みんなでお風呂? いいえ、空間に入れませんでした
ボクとキリは強制的に女湯に連行された。
「さぁさぁ! 早く脱いじゃおう!」
「脱いじゃおうじゃねぇよ! HA・NA・SE!!」
「や~だもん♪ ほら、ちょっとはリクちゃんを見習いなさいよ!」
そうやってボクを指すユミ。
カクンと首を落とすボク。
ユミはにっこりとして手招きする。それはなぜか?
――ボクが女湯の出口からこっそりと逃げようとしていたからだ。
「おいリク。テメェだけ逃げようたってそうはいかねぇぞ?」
「ほらほらリク君。早く入りましょ」
「い~や~で~す~!」
ボクはソウナに手を引かれるも何とか逃げようと出口に脚を向けている。
そこから……。
「あら? 女湯の出入り口で何してるのですか? リク様、ソウナ様」
外から前髪を右に分けて赤い巫女服を着ているサラが入って来た。
「あ、サラさん! サラさんも言って上げてください! 男が女湯に入るとか!」
「リク様もそちらにいらっしゃるキリ様も今は女性で御座いますから特にお気にしませんが? 裸の付き合いも大事で御座いますよね? この城に居る方は皆、体が同性ならほとんど気にしませんから」
首を傾げながらそう答えるサラ。
この城に居る人達、ちょっとおかしいんじゃないですか!?
「ほら、早く入らないと他の女の子も着ちゃうよ? いろんな娘の裸見るのと、さっさと入っちゃうのとどっちがいい?」
「どの道女湯からは逃げられないんですか!?」
逃げられはしないらしい。
その間、サラはさっさと中へと入って行き、自分のロッカーをあけると巫女服に手を掛けて脱ぎ始めた。
「「!?」」
ボクとキリはサッと顔をそむけて拳を握りながら……。
「わかった……。入る。入ってやるからさっさと出る!」
キリは決意を固めたようだ。二択しかないならボクもそうするしかないだろうとは思う。
「もちろん体と髪を隅々まで洗うんだよ?」
「隅々……ッ!? べ、別に大方洗えればいいだろ!」
キリがユミに笑いながら言われると顔を真っ赤にしていた。ボクは前に何度か入った事があるからまだいいけど……いや、よくない。
しっかりと洗うけどたぶん顔は真っ赤になってると思う。
「ダメよ。女の子の体は繊細なんだから。ゆっくり、優しく洗わないと。だから……私が洗ってあげる!」
「断る!! テメェに洗われるぐらいならソウナとかマナの方がまだ……訂正する。リクの方がまだましだ」
「ちょっと待ってください! どうしてボクなんですか!?」
自分で精一杯だと言うのにどうしてキリはボクを指名するの!?
「ソウナとかマナだと余計な事をされそうだからだ」
「当たり前よ。これを機にと思うに決まってるじゃない」
「ウチに洗わせようとしたらその胸。潰すよ? いや、燃やして灰にしてあげる」
ソウナとマナの目がちょっと暗くなって怖い。
「早く入るわよ」
ソウナに先導されて、ボク達も仕方なく服を脱いで大浴場へと入って行った。
女湯はやはりと言うべきか男湯とは鏡のように真逆になっている構造。
体を洗うべくなるべく隅を陣取ってお湯を出す。
隣に来たのはやはりと言うべきかキリで、なるべくその体は見ないようにしていた。
「ま、マジで重てぇ……。リク、よく普通に過ごせるな。これで」
「あはははは……」
慣れって怖い。
ボクはシャワーを使って座っていると下まで付く長い髪に、シャンプーをたくさんとって優しく洗い始めた。
「いっ」
「?」
隣で痛いと聞こえたような気がして、ボクはつい振り向いてしまいそうになるのを慌てて直した。
「ど、どうしたんですか?」
「いや、髪洗おうとしたらちょっと……」
あぁ。男の時みたいに乱暴に洗おうとしたのだろう。
