っていて、とても綺麗な物だが……あれが一体?
「あれは魔力解析が出来る物だ……。水色で光を放てば回復魔法……」
魔力が解析できる。そんなのは未来には無かった。
あったらリクの魔力を調べるために使っていただろう。
「でも、どうやって?」
「別に良いだろう……」
店主はそう言うと何もすることも無くカウンターのイスに座った。
いまさらだがその店主。髭が長い。髪は白髪だがしっかりと生えて逆立っている。一般市民と見間違うのは一体どういうことか。
「ねぇ。あなたはいつもここに居るの? まだまだ戦える剣士に見えるのだけど。それに、こんな危ないものを売っているのだし」
「ああ……。すでに隠居の身だ……。近くの道場へたまに行くぐらいだ……」
道場、ね。
「あなたの名前は?」
「知る必要が無いだろう……」
そっけなく接する店主に対し、私は少し強く返した。
「興味があるから聞いてみただけよ」
「そうか……。幻際暁……。それが名だ……。さぁ、こんなジジイの相手なんぞせず、お待ちかねの相手が反対側の店から出てきた見たいだぞ……」
「え?」
驚いて私は店のカーテンの隙間から外を見る。
すると丁度アリスが店から出て来てスキップしながら帰って行っている姿が見えた。
どうして彼は私が待っていた事を知っていたのだろう。
そんな疑問を抱きながらも、私は店の扉を開けた。
「パンドラ、感謝するわ。今日の夜にでも開けて従えてやるわ」
「失敗したらワシが行こう……」
「言ったでしょ? 私が魅了させてやるわ」
私はそう言ってその店を出た。
「…………。未来人、そして……。〝マルス〟〝パンドラ〟を従える【天使】か……。面白そうだな……」
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