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ヒスティマ Ⅴ  作者: 長谷川 レン
第一章 タイムスリップ
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大浴槽

視点はリクです。



「い、た、たた……」


 腰や脇腹を押さえているマナの肩を持ちながらボク達は大浴場があると言う十階に来ていた。


「大丈夫ですか? マナちゃん」

「大丈夫じゃないよ~。雪美さん、もうちょっと手加減して欲しかったな~」


 あの後、ソウナが戦い、ボクが戦った。

 ソウナは雪美とキリの戦いを見てる最中、何やらディスと話していたようで人攫いの時に戦ったのとでは全くの動きが違った。

 だがそれも雪美の前では圧倒的な差で負けてしまった。四連撃の〈武乱〉はかわされ、ソウナの最大の防御魔法である〈武盾〉も突破されてしまった。

 ボクは元より自分の魔力が使えないと言うハンデを追いながら戦った結果、ソウナやキリよりも早く決着がついてしまった。

 ボクは一刻も早く自分の魔力を思い出す事が先決だろう。

 それからマナなのだが……。


「雪美さん、とっても張り切ってたものね」


『火系統の連続魔法使えるとか、おもしれぇ! あえて二つ名つけるなら【焔の王】とか……あぁ、女だから【焔の女帝】だな!』


 とか柾雪を思い出しそうな言葉を言いながら三人の時みたいに武器で攻めるのではなく氷魔法で戦っていた。氷系統は火系統に弱いと知っておきながら、次々と迫る炎や黒い炎に向かって魔法を放ちまくっていた。

 それがだんだんとマナの体に辺り続けて、実質的にはマナが一番時間をかける事が出来たのだが一番被害が大きかったのもマナだったのだ。


「にしても、十階に着た途端まるで温泉にでも来たような感覚だな」


 キリの言いたい事は分かる。

 目の前には右は男湯、左は女湯と書かれた暖簾が垂れ下がっていた。

 真ん中は扉があるけど、何の扉だろう?


「君達、いつまでそこで立ってるの?」


 急に声をかけられた。

 ボク達が振り向くと、そこには食堂で見た背中に円盤のような物を背負っている少年が居たのだ。ボクよりも背が低いから年下だろう。


「あら、将太君じゃない。今お風呂?」

「まぁね。他の人は初めましてだね。名前は聞いてる。リクとキリとマナでしょ? オレは【刃車】の将太って言うんだ。あと、転移陣の前に立っていられると困るよ」

「あぁ、ごめんなさい」


 ソウナが謝り、ボク達は横に避ける。その間を進んでいく将太と呼ばれた少年は、男湯の暖簾の下で立ち止まり、振り向いた。


「入らないのかい?」

「いや、入る」


 キリが答えて、後を追うのでボクをその後を追うのだが……。

 将太が頬をポリポリと書いて一言。


「……えっと、女湯は向こうだよ?」

「ボクは男です!!」

「え、えぇ!?」


 来るであろうと思われた言葉にボクは即返すと盛大に驚かれた。


「あ、あぁ……お、男……男?」

「キリさん。ボク泣いても良いですかね……」

「あ、あ~。強く生きろ、リク」


 それしか言ってくれないキリ。目から涙が出てきそうだった。


「それじゃあ、こっちはこっちで楽しみましょうか。行くわよ、マナさん」

「うん~」


 ソウナとマナは隣の風呂へと入って行く。


「まさか男だとは……。たぶん、みんな女だと思ってるから自己紹介する時に男だと言った方がいいかもね」

「ボクってそんなに女っぽいですか……?」


 あらかさまに目をそむけられて暖簾の奥へと入って行った。

 ボク達も後を追うと、そこにはいくつかのロッカーがあった。それぞれ名前が付けられているので誰のロッカーかよくわかる。

 ちなみに、ボク達が入れる場所はと言うと、お客様専用と書かれたロッカーがあったのでそこへ入れさせてもらった。中には体を洗うタオル二枚と髪の毛を拭くタオル二枚、バスタオル二枚が入っていた。


