氷の槍使い
視点はキリのままです
その場から姿がかき消え、俺はその雪美の死角へと何の遠慮も無く拳を振り抜いた。
「まぁ、初めはそこだな〈氷結界〉」
拳が当たる瞬間、雪美と俺の拳の間に薄い氷の膜が張り、完全に俺の攻撃を相殺した。破壊したと言う手ごたえは無い。
俺はその事に舌打ちを打つ暇も無く次の行動に移っていた。拳を引くと同時に足払いをするも低くジャンプされる。そこに雪美の槍が突き出してくるので俺はそれを紙一重で避けた。
「咲け」
雪美が小さく言葉を放つと同時、突き出していた槍から複数の氷の刃が華が咲くように突き出された。
「ぐっ」
それによって数十本ぐらい俺の体に突き刺さり、すぐさまその場から退避する。
右腕のゲージを見てみると五重の内一つの目のゲージが四割減っている。
「これ、ゲージ減るの早くねぇかッ」
「それは致命傷になる場所に当たったからだよ!」
そう言えば、よく考えたら先程の刃の傷が見当たらない。明らかに当たったと思われるが。
「この部屋で血が出る事は無いから安心して攻撃しな! 神経にダメージはあるから骨が折れるようなダメージならホントに折れた時見たいな感覚を味わえるけどな! 〈フロストダスト〉!」
白い霧のような何かが吹きだされた。それが地面へと到達すると平原の草が瞬時に凍っていった。
「チッ。氷属性かよ! 〈雷球〉」
雷の玉を飛び退きながら投げる。それは白い霧にぶつかるとまるで拒絶させられたようにして弾けた。
破れない事を感じて、俺は一度姿を消した。
「お。正面から無理だと感じて不意打ちか?」
雪美はキョロキョロと辺りを見回す。
(どうやってあいつに少しでもダメージを与えるかだな……)
氷属性は雷属性と非常に相性が悪い。元々魔力で負けているので、二倍の魔力を使って勝つ、と言う力技を使う事が出来ない。
先程の雷の玉がいとも簡単に弾かれたのがいい証拠だろう。
岩を背に、少しだけ覗く。
雪美は丁度反対側を向いていたがこちらが死角となっている訳でもないし今出るのは自殺行為だ。
だがこれ幸いと白い霧はもう出していない。
なら、スピードで勝負する。
「魔力が持てばいいが……〈疾風迅雷〉」
魔法を発動後、俺は速効で雪美の死角――ではなく槍を持つ真横から拳を放った。
姿が見えなくなったなら、また死角から攻撃してくるだろうという考えの裏をかいた攻撃だ。だがただまっすぐ突っ込んでは必ずと言っていいほどカウンターを喰らうだろう。だから槍の振りにくい場所へ攻撃すればいい。反対側の方が槍が振りにくいのではと考えるも、それはバカのすることだ。左手にはいつでも魔法が放てるように感じづらい魔力が準備してあるからだ。
そう判断すると、俺はその場から勢いよく飛び出した。
「速っ」
案の定、雪美は俺の拳を魔法で防ごうとする前に槍で防ごうと動かすが、俺はその槍を掻い潜って拳を雪美の腕に入れた。
だがほんの薄い膜が雪美の体を守り、雪美のゲージは一割も減らなかったが少しは減らせる事が出来た。
俺はすぐさまその場から動き、また姿を消す。
「さすがにあの速さは厄介か」
すると、雪美が目を閉じた。
「おいおい、まさか心眼が使えるとか言うんじゃねぇだろうな」
「試してみたらどうだ?」
明らかに挑発だ。だが――。
(売られたケンカは買うだけだ!)
