あの時の剣士
「そう言えば自己紹介がまだでしたね。私は雪姫と申します」
濃い水色の髪の毛が揺れる女性。見た所丁度二十ぐらいの年齢だろう彼女に、ボク達も自己紹介をする。
「ボクはリクです」「マナだよ~」「ソウナでいいわ」「キリだ」
「リク様にマナ様にソウナ様、そしてキリ様ですね。私の料理はどうでしょうか? 少し兄のアレンジも掛かっておりますが」
「メチャクチャうめぇぞ」
キリが頬張りながら答えると、雪姫が微笑んだ。
「ありがとうございます。おふた方は?」
「こんな料理食べた事ないよ~」「リク君には悪いけど、パスタとスープが一番美味しいわ」
「ありがとうございます」
ボクは先程言ったのでいいのだろう。
「まぁ文句つけやがったら俺が真っ先にケンカ売るけどな」
雪姫のお礼を聞いた次に、その雪姫の隣、つまりキリの隣へと腰を下ろした男が言った。
先程扉を開けた瞬間に攻撃してきた男だ。散髪の赤い髪に額には額当てをつけていた。
「北欧に住んでる雪一族の長、柾雪ってんだ。よろしくリク、マナ、ソウナ、キリ」
「は、はい!」
柾雪にボクは緊張しながらも答えると、クスッと笑っていた。
「そんな緊張するなよ」
「先程あれだけ派手に暴れたのだから仕方ないと思いますよ兄様」
雪姫が兄と言うのに対し、ボクは疑問を浮かべてその男を見る。
髪の毛の色が似ていないが、それでも顔立ちはどこと無く似ている事に気がついた。
「ちなみに柾雪はね? 悪魔と天使を抜かすと電光王国二番目の実力者なの」
「あ、悪魔と天使を抜かす……と?」
ボクの反応に、ユミは視線を一番隅で食事を取っている――と言ってもテーブルには満員なので一人と言う訳ではない。必然的に隅になっただけ――黒髪の男を見ていた。
「あの人、シャインが全体を含めると二位なんだ。さて、悪魔でしょうか、天使でしょうか?」
クイズ形式にユミが出してくる。
ボクは考えた。名前的には天使だろうと考える。
シャインとは知っている通り光る、輝きなどの意味だからだ。
直訳すればそんな感じだから天使だろうとは考えるが、もしこれが引っ掛け問題ならばどうだろうか?
シャインとは立て前で、本当は悪魔と言う事を隠すためでは?
そう考えていると、シャインがこちらの視線に気がついて微笑んだ。すると向かいに居る女性になぜか怒られていたがそれについて何か言い訳をしていた。
……なんだか見れば見るほど悪魔でも天使でも無く、普通の人間のように思えてきた。
「悪魔だろ」「いや、天使じゃないかな~」「実はどちらでも無く人間だったってオチは無いわよね?」
それぞれ三人は適当に答える。
ユミはその三人の意見を聞いてから、ボクに向いて暗にどっちと訊いていた。
「えっと、他のヒントは無いのですか?」
「ヒント? うぅん。向かいに居る人が妻のアリス・エリナ。その隣に居る小さな子が娘のナナ・M・ブラッ……こほん。ナナって言う名前ね」
今彼女はなんて言おうとしたのだろう?
明らかに娘の名前をフルネームで言おうとして途中でやめたって感じだったが?
ボク以外にも気がついたのだろう。みんながその言葉を聞いていて……。
「悪魔だな」「悪魔だね~」「悪魔ね」
ボクも、みんなと同じ結末をたどった。
「悪魔だと思います」
「まさか自分から言ってしまうなんて……」
料理を口に運びながらもユミは落ち込んでいた。
「彼、シャイン・マン・カインなんて名乗っているのだけど、本名はシャドー・メタル・ブラッド。獄炎の貴公子とか、地獄の邪神とか呼ばれてる人です」
雪姫が説明をしてくれる。
その時にボクは頭の隅で引っかかる事があった。
どこかで聞いた事があるような名前だ。シャイン、シャドー、獄炎の貴公子、地獄の邪神、このどれかに聞き覚えのある名前があるのだが……。
まず、シャドーは無いだろう。それは白夜につくあの闇魔法だ。次にシャインと言われた時はピンとこなかったからこれも無い。
では獄炎の貴公子か地獄の邪神なのだが。
「たいそうな名前なこって」
「私が封印を解いた時は彼の方が強かったからね。私の祖父の親友であり戦友でもあったから」
「祖父~?」
「あぁ、うん。これは知らないのかな? 雷神って呼ばれてたんだけど」
雷神? それってまさか始祖の雷神?
それでボクはやっとわかった。
ヘレスティアから帰る途中、ヘルによって飛ばされた小屋で見た『守護十二剣士』の本の事と炎を司る剣士を。
確かその男は悪魔の事を獄炎の貴公子と呼んでいた。あの男の人が……?
