第4話 女の子はじめました IV
むう…短い…
今思えば母さんが瓶牛乳を一本だけ買うなんてありえない。
買うなら人数分だ。
芽衣もありえない。前に芽衣が買ってきた生クリームのせのプリンを食べてしまって以来、アイツ自分の物には名前を書くようになったからな。
つまり、少し考えればあの牛乳の不審さに気付けたはずなのだ。
寝起きを上手く使われたと言うことか…
「はぁ……」
「その感じだと原因にも心当たりがあるようだな」
「えぇ…まぁ…」
しかし目的はなんだ?
まぁあの親父の所業は「出来そうだからやってみた」みたいな理由が大半を占めるからな。考えるだけ無駄か。
「…まぁ、なんだ。あの人の子に生まれたのが運のつき…ということだな」
相変わらず、
orz
の形をとっている俺に、木戸先生が苦笑いしながら肩を叩く。
他人事だと思って…
「とりあえず…その状態じゃ授業どころじゃないだろう、適当に理由つけとくから今日は帰って良いぞ」
「は、はぁ…」
そりゃ授業なんて受ける気分じゃないし、
ていうか俺だって気付いてもらえないかもしれないしな。
帰れるならすごく助かるんだけど…検査とかしなくていいのだろうか。
ガラッ!!
「迎えに来たぞ!息子…いや!愛しの娘よ!!」
そんな微かな疑問を口にしようとした瞬間、保健室の扉が勢いよく開け放たれ、諸悪の根源が姿を現し……
って!何故いるっ!?
「…私はまだ連絡してないぞ?」
非難の目を向けた先の木戸先生の顔は唖然としており目が点になっている。
これはマジで先生が知らせたわけではないようだ。
「フッフッフ…この桜庭甲士郎が、自分の作った薬の効力が出る時間も計算していないとでも?」
つまり全部計算通りと言うわけか。
俺が起きてすぐにあの牛乳モドキを飲むのも、授業中に効果が出だして保健室に運ばれるのも、気が付いた俺が木戸先生に触診(?)されるのも!!
「当然だな」
だから心を読むな。
「まぁまぁ、さぁすぐ帰ろう今帰ろう即帰ろう」
殺意を込めた視線をものともせず、やけに愉しそうに近づいてきたと思うと、
俺の身体は、ひょいっと軽々しく変態の肩に担ぎ上げられてしまった。
「ちょっ!は、離せバカッ!!」
ジタバタと逃れようとするが…
アレ?力が入らない…?
「無理はいかんぞ悠希。性転換後数時間…そうだな、後3時間ほどはせいぜい歩くのが精一杯なはずだ」
これも親父の仕業かっ!!
担ぎ上げられたまま親父の後頭部に再び殺意のこもった視線を向ける。
「…勘違いするな。肉体の根本からの性転換だ。
表面的なものだけでなく、骨格や筋肉の形状、配置、内臓の変換までを短時間でおこなう。
元来存在した組織や臓器を排出することなく全く別のものに作り替える…
肉体的に極度の疲労を伴うのは当然だろう」
先ほどまでとうって変わって落ち着いた、それでいて力のこもった真面目なトーンに思わず閉口する。
そうだよな…無茶苦茶する人だけど別に俺を苦しめたいって訳じゃないんだ。
勝手に女に変えられたことの意味は相変わらずわからないし、速攻で戻してはもらうが。
「ま、そうやって動けなかった方が愛娘の身体を堪能できるしな♪」
コノヤロウ
そう言いながら、俺が抵抗出来ないのを良いことに、抱えていた太股をスリスリと撫で回す変態に、我が家の伝家の宝刀を抜いてやる。
「…母さんに言いつけてやる」
「さ。悠希くんも疲れているだろうしな。早く帰ろう。
悠希も帰っても無理をするんじゃないぞ?今日は夕飯の頃まで大人しく横になっていなさい。
あと何か欲しいものはあるかな?そうだな…ゼリーかプリンくらいなら食べれるだろう。
お昼も抜いてしまったからな。うん軽く食べられるものを後で持っていこう。」
ボソッと俺の口から放たれた最終兵器に、直前までの本能をむき出しにした姿から一転、
身に纏った白衣に相応しい紳士のような佇まいに変貌した親父は、
そっと俺の体を抱え直した。
「それじゃあ木戸くん。後の諸々はよろしく」
残された木戸先生にそう言い残した親父に抱えられ、俺は保健室を後にするのだった……
「って!!これッお姫様抱っこじゃねぇかッ!!」
油断したーーッッッ!!!
登場人物紹介
その5
名 前:木戸 葵
年 齢:28歳
身 長:172cm
3サイズ:B99W66H93
◆
悠希達が通う高校の養護教諭。
その醸し出す色香は男子生徒だけでなく男性教諭たちまで魅了してやまない。
が、サバサバとした性格のため女性陣からも好かれている。
過去、甲士郎に世話になったらしく甲士郎を先生と呼ぶ。
度を超した甲士郎の行為に呆れてはいるものの、
基本的には信頼しており事後処理を行っていることが多い。