第2話 女の子はじめました II
「ぬぁあぁぁんじゃぁこりゃあぁぁああぁっっっ!!!!」
授業中の校舎に響き渡る声。
しかし授業中とかそんなことに構っていられる余裕はない。
ていうか今って授業中なのか?どうでもいいか。
相当混乱してるな。俺。
な、なんで!?
なんで俺の胸におっぱいがあるんだ!?
立派なおっぱいだ。もしかすると璃子のそれに匹敵するほどではなかろうか。
それほどまでに大きな、胸、乳房、バスト、すなわちTHE・OPPAI。
男子の憧れたる魅惑の双丘が俺の胸部にそびえ立っている。
いや、座ってるからそびえ立つはおかしいな。
って、だからそんなことどうでも良くて!!
「………」
「夢か」
んな訳ないよな。百歩譲って、触る側の掌は良いとしても、胸を触られる感触なんて分かるはずもない。
そう、これは紛れもない現実だ…どれだけ頭で否定しようとしても、視界に入る膨らみと掌と胸に残っている感触がそれを許してくれない。
これは、俺のおっぱいだ。
これまではどうあれ、今、確かにそこに存在している。
「……………?」
ちょっと待て。
それだけか?
男の俺におっぱいがある。それはもう仕方ない。認めよう。
果たして“おっぱいがあるだけ”か?
改めて自分の腕を見る。
胸の大きすぎる変化に気をとられていたが、何だか細くないか?
「それに、毛が生えてない…」
元々毛深い方ではなかったが、それにしたってこれは…綺麗すぎる。
お腹回り、これは見えないから触って確かめるしかないが、多少なりあったはずの筋肉の硬さが薄れているような…
「てゆーか…やたらとスベスベしてるんだが…」
「!!」
覚えのないヘソのラインを辿っていて、ふと気付いてしまった。
“下”は、どうなってる?
…正直、瞬間的に予想はついていた。
マンガやら小説やらでもよくあるネタだ。
想像するのは難しくない。
それでも――
汗が背中を流れるのを感じる。
心なしか気温が下がった気さえしてくる。
――16年間、片時も離れることはなく、楽しいことも悲しいことも全て一緒に乗り越えてきた。
確かに大人に成りきれてなかったところはあったが、それでも“彼”は自慢の息子だ。
「…………」
短パンの中、下着越しに触れたそこは知らない場所だった。
触り慣れた、独特の「ある」という感触。
期待していたそれと違い、あったのは更地。
何処までも平らな大地が広がっていた。
「な、無い…」
右手に全神経を集中させ辺りを探す。
中心から左右…脚の付け根に沿わせる。
「…ない」
微かな、最後の希望をもって奥地へ…
「…………ない」
太股の間――唯一隠れられるそこにも、痕跡すら見受けることは叶わなかった。
「ない…ない!いないっ!!」
胸の膨らみ越しに覗き込んでいた視界はいつの間にか溢れだした何かで滲んで見渡せていなかったが、
自分自身の証明のためか、無意識に右手を走らせ続ける。
「…………」
…なんかムズムズしてきた。
なんだろう、この感覚…
いつもの“アレ”のような…でも全然違うような…
ちょっと…気持ちい…
「あー…お楽しみのところすまない」
「わひゃぁうぃぃっ!!??」
突然かけられた言葉に縦横無尽に首を動かす。
カーテン、カーテン、壁、カーテン、ベッド、天井、カーテン…
…と、締め切られていたと思っていた四方のカーテンに隙間が開いていることに気付く。
「あっ!いやっあの俺っ!違くてっ!!」
今までの見られてた!?
て、ていうか俺今何を!!?
隙間から覗く人影を見付けた途端、なんだかスゴくイケないことをしていたような気が…
「桜庭…悠希だな?」
「別に俺っ!やましい気持ちとかっそんなのはなくっ!……へ?」
不意に呼ばれた自分の名前に顔を向けると、そこには…
「保険の…木戸先生…?」
絵に描いたような美人保険医、木戸先生の姿があった。
「ふむふむ…まぁ見事に女の子だな」
「ひゃうっ!?」
急な登場に呆けていると、突然衝撃が…
って!胸っ!先生が胸つかんでるっ!?
「って…あっ!せ、せんせえっ…」
な、なんだこれっ…ていうかソコはっ!!
「感度よし…ここもしっかり…というか敏感すぎるか?これは性転換直後の影響か…」
「ちょっ…せんせっ!ふぁあっんッ!!……」
――しばらくお待ちください――
「はぁ…親父の後輩…なんですか」
数分後、さんざん木戸先生の巧みな指使いに翻弄された俺は、力なくベッドに伏せていた。
「ん〜まぁ後輩というか弟子って感じだな。で、甲士郎先生から君の診察を頼まれてたって訳だ」
甲士郎というのが俺の父親。
桜庭甲士郎。どっかの大学で教授をやってるとか妙な組織の研究員だとかいう噂だけどよく知らない。
知っているのは、変態だってことくらいだ。
「…と、いうことは…やっぱり親父の仕業ですか…」
親父の名前を聞いて納得が言った…
今朝は珍しく家にいると思ったらこう言うことだったのか…