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ヒスティマ Ⅴ  作者: 長谷川 レン
第二章 力の源
23/85

リスク

視点はキリです。



「…………チッ」


 壮大な広さの地下二階。おそらくここも地下一階の所と同じような原理で広くなっているのだろうと考えたキリはなるべく魔法陣から遠い場所を選んで昨日から解放しっぱなしの魔力を使っていた。

 そして舌打ちをした。


『魔眼が欲しい? 良いけど、これには適合する人しか開眼しないしリスクが必ずあるよ?』

『関係ねぇ。俺は今すぐにでも――』

『君。今の自分の顔を鏡で見てきたら? 悪いけど、今の君が習得したらおそらく――』

『関係ねぇっつったろうが』

『……はぁ。わかったよ。後悔しても知らないよ?』


 俺はもう一度散った魔力を拳に込める。


「〈雷剛拳〉」


 直感で分かる。今作られている拳はいつもよりも弱い拳だ。

 こんなので今まで通りに殴れと言われても絶対に無理だろう。


『ほらね。君は今。一種の暴走状態とでもいえばいいのかな? 気分はどう?』

『あぁ……最高だ』

『最悪の間違いじゃないかな? 今の君からは一般人となんら変わり無いほどにしか魔力を感じないよ(、、、、、)


 雷の拳がかき消えた。

 魔力解放はしたままだ。魔法も自分で消した訳じゃない。


「…………フンッ。おもしれぇ」


 本当な事を言えば確かに絶望的な状況だ。

 ゲームで例えるなら何時間も費やして強くしたセーブデータが破損したりして消えてしまい、一からやり直ししなければならない絶望感だ。

 ちなみに俺自身はまだ魔眼が、どんな効力を持っているかは知らない。

 セルスは知っているようだが、教えてくれたのは大量に魔力を使うと言うことだった。


「過去に来てから、あいつの夢も見ねぇし」


 あいつとは、ここに来る前に寝るときに必ず見た神〝建御雷神タケミカヅチ〟の事だ。

 毎日のように挑んでたために寝不足などになりがちだったが、最近は慣れた物だ。


「魔力解放したままで寝るのは今まで以上の成果だが、今の魔力だと元の魔力に戻るだけでも時間がかかるな……」

「だったらその間、身体能力を鍛えたらどうかな?」


 声をかけられた俺は振り向く。

 そこには鈍色をした髪をした同年ぐらいの少年がグローブを嵌めた手で対になってる鉄にベルトをいくつかついてるだけの手甲を二セット持って立っていた。


「誰だお前」

「レイン。姓は無いよ。【魔力殺し】なんて呼ばれてて、魔法に頼ってる人はオレを要注意してるよ」


 レイン? そう言えば昨日風呂入った時に将太との世間話の時に出てきた魔法を無効化する奴か。


「俺はキリ。今は訳あって魔力を――」

「魔眼のリスクでしょ? セルスから頼まれてね。親にして子。血は争えないな」


 ただの善意でユミが俺達を助けたように、セルスも助けようと思うのか。

 それが彼女らの常識なのだろう。

 助けあいは大切だが、今の俺は助けを求める訳にはいかない。無理に言ってでもセルスに魔眼を開眼させるように行ったのだから。


「ンで、頼まれたレインは何をするんだ?」

「いきなり呼び捨て。まぁいいけど。魔力が使えないんならさ、体を鍛えないかって思ってね」


 そう言ってレインが一セットの手甲を投げてきた。


「っと」


 焦りながらそれを受ける。


「重ッ!?」


 レインが二セットも軽そうに持っていたのでただの手甲だと思っていたオレは落としそうになるも何とか両腕で落ち着いて持つ事が出来た。


「さっ、つけなよ」


 手甲をその手につけるレインが進めてくる。


「簡単に言うなよレイン。いくらなんでもこれ重すぎねぇか?」

「へ? これ一トンだよ?」


 バカだろこいつ。

 いや、それを持ててる俺もどうかと思うけどよ。


「あはは。冗談冗談。一トンなんかで殴り合わないよ。二百キロだよ」


 十分凶器だと思うが。

 言っても無駄だろうと考えた俺はその手甲を嵌めた。それだけで両腕が半端無いほどに重くなり、上げるだけでも一苦労する。


「お前、よくこんなの軽く持ち上げられるな……」

「今まで魔力が使えなくてその代わりに筋力を鍛えたからね」


 魔力が使えない?

 そう言えばグローブをつけている理由が魔力をなんでも強制的に無効化するんだったな。

 それは自分の物まで含まれるのか。それは災難な事だ。


「って、それでよくお前生きていられるな。それに、そんな能力によく気がついたな」

「あぁ、全部彼女が居たからなんだ」


 レインが俺の後ろに視線をやった。

 振り向くと、そこにはふわふわと丁度いい高さに浮かんでいる雲の上に足を放り出してニコニコと色白の少女が澄んだ空色の瞳でこちらを見ていた。


「誰だ?」

「久梨理菜。全てを無効化しちゃうオレとは正反対の先天性の魔法を持ってる、オレの彼女だ」

「――っ //」


 ニコニコとしていた顔が一転、熟れたリンゴのように真っ赤にした理菜がうつむいてしまった。


「おい、良いのか?」

「可愛いだろ? 【理想郷】って二つ名で自分が創造したどんな物でも魔法を発動できるんだ」

「はぁ!? それおかしいだろ!?」

「制御できない先天性の魔法ってそんな物だよ。魔力も強制的に持って行かれるから初めは魔力切れを何度も起こしていたみたいだよ」


 それは裏を返すと今は魔力切れなんてしないほど魔力を持っていると言うことか?


「…………でも、レインは、作れないから……。だから、無理しないで……っ //」


 理菜のか細い声は元々の声色が高いおかげで小さくてもよく聞こえた。


「わかってるよ」


 レインがそんな彼女に近づいて黒髪の頭を撫でた。子猫の様に目を細めて気持ちよさそうにしている理菜。

 いつかこいつら後ろから刺されるんじゃないだろうかと思う。


「おい。俺と戦うんじゃなかったのか?」

「もちろん、そのつもりだ」


 重い腕を持ち上げて構える。


「それじゃ、せいぜい防げよ!」


 ダッシュするレインの拳は何の重さも感じられないほど自然に上げられ、振りおろしてきた。

 俺はその拳を防ごうと右腕で防いだ。


 手甲と手甲の金属音が鳴り、俺は左拳をレインの腹めがけて振る。だがやはり読まれていたのかレインは足を出して俺の拳に乗り利用して後方にバック宙返り。着地地点を予測して走るも空中で受け身をとったレインは俺の拳に自分の拳を合わせた。


「ぐッ」

「もしかして痛いのか?」


 同じ手甲。同じ拳。

 なのに相手の方が堅い拳。


「鍛え方って奴かよッ」

「もちろんだ」


 反対の拳を振り上げたレインから逃げるためにまだ宙に居るレインを拳ごと飛ばす。

 予想していたレインは受け身をとってその場に着地、と同時に走り出した。

 なるほど、魔法は使えなくても城に居るだけの実力は持っていると言うことだろう。

 魔法を使えない今、確かに俺に合ったトレーニング方法だ。



「さんざん付き合ってもらうぞレイン!!」

「じゃなかったら来なかったよキリ!!」








「…………浮気は禁止だよ? レイン……?」








「ちょっと待て理菜!? 今の会話のどこが浮気だ!? それに男だぞ!?」


 なぜか理菜の表情が髪の毛で見えなくなっていた。


誤字、脱字、修正点があれば指摘を。

感想や質問も待ってます。

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