春夏秋冬・四人四色?
「それでは、まずはだれから?」
「それでは春夏秋冬の始めである春から参りましょうか~」
一歩前に出てきたのは中央に居たピンク色のティアラを被った春の女神。
「契約した折には、是非ともサオと呼んでくださいまし~」
「アタイの事はツツでいいぜ!」
「…………」
秋の女神が不満そうに隣に居たサオの服を引っ張っていた。
「はいはい。分かっていますよ~。彼女はソメでお願いします~。〝染姫〟でもありますから~。どうせならみんな二文字で揃えた方がいいですよね~」
ふわふわとしていそうな春の女神に、勝気な夏の女神。秋の女神はサオに紹介された首をコクコクと縦に頷いていた。
「では、私と契約するためにですが……」
サオが溜めるようにして静かになる。
ボクはその雰囲気にのまれて乾いたの喉を潤すべく唾を飲み込んだ。
そして、サオが十分なタメを作ってから……。
サッと手を上げたと同時、高々と声を上げた。
「お題はこちら~」
上げたのを合図に、そこに何やら大きめなモニターのような物が映った。
しかもそこには[季節の女神と契約しよう講座]と、とても可愛らしい字で書かれてあり、そのモニターの角にはそれぞれサオ、ツツ、ソメ、シラがデフォルメされた絵まで描かれてあった。
「「「…………」」」
まるっきり雰囲気ぶち壊しの彼女に、ボクはあっけにとられて言葉も出なかった。
「さ、サオ? もうちょっと神の試練的なオーラ出そうぜ……?」
「…………(コクコク」
「『サオ』とはながいつきあいですが、あいかわらずの『マイペース』にはしょうしょうついていけません……」
「え~? こちらの方が早く説明出来ないですか~? それに、とても可愛く出来ていますよ~」
(ううん。違うんですサオさん。三人が言いたい事はそうじゃないと思うんです)
場違いなサオに心の中でツッコム。
「まぁまぁ良いではありませんか~。ぽちっとな~」
サオが言うと、モニターの画面が変わる。『まずはじめに春の季節から契約しよう』とサオのデフォルメが書かれている。
「まず私との契約はとても簡単~」
え、待って。モニターで説明するんじゃないの?
モニター契約に関して何も書かれてないよ?
「名前がすでに知られているのでキスさせて下さい~」
「はい!?」
「はい? Yesと言う事ですね~」
「違いますよ!? 何で契約がキスになるんですか!?」
「大丈夫ですよ~。何も足とかにさせてくださいなんて言ってません~。どこでもいいですよ~。唇でも結構です~」
「十分おかしいですよ!? だからどうして契約にキスなんですか!?」
「あら~? シラとはしませんでしたか~?」
え? シラと?
そ、そう言えば名前を当てて、契約する時キスをしたような……。
あれ? 確かあの時は頬に……。
「と言う事で、私にキスをさせていただければ問題ありません~」
「う……。わ、わかりました」
ボクがそう言うとサオが近づいてくる。
「あのっ!」
「はい~?」
「ど、どこでもいいんですよね? だったら、手とかでも……」
「わかりました~」
そう言うと、サオはボクの手をとってキスをした。
「――っ」
すると、急に熱くなる右肩。
服の上からでもわかる光。そこに紋章が浮かび上がってくる。桜の花。それを広げた形の紋章だ。
「契約成立です~。確か、リク様は未来人ですから、私達と出会うのはリク様が過去へ来た後になりそうですね~」
「でなければ、『未来』がかわってしまいますからね」
「仕方ありません~。未来へと帰ったら、これをお使いください~」
サオは手を出すと、その上に石のような物が現れる。
「春石とでも言えばいいでしょうか~? 春の魔力が込められていますから使えば未来で私は貴女に気づきます~」
気づく? でも、未来ではその前にサオ達と話してはいたが……。
それでも、契約出来た事にボクは安堵する。戦うかもしれないとは思っていたがすぐに終わった事に拍子抜けとは思うが。
それでも、まだ二人残ってるので気は抜けない。
「それじゃあ今度は、ソメが行ったらどうだぜ?」
「……(コク」
思ったんだけど、モニターってもう使わないのかな? 一体何の意味があったんだろう……。
秋の女神、ソメがゆっくりと近づいてくると、紙を渡してきた。
「?」
ボクはそれを受け取って読む。
[契約するために私をいじめて。物理的でも、精神的でもいい]
「…………」
これほど読む気が失せる物があるだろうか。
ソメが期待した目で見つめてくる。
シラとツツが同情するような目で見てくる。
……どうしろと?