「石鹸は体を洗う所にあるけど、こだわりがあったら自分でどこからか買ってくるかするんだ」


 服を脱いだ将太はそう言うと、曇った扉を開いて浴場の中へと入って行った。キリも服を脱いでしまい、腰にタオルを巻きつけていた。


 ただ、ボクはと言うと……。


「頼むリク」

「えっと、なんですか?」

「体に一応タオルで体隠しておいてくれ」

「はい?」


 と、なぜかほぼ強引気味に体をタオルで隠す事となってしまった。

 そう言えば、ヘレスティアに居た時に脱衣所でキリとバッタリであった時は顔を赤くしていたが、今日はあまりそうはならないようだ。

 やっぱりあれだろうか? ヘレスティアに居たころはずっと女のままでいたからだろうか。こっちに来てからはずっと男の体のままだし、戻って来たのだろうか。それならそれで良かったと、ボクは満足しながらお風呂場に入っていった。



 ★



「はぁ~。気持ちいですね~」


 ちょっと語尾がマナ寄りになってしまいそうなほど、丁度いい湯加減の浴場につかりながらタオルで額に浮かんだ汗を拭いていた。

 十階全部お風呂というだけあってかなり広い。この中で今三人しかいないと、少しさびしいぐらいだろう。


「た、確かにな……」


 ちょっと離れた所で湯につかっているキリがそう返すも、ちょっと顔が赤い。熱いのだろうか?


「丁度いい湯加減なのは当然だよ。ここにも魔法が使われているしね。人それぞれ感じている温度が違うんだよ」

「感じている温度が違う? それってどういうことですか?」

「簡単簡単。認識阻害魔法を使えばいいんだよ」


 認識阻害魔法、かなり便利ではないだろうか。


「みんながみんなこんなふうに認識阻害魔法なんて使わないけどね。認識阻害魔法と言うのは大抵どっかに潜入したり追跡したりするときに使う隠蔽の魔法が主だからね。結構細かく設定されてるんだよ。ただ……ある人はこの浴場には入れないけどね」

「ある人だ? それって誰だ?」

「レインだよ。君たちと同い年ぐらいになるのかな? レインはあらゆる魔法を無効化する事が出来てね。しかも自分で制御出来て無いからいつもは手に薄いグローブをつけてる」


 手につけるだけで無効化出来ないようにする事なんで可能なのだろうか。


「まぁ、無効化すると言ってもレインの両手のどちらかに触れた物とその触れた物が触れている物までだけどね」


 でも、そんな事が出来るなんてまるでルナのようではないか。

 ルナの場合は相手の魔法の供給線を断ち切ることで無力化出来るが。後はルナがその魔法を解除する魔法を発動するのだ。


「そう言えば、将太さんの背中に持っていた円盤? のような物はなんだったんですか?」


 思い出したように言うと、将太はポカンとした表情になったかと思ったら納得した様にして思い出していた。


「あぁ、あれは武器だよ」

「「武器?」」


 キリとボクの声が重なった。てっきり盾の類かと思っていたからだ。


「そうだよ。鎖鉄球は知ってる?」

「はい」

「それを応用したのでね。二つの魔導円盤の間に回転式刃を取りつけて、後はそれを投げたりする中距離型の武器だよ。魔力を流せば回転する刃を速くしたりできる。オレが住んでた国の武器の一つだよ」

「へぇ。面白そうな武器だな」

「そうは言うけど、使ったり、使える人なんてそうはいないよ。扱いは難しいし、下手をすると自分が傷つくからね」


 鎖鉄球と言うのは見たり使ったりする事が無いのでよくわからないが、投げて後は鎖で操ると言うのは相当なテクニックが必要なのだろう。

 ボクが使っても投げる事は出来そうだが威力はあがりそうになさそうだ。


「さて、オレは出るかな」

「もう出るのか?」

「長湯する方じゃないからね」


 将太はそう言うとお風呂からあがり、扉から出て行った。

 その間、なぜかボクは自然と将太から視線を逸らした。


 ……やっぱり完全には元の感覚に戻れていないのだろうか。いや、そんな事はない。


 そして会話が無くなった浴槽。

 どこからともなく声が聞こえたのはその後だった。


「キリさーん。リク君が目の前に居るからって襲わないでねー」

「ば、馬鹿言ってんじゃねぇ!! 俺もリクも男だろうが!!」

「あの、どうしてキリさん顔を赤くしているんですか? 襲うって、浴槽で戦ったりするんですか?」

「き、気にすんなリク!! お、俺はもう出る!!」


 キリが乱暴に湯から立って出て行った。

 ボクの頭の上にはハテナが浮かんでいた。

誤字、脱字、修正点があれば指摘を。

感想や質問も待ってます。

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