目覚めは森の中
「………ろ! お………! 起きろリク!!」
「……?」
目をゆっくりと見開く。
「良かった、大丈夫か?」
目の前に焦りを浮かべる黒髪黒目の少年。仙道キリの顔があった。
その後ろでは赤髪をツインテールにした篠桜マナのおどおどとしている姿と、薄い水色の髪を揺らすソウナ・E・ハウスニルの心配している姿があった。
全員、服がボロボロで体中傷だらけだ。
「みなさん……一体、どうしたんですか……?」
「どうしたもこうしたもねぇ。お前、ずっとうなされてたんだぞ? 何があった?」
キリにそう言われ、ボクはハッとしてあのリアルのように感じられた夢を思い出してしまった。
その所為で、胸の奥から吐きそうになり手で口元を押さえ、何とか我慢をした。
「わ、わりぃ。思い出したくねぇもんだったみたいだな。忘れてくれ」
「はい……」
気持ちを整えようと肩で息をしながら寄り添っているキリに体を預ける。どうやら気持ち悪いだけじゃなくて体自身も疲れているようだ。
良く見てみると自分も他のみんな動揺傷だらけで服もボロボロだ。せっかく蜜に貰った服だと言うのに。
「お、おい。大丈夫かよ?」
キリの心配そうな顔にボクは少し頷く。
いまさら服の心配などしているものでは無いのだろう。ボクはここがどこかと辺りを見回した。
「どこ? ここ……」
小さく呟いた事により誰も聞き取れなかった。
周りを見ても木、木、木。それに生い茂る様に草が生えている。どうやら森の中に居るようだ。だけどボク達が居る場所だけ丸く穴をあけるようにして木々が避けている。おかげで空が良く見える。
空が暗い事からどうやら日はすでに落ちきってしまっているようだ。暗い場所はマナが魔法を使って炎を出し、中央で火を焚いていた。
その事を認識すると、今までボクが何をしていたのかを思い出した。
「白夜さん!? そう言えば、白夜さんは!?」
「リク君……」
「ソウナさん、白夜さんは一体どうしたんですか!? あと、アキさんやハナさんは!?」
白夜と戦っていたときはソウナが一緒に居たはずだ。
それだけじゃない。アキやハナも一緒に居たのだ。
なのに一緒に居るのはキリとマナとソウナだけ。他の人が見当たらない。
「リク君。白夜さんとハナさんは、敵なのよ? 確かに、白夜さんにはたくさん助けてもらったり、学校ではハナさんも楽しくしてくれたけど、それは彼女らの……」
それ以上の言葉は繋がらなかった。
ソウナは黙してしまい、心配そうにボクのある一部を見ていた。
ボクの右手はいつの間にか震えている。
力いっぱい握り、震えが止まらない。
ソウナの言う事は分かる。
だけど、だけどそんな簡単に……。
「リクちゃん、一度落ち着いて」
「う……ん……」
マナにそう言われるも、ボクはやっぱり納得がいっていなかった。
「それよりも、ここはどこかしら?」
ソウナが話を変えようとボクが先程小さく呟いた事を話題にした。
「知らねぇ」
「ウチがフィエロで飛んで見てこようか?」
マナの意見に二人が賛同し、マナはその場にフィエロを呼びだそうと手を振り上げた。
「フィエロ!」
…………。
え?
「おい、今呼んだんだよな?」
「よ、呼んだに決まってるでしょ!? 名前だけで来てくれるのは知ってるはずでしょ!?」
「どういう事かしら。マナさん、もう一つの名で呼んでみてはどうですか?」
「う、うん」
マナはまた手をあげて、今度は本当の名前を呼んだ。
「〝大鵬金翅鳥〟!」
…………。
「マナさん、ドンマイ」
「ウチはそんな言葉をかけてもらいたいんじゃないよ!? そうだ、紋章!! 紋章を見れば――」
マナはボロボロの服を少し巻くりあげ、左横腹の部分を見る。
するとそこには赤い片翼。そんな紋章があった。
「契約は、されてる。と言う事は別の理由があるってこと~?」
「そうね。それじゃあ……ディス」
ソウナも手を伸ばし、神の断片を呼ぶ。
すると、あっさりと出てきた『グラディウス』。
マナが目元を暗くして脚を一歩下げていた。
「……えっと、ごめんなさい。マナさん」
「何よ~~ッッ!! うわぁぁぁぁぁぁん!!」
泣き崩れてしまった。
「あぁ……リクは出せるのか?」
「ボク、ですか?」
ボクはキリに言われ、いつの間にか治まった震えと嘔吐を忘れて立ちあがって呼んだ。
「ルナ、シラ、ツキ」
ボクはそれぞれの名を呼んだ。
とたん、右腕に腕輪が嵌められた。
だけど、それだけだった。
「る、ルナ……? ツキ……?」
二人が顕現されない。両手の甲にはそれぞれしっかりと紋章があるのに、顕現されない。それだけじゃない。名前を呼んだのに返事もしてくれないのだ。
「一体、どういう事なんでしょう?」
ボクはシラを人型になる様にと願い、そして腕輪から目の前に光を集め人型となった。氷のティアラに氷柱のような翼が特徴的な少女。
――その少女が、冷めた目でボクを見た。
「…………? わたしはどうしてこんな『場所』にいるのでしょうか?」
辺りを見回してからまた同じようにボクに冷めた目を送るシラ。
「し、シラ? どうしたの?」
「しら、とはわたしのことでしょうか?」
疑いの眼差しを向けてくるシラ。
一体どういうことなのだろうか。何故シラはボクに向かって怪しんでいるのだろうか。
たくさんの疑問が浮かぶ中で、ボクは質問をぶつけてみた。
「えっと、もしかしてボクの事知らない……の?」
「あたりまえだとおもわれますが? どこかでおあいしましたか?」
「お、おい。嘘だろ?」
「ちゃんと契約の紋章はあるのに?」
キリとソウナは驚いてボクの右腕をマジマジと見つめる。
そこには確かに雪の結晶の紋章があるのだ。なのに彼女は知らないと言う。
「『契約の紋章』? しつれいします」
シラはそう言うとボクの手を焚火に照らしてまじまじと見つめた。
薄色だが確かに水晶色の雪結晶があるのだ。
それを確認したシラは顎に手をやり、考える素振りをする。
「おかしいですね。たしかにその『紋章』はわたしと『契約』した『証』であります。しかし私は一度も……もしや」
シラがどこか気がついたところがあるようだ。
ボク達はそのまま沈黙を保っていると……。
「誰だ! 出てきやがれ!!」
キリが突如暗い森の方面に向かって叫んだ。
ボク達はそのキリの言葉に驚いてキリが叫んだ方面に目を向ける。
草木が揺れる。その向こう側から出てきたのは、武器を持って近寄ってくる人間が何十人だった。
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