俺は自分の信条貫いた。
今度もまた同じ場所へと拳を振るった。
「〈轟崩拳〉」
俺の拳が雪美の右腕に完全に入った。――そう思われた。
「防御犠牲にした攻撃特化の魔法か」
「クハハッ。マジかよ」
俺の拳は身を倒れるようにして避けられた雪美によって上にはね上げられ、ほぼ零距離となった俺は強大な魔力を浴びた。
「〈アイシクルフラワー〉」
氷の魔法がその場より大きく広がり、上から見ると大きな花の形となる。
もちろん零距離に居た俺は魔法をもろに食らって後方へと飛ぶと同時、雪美は空に跳んで追撃する。
「〈アイスメテオ〉」
上からの巨大な氷岩。俺はその大きさに驚きながらも足を何とか動かして逃げる。だがあまりにも巨大な氷岩なため、最大出力でも逃げ切れない事を悟って俺は右の拳を握りしめた。
「〈雷剛拳〉!!」
右手に魔力を込め、落ちてきた氷岩へと突き付けた。
ドゴォォオンッ!! と言う爆発音のような音と共に強大な力が俺の足に負担をかけた。
「ぐ、ぉぉぉおおおおおおおおおおおおおおお!!!!」
「へぇ。筋肉は鍛えてるんだな。まぁ全部力技だしな」
上から降ってくる巨大な氷岩をいつまでも受け止めれるはずもなく、俺は何とか軌道を逸らす事に成功した。
そして真上から追撃で来る一本の槍。
「クソッ」
視界の端にあるゲージがすでに三重の線を切ってしまった事に悪態をつきながら俺は感覚の無い右手に力を入れるのをやめて左手に力を入れた。
まずは落ちてきた雪美の槍をかわし、カウンター気味でいれる拳。地面へと突き刺さった槍を軸として、雪美は器用に避けると後ろからの蹴りが俺の頭に入れられる。
前のめりに倒れそうになった時に地面へと手をつき蹴り上げるもそれを予期していたのか槍を抜いてジャンプしながら後方へと下がるので俺は加速して雪美の腹めがけて直線に走った。
「〈氷結界〉」
だが途中で入れられた薄い氷の膜に防がれ、突き出された槍が俺の足を貫く。
「チェックメイトだな〈フロスト――」
「勝手に、決めんな!!」
やっと感覚の戻った右手と左手にほぼ全魔力を込めた。
「そこからだと手は届かないだろ?」
普通に振るったのでは拳は当たらない。それはそうだろう。だって俺の手は槍ほど長くは無い。
「だったら、前に出ればいいじゃねぇか!」
「まさかっ!?」
決闘が始まって初めて雪美に驚きの表情が浮かんだ。
「別にまったく痛くねぇ。だったら前に出ても問題ねぇ!」
「嘘だろ!? ってかバカだろ!?」
貫かれているその槍より一歩前に出る。
そこはもう拳の届く範囲。
「様は攻撃すりゃあいいんだよ! 〈轟崩拳〉!!」
「〈氷結界〉!!」
また俺と雪美の間に生まれる氷の膜。だが先程のように薄い訳ではなく、先程よりも魔力を入れている量が違うのだろう。
だがそれは俺のスピードが張る前に超えてしまえばいい話。
氷の膜が張られるその真横を通って雪美の真正面に立った俺は両の拳を振り下げた。
「オラァ!」
俺の拳は雪美のクロスさせた腕に両方命中し、土の地面を抉りながら十メートルほど引きずられた。
ゲージを見てみると、そのゲージは先程より三割ほど減っている。
「い、つ、つ……。その破壊力はバカにはできんな。もう魔力は無いようだが」
痺れた両方の腕をブラブラとさせる雪美。白い腕は先程より少し赤くなっており、俺が殴った場所がどこかだか良くわかる。
雪美が言った通り、俺はもう魔力が無いために膝をついて気を失いそうになるも何とかそのままを保っていた。
「はぁ、はぁ。もっと魔力がありゃあよかったんだが……」
「ふっ。だったらずっと魔力解放していたらどうだ?」
「だったらせめて、魔力解放中の魔力の回復の仕方ぐらい教えろよ……」
肩で息をしながら、俺はどうせ教えてはくれないだろうと考えて立つ。右腕にはゲージがまだ二重目の半分ぐらい残っていたが、魔力が無くてはこれ以上戦い続ける事は出来ないだろう。
「降参だ」
『キリ様の降参で、決闘は雪美様の勝利とさせて頂きます。今フィールドを戻しますので、少々お待ち下さい』
イヴのマイクを通した声が聞こえ、俺はその場に座り込んだ。
「回復の仕方か……。キリ、寝れば自然と回復して行く物だぞ?」
「何? 寝れば、だと?」
俺は不思議に思う。確かに寝る事によって魔力を回復する事は出来るだろう。だがまず第一に魔力を解放したまま寝る事が出来るのか?
「魔力を解放し、気絶したり寝ると自分で無意識のうちに魔力を納めるんだろう。だがそれは簡単に克服できるぞ? 寝るときに魔力を解放したままのイメージで寝ればいい。初めはなかなか寝付けないが、段々と慣れてくるといつものように簡単に寝る事が出来る。そうすれば寝ている間も魔力を使って魔力最大値が上がる」
「ンな事が……」
「試しに今夜やってみたらどうだ?」
雪美にそう提案され、「あぁ」と答えた。
平原から真っ白な白い部屋に戻ると、壁に線が入り、そこに扉が開いた。その向こうではリク達三人が待っている。
「お疲れ様ですキリさん。足、大丈夫なんですか?」
「ん? あぁ、別に大して問題でもねぇよ」
その実、歩きたくないほどに痛いと感じるが。
「でしたら、お先に浴場に浸かって来てはいかがでしょう?」
口をはさんだのはリクでもマナでもソウナでも無い、イヴがこちらへと向いていた。
「全員終わったら行くつもりだが?」
「そうでございますか。浴場には体を癒してくれる回復魔法の効果がありますから訓練で浴びたダメージは全て回復してくれる事だと思われます」
「なるほど。そりゃぁ楽しみだな。さっさと終わってこいよお前ら」
「「絶対にキリ(さん)よりも長く生き残っててあげる」」
マナとソウナの言葉が被った。
リクはから笑いをしているだけであり……。
「おい、いいから次の人、入ってこいよ」
雪美はジト目でずっと岩に座って待っていた。
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