人攫い
「誰だ! 出てきやがれ!!」
キリが突如暗い森の方面に向かって叫んだ。
ボク達はそのキリの言葉に驚いてキリが叫んだ方面に目を向けた。
草木が揺れる。その向こう側から出てきたのは、武器を持って近寄ってくる人間が何十人だった。
「へへへへ。上玉が四人に野郎が一人。しかも全員子供とか、これ以上ねぇくらいに俺達ラッキーじゃねぇか。まぁ戦闘後って感じなのがあれだけどもよぉ」
「あ゛ぁ? テメェ等何言ってやがる。我が名はキリ――」
キリが威嚇しながら小さく魔力解放とその手に覆われる雷を顕現する。だけどキリの魔力がいつもより小さい。ライコウを襲撃された時の魔力がまだ全部回復していないんだ。マナとソウナも息をのみそれぞれ戦闘態勢を整えるが、同じような魔力だった。
「フィエロが使えないんじゃしょうがないよね。我が名はマナ――」
「ディス。お願い、今は私に力を貸してくれないかしら? 我が名はソウナ――」
炎が取りを形どりマナの周りに漂い、ソウナはディスを構えるも、今の会話からどうやら頭の中で話していたと思われる。なので少し心配なのか光を辺りに漂わせる。
「あ? テメェ等そんな程度の魔力で戦う気かよ。ハッ。呆れるぜ」
「え?」
出てきた男たちの中から一人、笑いながら言ってきた男にボクは注目した。
「ガキどもだけでこんな所まで来てんだからそれなりに強ぇんじゃねぇかってビビって損したぜ。おいお前ら。これ以上傷つけないように安全に確保しろよ」
「男も捕まえるので?」
「ったりめぇだ。奴隷に十分なるだろ」
「了解だ頭」
奴隷。その言葉でこの人達がどういう人達なのかを知った。
要するに、人攫いなのだ。
そして一番体格のいい男が頭。手に持つは大剣。両手で一振りの大剣を持っている。
「だけど、こんな人数はさすがに無理だな。リク、マナ、ソウナ。活路を開いて逃げるぞ」
キリが近くに居るボク達だけに聞こえるように言って来た。
「ど、どうやって?」
「頭と呼ばれた人はやばそうね。だけど反対側は一番数が多くて、左右のどちらかが妥当かしら?」
「シラ……。ううん。〝白姫〟。ボクの力になってくれませんか?」
『…………。かしこまらなくてもいいです。『契約の紋章』があるいじょう、あなたは『主』でございますから』
どうやら契約の紋章でボクの事を信じてくれたようだ。先程までの険悪なムードはどうしたのか、喜んで神具となってくれた。心の中で感謝する。
だけど月属性であるルナとツキがどうしてかいない為に〈鏡花水月〉などが使えない。
「リク。悪いが氷魔法で壁を作ってくれねぇか?」
キリに言われ、それならばとボクは〈氷対壁〉を放つべく魔力を練る。
だけど……。
(あ、あれ? 魔力が練れない……ッ!?)
自分の魔力を感じない。まるで本来そこにあるはずの物が透明になってしまい、掴む事も見る事も出来なくなってしまったような、そんな感覚。雲を掴むような感覚。
「なんだぁ? 抵抗しないのか? なら、やれ!!」
「「「おぉう!」」」
ボク達が何もしないかと思った人攫いが襲い始めてきた。
異変に気がついたのか、キリばボクを見る。
「おい、リク!? どうした!?」
「だ、ダメです! 何でか……何でかボク、魔力が感じなくてッ!」
『やはり……』
「はぁ!? クソッ、マナ、ソウナ! お前らリクを守れ! 俺が活路を開く! 〈雷迅〉!」
「わ、わかった! 〈火弾〉〈火球〉〈火渦〉!」
「ディス、頼むわよ! 〈武盾〉!」
キリが左右の内右へと走り、マナが火系統の魔法を放ち、ソウナが防御魔法を放ち前と後ろから来る敵を拒む。
今のシラの言葉が気になるが、ボクは攻撃し始めた三人を心配する事しかできなかった。
「どきやがれぇ! 〈雷剛拳〉!」
キリが人攫いの内一人に向かって雷を纏って拳を振るった。
その雷撃に向かって一人の人攫いは剣を持っていた手、では無く何も持っていないもう片方の手で対抗した。
――パシィンッ。
「は?」
「ガキじゃこの程度、かよ!」
その人攫いがキリの腹を蹴り上げる。
「ガハ――ッ」
思いっきり蹴りあげられ、何かを吐きだすように口を開いた。
「キリ!?」
「マナさん、そちらから来てるわ! 〈武盾〉!」
マナがキリの名を叫ぶと同時、左から来ている敵にソウナが魔法を放って塞いだ。
「く、こうなったら……」
マナはその右腕に黒い炎を立ち上らせ、魔力を解放した。
「いけぇ! 〈黒炎弾〉!」
黒い炎が腹を押さえて動けそうにないキリを捕まえるべく縄を取りだした人攫いを襲う。
「なっ!?」
だがその黒い炎に驚いてからの人攫いの対応は素早かった。取り出していた縄を放り出すと、腰に納めていた剣をすぐさま抜き放ち黒い炎を斬り裂いた。
「クソッ、邪魔だ!」
そして蹴りで抵抗するキリを完全に縛り上げると、叫ぶ。
「おい、あれ悪魔憑きだぞ!」
「そうらしいな! 貴重だから丁寧にお持ち帰りすんぞ!」
人攫いは怯えるのではなく嬉々として襲い始めた。
「ちょ、こいつら何で悪魔知ってるの!? 〈黒炎弾〉〈黒火球〉!」
右から来る敵に向けて魔法を放つが、そのどれもがいとも簡単に切り裂いてしまう。
「悪魔憑きでも所詮子供か!」
このままでは此処まで敵が辿りついてしまう。
ボクは何もできないのか?
魔力が使えないし感じる事も出来ない。ただの足手まといなボクができる事なんて……。
「そう言えば……」
一つだけ、思い当たる節があった。
ジーダスでの戦闘の時の事だ。ボクは魔力を感じてはいたが、魔力は使ってはいなかった。
――なぜなら、全てシラが氷の魔法を発動していたから。
ならば……。
「お願い、シラの力だけで魔法を放てる?」
『おやすいごようです。しかし、『魔力』をかんじとれないあなたがつかえるのですか?』
「使える使えないじゃない。使わないとみんなを守れない! 〈アイシクルソード〉をお願い!」
あれならば確か双剣を作れるはずだ。初めの頃は一刀だったが、ツキと契約してからは二刀の方が使いやすいと感じたのだ。
『〈アイシクルソード〉ですか? あれははなつまほうであり、けっしててにもつようなまほうでは……』
「大丈夫、ボクは初めてシラと契約したその日に持った事があるから!」
『……分かりました。〈アイシクルソード〉!』
何とかシラを説得したボクは、両手に氷の双剣が作られるのを感じた。
魔力は感じ取れない。だけど見る事はできる。ルナとの契約がしっかりと生きている証拠だ。
近づいてくる敵は三体。
手にある氷剣をしっかりと握りしめる。
「身体強化はできる?」
『ざんねんですが、むりです。わたしはつかえません』
「ありがと」
体を強化するような魔法が使えないが、仕方が無い。
ボクはその場を蹴って走りだした。
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