ボクは一息つくと、仕方ないと思ってキリに返した。
「じゃあ髪はボクが洗ってあげますので、先に体を洗ったらどうですか?」
「ハッ!? な、何で」
「だって、キリさんだとできそうにないですし」
ぬぐぐ……と歯切りしているような声は聞こえるが、正論なので仕方がない。髪の毛は優しく洗わないと荒れてしまうし、キリにそれが出来るとは思えないし。
「わ、わかった」
キリはそう言うと、髪を一度シャワーで流してからロッカーから持ってきたタオルを使って体を洗い始める、と……。
「~~ッ!」
声にならない叫びを聞いた気がして、ボクはこれもボクがやらないとダメかな? なんて思ってきてしまった。
「ボクが洗いましょうか?」
「だ、大丈夫だ……。さすがに体は自分で洗う」
「だったら私が洗おうか?」
「断固拒否する!!」
「え~」
不服そうな声。おそらくキリの隣にでもユミが来たのだろう。
「あ、リク君ずるいじゃない。隅に居るなんて」
「当たり前です! ここなら、なるべく見ずに済みますし……」
ちなみに心臓はバクバクなってる。キリは顔まで真っ赤のままだろう。
なるべく平然を装っているが、それでもやはりボクは男なのだと実感できて少し嬉しい。
リンスも使って髪を洗い終わると、髪をまとめて持ってきていたタオルで軽く縛る。
それから今度は体を洗う。やっぱり男の時より肌は(ほんの少し)柔らかいし、(ほんの少し)敏感だ。ゆっくりと、しっかりと洗うが、やっぱり女性特有のあの場所だけの感覚は未だ慣れない。
全部洗い終わると、その場を立ってキリの真後ろまで回った。
「あの。なるべく見ないんで、キリさんはジッとしてて下さいね?」
「お、おう」
すでに体は洗い終わっていたのだろうか、ボクはその手にシャンプーをとる。ボクの髪と比べて丁度半分ぐらいの長さなのでシャンプーもボクの時よりも半分でいいだろうと判断してキリの髪に染み込ませて行く。
「ん……。ちょっと、くすぐってぇぞ」
「我慢してください。かゆい所あったら言って下さいね?」
「ずるいわね」「ずるいね~」「キリちゃん色っぽい……。私もリクちゃんの髪とかキリちゃんの体とか触ってみたいな~」
二名の視線と、一名の邪悪な視線を感じながら、ボクは優しくキリの髪をほぐしていく。
キリの髪は艶やかで、洗って行くごとにどんどん光を反射していくようにも思える。
「キリさんの髪、綺麗ですね」
「は? そうか? 知らなねぇけど……」
「ねぇ。なんなのあの空間」「なんだか壁があるみたい~」「百合が見える……。薔薇にもなれるし百合にもなれるっていいな~」
シャンプーが終わると、ボクはシャワーをとる。
「流しますからね?」
「お、おう」
蛇口をひねると、お湯が出て全てのシャンプーを流し、そして今度はリンスをとって同じようにした。
最後にキリがタオルを持っていなかったので、仕方なしに髪をまとめ上げた。
「はい、これで大丈夫ですよ」
「す、すまん」
キリがちょっとうつむくのでボクは不思議に思った。
「? どうかしたんですか?」
「い、いや、なんでもねぇ! ……や、やっと終わった……。……心臓が鳴りすぎて死ぬかと思った……」
「じゃ、早くお風呂入ってさっさと出ちゃいましょうか」
キリの手を引いて、お湯まで入る。
「あ、あの間に入れない……。私とカリストが話している時も、みんなこんな気分を味わってるのかなぁ……」
「どんまい、ユミさん」
「ウチ達はウチ達で話さない~?」
「そうね。ちょっと話したい事があるの」
「別にいいけど、何?」
三人がちょっと離れた所へと行った。
これで少しは安心できる。
「ふぅ。あいつら、何しに行ったんだろうな。おかげでゆっくりできるが」