「そう言えば此処に『守護十二剣士』はいないのですか?」
ボクがそう言うと、ユミや柾雪、雪姫、ミユなどが動かしていた手を止めた。
「あ、あれ?」
「…………会ってみたい?」
ユミが物凄く小さな声で訊いてきた。
「あ、あの……」
「あの人達に会ってみたい?」
「は、はい……」
「そう……」
そう言うとユミはまた食べ始めた。
言ってはいけない事だったのだろうか。もしかして此処では煙たがれてる?
などと考えていると……。
「まぁ全員に会うなんて正直言って無理だけどね♪ 私があった事あるの七人ほどだしっ」
「へ?」
「えっと、どういう事?」
「守護十二剣士のみんな、実はおじいちゃんに最後の命令を出されててね? 全員が全員私と戦うのよ」
それはどういうことだろう。どうして自分の孫と戦っているのだろう。
最後の命令とは一体?
「おじいちゃんが言った命令は、私を強くさせる事。そのためにどんな手を使ってもよくて、死ぬ寸前まで徹底的に潰すんだって。そして自分よりも強くなったと感じたならば私に忠誠を誓いもよし、引退して残りの人生を休むもよし、だって」
なんだろう。本当に守護十二剣士はユミにも忠誠を誓っていたのだろうかと疑心暗鬼になってくる。
「まぁ七人とも忠誠を誓ってはいるけど必要があったら呼んでくれ程度でこの国から離れた場所に一軒家建てて住んでるよ。一番近い例でクウガさんかな?」
「クウガさん?」
「うん。守護十二剣士の中で炎と魔法生物を得意とする人で――」
「え!?」
ボクが驚くのでユミがきょとんとして言葉をとぎらせてしまった。
炎を得意として魔法生物を得意とした人なんてあの炎を司る守護十二剣士ではないか。
「リク、あった事あんのか?」
「うん……。でも、一番関わりがあったのがアキさんみたいで……」
「どうやら知ってる人みたいだね。それだったら他の人でも――」
そう言えばあの『守護十二剣士』と書かれた本はどうしただろうか。
確か本を読んでいて、途中で魔法が掛かっているのはおかしいって事になって、ヘルに話しかけられて……ボクはその後本をどこへやった?
置いた覚えは無い。ならボクが持っている?
しかしそんなのは全く覚えていなくて……。
『あるじ。いまかんがえているそのほん、これではありませんか?』
そう言ってシラが頭の中で見せてくる――と言う事は出来ないのでボクの目の前にポンッと一冊の本が出てきた。
どこにしまっていたのだろう? ボクが着ている服は蜜から貰った物でボロボロだ。しまえるような場所は無いと思われるしその時着ていた服も違う。
「何それ? 守護十二剣士?」
ユミが興味があるのか、出てきた本の題名を読んだ。
「あの、これボク達の時代にあった物なんですけど、字が滲んでて読めないんですよ」
そう言ってあらかた食べつくしてしまった料理を切り上げてその本を受け取った。
「へぇ。名前が全部書いてある。でも、確かにこれじゃあ虫食いだね。エクト、ペン」
「どうぞ」
ユミの隣に座っていた事も気がつかなかったエクトがペンを渡すと、その本にすらすらと書きこんでいった。
「はい、これでいいと思うよ」
彼女が書き込んだ後、その本に書かれていたのはこうであった。
『俺達は全員、奴等を探……。奴等の事を覚え……たのは城に住んでいた……だけ。
太陽 幻際暁 貫禄爺・七十四歳
封 小林祐夜 封印精霊兼放浪癖・灼髪
森 翡翠 お調子者・見た目女
炎 クウガ・チェン・ホワイト 姫の相談役兼防衛任務専門
力 剛力魔 命に忠実な馬鹿力・頭堅い
水 冷泉雫 お淑やか且つ冷酷
風 ビャク・リリカ 双子兄・ヒナといつも一緒
知 ヒナ・リリカ 双子妹・ビャクと交互に話す
光 ゼン 天使
闇 阿偽 悪魔
土 カザル・ルイベルト 貴族だが権力は振るわない
月 闇丸 暗殺任務専門
こ……番は単純に現役の時の力差だ。……て今……時計軸の方向……ある。
……るものか。世……救ったみなを、兄を、そ……我らが姫を、忘れる……か』
「さすがに文脈は分からなかったけど、名前だけ分かれば良いかな? 一応あった人の特徴はつけたしたけど」
十分だろう。これが何かに使えるかどうかわからないが、彼らと戦う時に彼等は名前を求めていた。
これが何か無いはずが無いとは思えなかった。
誤字、脱字、修正点があれば指摘を。
感想や質問も待ってます。
 




