月の神は……
「あ、あの! 〝ガルダ〟って〝大鵬金翅鳥〟の〝ガルダ〟!?」
「へ? そ、そうだけど……どうしたの?」
ボク達の必死そうな表情と雰囲気にユミが押され気味に訊き返した。
「マナちゃん。未来で〝大鵬金翅鳥〟と契約しているんです」
ボクが説明すると、マナがパジャマから着替えていた上着をたくしあげて契約の紋章を見せた。
「これは……確かに〝ガルダ〟の紋章。なるほど、未来人だから契約してても特に不思議はないね。それで?」
「あ、あの……。ウチがこの世界にいる間だけでも良いの! ウチが使っちゃ……ダメかな?」
「…………」
ユミが顎に手を置き、少し考えるしぐさをした後、何を決めたのか首を縦に頷いた。
「おいで」
ユミがそう告げると、ベッドに座るユミの後ろに黄金の炎を撒き散らしながら赤い翼を持つ〝ガルダ〟が姿を現した。
「何かご用でしょうか?」
「うん。私との契約よりもこの子との契約を優先して欲しいんだ」
ユミがそう言ってくれて、マナの表情が明るくなる。
それとは別に、フィエロはチラッとマナに目を向けてからまたユミに視線を戻した。
「私との契約の紋章がありますね。どういうことですか?」
「未来人だって。後は〝クロノス〟に聞けば良いんじゃないかな?」
ユミがそう口にすると、フィエロは目を静かに閉じ、開いた。
「わかりました。では私は今から貴女様にお仕えします」
「あ、ウチの事はマナで良いよ~。えっと……」
「どうぞお好きなように。ユミ様にも特に名前は付けられていませんので」
「じゃあフィエロ! ウチが向こうでそう呼んでるの~」
「わかりました。ではお呼びでしたら申し付け下さい」
フィエロはそう言うと、炎をまた散らして今度はマナの中へと戻って行った。
これでフィエロの問題はどうにかなった。
「あの、ユミさんの契約している神様の中に〝セレネ〟はいないでしょうか?」
「〝セレネ〟?」
マナが呼べなかった理由はたんに契約していた人が居たから。〝ヘカテ〟は神力の力を借りて神に近づかなければいけなかったから。
だったらツキもそのどちらかのはずだ。そして、神力でツキを呼べなかったという事は、誰か契約している人が居るのではないかと思った。
そう考えたボクはユミにそう聞いてみたが……。
「うぅん。ごめんね? 月の神様は〝ツクヨミ〟と〝アルテミス〟しか居ないの」
「いえ……大丈夫です……」
ユミが契約していたら、ボクもここに居る間は……なんて思っていたけど……。
どうやらユミは契約していないようだ。これで今考えれる望みは潰えた。だがルナが帰って来てくれただけでも良しとしよう。
それとは別に、今のボクがツキをその身に宿せるかどうかわからない。魂の半分が神様で出来ていると言われても、ボクは人なのは代わりないし、神様と契約できるのは確か二人までのハズだったのだ。
ボクが少し落ち込むような表情をして空気を読んだのか、ユミが明るい笑顔でベッドから立ち上がった。
「さっ。朝食が出来たから行こうか二人とも」
「でも、ソウナさんとキリは~?」
「二人ならもう先に行ったから大丈夫だよ♪」
二人の姿が見えないのはそのためかと思い、ボク達も向かおうとした時、ボクはまだ寝た時の姿のままだと考えてクローゼットをあけようとした。
するとドレッサーに置いてある昨日ボロボロになっていたはずの服が無かった。
「あの、ここに置いてあった服は……」
「あぁ。みんなの服ボロボロだったから私が勝手に回収してしまったのだけど……ダメだったかな?」
ボクはユミを見て、それから首をフルフルと横に振った。
「いえ、ありがとうございます」
強力な魔力の籠った鎧だったがそれも白夜の前では無意味だったのだし、ボロボロで使い物にならなくなってしまったのだから、捨ててしまってもしょうがないかと考えていた。
蜜には帰ってら謝らなくてはならないと考えた。
クローゼットから白のシャツとスカートを取り出し……。
「――ってだからなんでスカート……」
「リクちゃん……」
マナから同情するような目で見られる。ユミはキラキラと目が輝いていたが。それと今は女ではないかという言葉が聞こえてきそうだが、ボクは断固拒否してシャツとスカートを戻した。
とりあえず、シャツでは無く温かそうな長袖のカーディガンとジーパンを選び、二人を外に追いやってから着替えてから外に出た。
「ユミさん、お願いしたい事があるのですけど……。大丈夫ですか?」
「お願い? 何々?」
「ボクの魔力を……ううん。ボクを強くしてもらえませんか?」
ハッキリと口にする。
空白色の魔法。ボクと同じと思われる魔力。時空魔法が得意な魔力。
自分の魔力が使えないボクは真っ直ぐユミを捉える。
ユミはボクの目を見て、少し悩んだ末。
「良いよ。だけど甘くないよ?」
「ありがとうございます!」
承諾を得れて、ボクは一安心する。
朝キリやソウナが部屋に居なかった理由は武器を振っていたのだろう。
それ以外にこの場で出来る事は無いと分かっているからだ。
ボク達三人はそのまま食堂に向かい、朝食を済ませた後、今度は未来から着たボク達四人は客室へと戻った。
「それで? リクはユミに教えてもらえる事になったんだな」
「はい。この後地下三階に来るように言われました」
地下で何かしらの練習でもするのだろう。まるでユミの訓練生にでもなった気分だ。
「それじゃあさっさと行った方が良いな。聖地が無いって事で、今まで見たいな成果は期待しない方がいいと思うが」
キリにそう言われ、ボクは神妙に頷いた。
確かに、今のボクは聖地が無い。だから今までの様に戦えないし力も出せないだろう。
だけど、それが本来の力なのだ。
今まではその力が増していただけと考えればいいだろう。
「他のみんなは?」
「俺は自由に使えるっつぅ地下二階に行ってみるつもりだ」
「私は武器の使い方だから地下四階に向かうわ」
「ウチは地下一階で雪美さんに呼ばれてて……」
どうやら今日もマナは疲労困憊ですぐ寝てしまいそうだ。
ボク達はそれぞれ向こう所があるようで、全員が別行動をとってしまう。だけど、それはみんながそれぞれ自分の物とまったく違うからだ。
仕える魔法がそれぞれ違う。そのために他の人と一緒に力をつけることなんてできない。
だからここで別れる。一刻も早く戻るために。
「時間掛かっても良いから、絶対に力つけるぞ」
「はい」「ええ」「もちろん~」
ボク達はそれぞれ、転移陣に向かって歩いた。
決して甘くない訓練に向かって、ボクは絶対に魔力をまた扱えるようにと考え、手に拳を握った。
二度とこんなチャンスはやってこないから。すべては未来に戻った後、ヘレスティアの人たちに勝つために。
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