「そうですね」
「そ、それよりもリク。ちょっと近くねぇか……?」
「そうですか?」
普通にキリの隣に居るだけなのだが。
それに、キリの隣というのは少し安心する。だけどキリがみるみるうちに赤くなっていく。
まだ浴槽に浸かって一分も経っていないのに。
「シラ、ルナ」
ボクは二人を呼んで、シラは外、ルナは初めから浴槽の中に人型として現れた。
「ここでまたわたしがこおりのおふろをつくったらおこられるのではないですか?」
「そうじゃのう。シラ。我々神は風呂にはいらなくともよいのじゃし、足湯でどうじゃ?」
「それは『名案』ですね。おけをはいしゃくしてきます」
シラは立つと桶を一つ持って帰って来た。
どうやら未来でシラが足湯しかしない理由は昨日ボクが風呂場で氷のお風呂を別に作ったからなのか……。
未来に戻ったらしっかりと体全部浸かるようなお風呂を作って上げようかな。母さんに頼んで。
「り、リク……。何でこの状況で二人を呼ぶんだ!?」
「え? ダメですか? いつも一緒に入っていますし……」
裸は見ないようにしているが。
ちなみにルナはお湯に完全に浸かると見えないのである程度大丈夫なのだが、キリはお湯に浸かっても何がとは言わないが浮いていて、恥ずかしくて見れない。
「へ、〝ヘカテ〟? リク様が契約していらっしゃる神様は〝ヘカテ〟でございますか!?」
女湯の入口で聞いた声が、こちらに近寄って来た。
「さ、サラさん?」
「な、なんじゃこやつは!?」
「す、素晴らしいです! 〝ヘカテ〟は契約する時、人格が認められ、魔法対決で勝たなければできないと言われているほど難しいのですよ!?」
「え?」
ボク、話しただけで契約出来たのだけど……。
「なんじゃ。主は妾相手に魔法で勝てる自身があるのかの?」
「いえ。わたくしは〝ヘカテ〟様に魔法で勝てると思えるほど思いあがってはおりません」
「じゃろう? 妾も人間に魔法で負けるつもりは毛頭ない」
つまり、魔法で戦う事があるのに、ボクは戦っていない?
「あの、ルナ。ボクは過去で一度も戦っていないんですけど……」
「良いのじゃ良いのじゃ。元々、妾は人格で選ぶのじゃ。魔法対戦になったらまず妾と契約するのは諦める事じゃ」
「ま、魔法対戦になったら契約することを諦めなければいけないのですか……」
と言う事は、ボクはルナに認められていたってこと? あれ?
「未来だと、ルナは記憶を失ってるから、今のボクを知らないんじゃ?」
「記憶を? それは妙じゃのぅ。妾の記憶を消すようなほどの魔法使いなど、ユミでも相当難しいと思うぞ?」
ルナの言い分を聞くと、どうしても記憶を失わされた魔法と言うのが想像出来ない。
「そ、そろそろ出ないか……? 女だと、男の時よりのぼせるのが早いと言うか……」
長くなりそうと考えたのか、キリが提案する。
ボクもちょっとのぼせてきたし、それはいいかもしれない。
「キリは別の意味もありそうじゃがのぅ」
「そうですね。わたしもそうおもいます」
「う、うるせぇ!」
ざばぁと音を立てて立ち上がるのでボクはサッと顔をそむけて、ゆっくりとたった。
「そうですか。神様の間には人格で決めるような事も……」
サラは深く考えているようで、ボク達に気がついていない。
特に声を掛ける事もせず、ボク達は外へと向けて歩いて行く。
ルナ達も中へと戻って、脱衣所の扉を開けようとしたその瞬間――ガラッ。
「ん? 丁度開ける所だった? ごめんごめん」
目の前に黒髪をまとめて後ろの髪留めで止めている女性が現れた。
そしてキリが何の前触れもなく倒れた。
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