ソメの外見はシラと同じぐらい。つまりは少女。
そんな少女をボクがいじめる。物凄く嫌な図が出来上がる。
心を痛めるのだが……。
「リク様~? 思いっきり殴って下されば問題ありません~」
「問題あるよ!? ボクの良心に問題があるよ!!」
「まぁ。リクのような優しい人は驚いて殴ろうなんて思わないだろうぜ……」
二人ともなんにも動じていない所をみるとソメの性格をよくわかっていたのだろう。
何の非も無いのに殴るなんて……ボクには……。
だけど、これをしないと契約出来ない。
ボクは悩んだ末、ようやく覚悟を決めた。
目の前にはすでに目を瞑って待っている自然体のソメが居る。
深呼吸を一回。
大丈夫。今からやる事は正当な手段だ。ソメを殴らなければいけない。
ボクは魔力を右手に込めて、握り拳を作る。
大きく振りかぶって……。
――殴った。
ボクの拳は思いっきりソメの鳩尾へと入り、思いっきり後ろへと飛んでいった。
「ぁふん♪」
ソメが嬉しそうな声を上げた。
うん。始めて聞く声がそんな声は嫌だった。
そうすると、今度は左腕。シラと丁度反対側の場所に風に葉っぱが乗っている。そんな紋章が映し出された。
飛んだソメはちょっと……。いや、かなり嬉しそうにしていたが、ボクの心の中は少し複雑な心境である。
それからお腹の痛み(快感?)を味わいながら、ソメが近くまで来ると、サオと同じように意志を渡してきた。先ほどはピンク色の石に対し、今度は黄金色の石だ。
「それじゃあ、最後はこのアタイだぜ」
また、変な内容とかだったらどうしよう……。
「もちろん、アタイは体を動かす事が好きだぜ? だから……」
ツツは少し前に出る。
「実力勝負だぜ。〈ファイアウェポン〉!」
魔法を放つと、ツツの周りには四つの炎の玉が現れた。それはツツを守る様にして辺りに飛びまわる。
「さぁ、早くやろうぜ! アタイは熱いのが大好きなんだぜ!」
「だからわたしは『ツツ』がきらいです」
「そいつぁ酷いぜ!?」
シラの横やりがツツを傷つけた。
ボクはそんなやり取りを見ながら着々と戦闘の準備をした。
(ルナ、起きてる?)
『先程から起きておる。何故この場所に居るか少々戸惑ったが、季節の神を見て納得がいったからいつでも戦えるのじゃ』
「よろしく、ルナ」
ボクはその手に刀を掴む。
過去に来て始めてその刀を握るが、未来と少し力の感じ方が違う。
なんていえばいいだろうか。未来よりも強力になっている気がする。
「ではわたしも」
シラが光となってボクの腕輪となる。
「それなら、始めての丁度いい相手ですね~」
「…………(コクコク」
すると、二人も光となって、サオは右肩にスカーフとして顕現。ソメはシラとは反対の左腕に腕輪となった。
それだけで、ボクの中の魔力が二倍。いや、三倍となったと言ってもいいかもしれないほど膨れ上がった。
「よ、四対一って……」
ツツがちょっと驚いている。
さすがにこれだとだめか?
そう思い始めたころだった。
「燃え上がるぜ!!」
むしろツツの闘争心に火がついたようで、彼女の奮起に呼応するように炎が派手に燃え上がった。
「さぁ。勝負だぜ!!」
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