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ごーれむ召喚


 突如として岩の巨人リリオネルの内側から現れたのはケティルやアストリアと比べても遜色が無い美しい少女だった。銀糸の様な髪はキラキラと太陽光を反射し、瞳はルビーの如き赤き光を輝かせていた。身長こそ、アストリアと変わらない小柄なものだったが、それで彼女の美しさが損なわれる程のものでは無かった。

 ただ戦闘中ということを差し引いても少女の表情は無感情に過ぎた。

 自身の外側を散々殴った相手に怒りを覚えるでも、謝った割に右腕を潰した罪悪感を感じている様にも見えない。

 ただただ少女……リリオネルはガイナンをじっと見つめていた。





「……」

「……へ?」


 おそらく闘技場に居るリリオネル……リリオ以外の全ての者達は、今日一番の驚きを覚えていた。総じて間の抜けた顔を皆が見せている。特に生っ粋のお嬢様であるアストリアとケティルのその顔はある意味見物と言える程、珍しいものであった。

 そして、それはリリオと(しのぎ)を削っていたガイナンも例外ではなかった。というよりも相対していた分だけ受けた彼が衝撃は大きい物だった。


「……っ!ぐぅううう」


 対戦相手の余りの変わり様に、痛みを忘れる程に呆けていたガイナンだったが、彼が負った怪我はそのまま忘れられるような軽症ではなかった。驚愕に染まりきった精神がある程度平静に戻ると右腕はがなりたてる様に痛みを発しガイナンを責め立てた。

 見れば彼自慢の剛腕はそれは無残に拉げている。誰が見ても大怪我なのは疑い様が無かった。


「くくく……あはははっはっはは!!」

「……大丈夫?」


 だが、そんな大怪我にお構い無しに傷ついた腕を押さえていたガイナンは呻き声から一転、顎を逸らし大声で笑い始めた。その笑い声にこれまた表情を変えずに小首だけ傾げて心配する様なセリフを口にした。

 聞き様によっては腕を心配している様にも、はたまた頭がおかしくなったのかと馬鹿にしている様にも聞こえる言葉だが、声色も表情も全く変化していないので、どちらの意味なのかは窺う事は出来ない。

 

「なるほど……希少亜人故に特徴は知らなかったが、岩窟人とはそう言うモノであったか。我が相手にしていたのは、外側のものに過ぎなかったという訳か」


 傷口に当てていた左手をガイナンはゆっくりと離す。止血から解き放たれ今まで以上に血液がガイナンの腕を伝い地面にぽつぽつと赤い染みを作るが、ガイナンはそれには一切気を取られず、ただただリリオを睨みつけていた。ガイナンの瞳が闘志に満ち満ちているのに対し、リリオの瞳は朱い瞳が炎を連想させるがまるで意思が込められていない。

 そんな視線が暫し、ぶつかり合うが依然としてどちらも一歩も動かない膠着状態。


 ガイナンは思っても見なかった突然の事態と、満足に動かせない右手の負傷から先までの勢いに任せた戦いが出来ず攻めあぐねていたのだ。


「どうした?掛かってこないのか?」


 ぼーっと構えもせずに、ただただ自分を見つめるリリオにガイナンは業を煮やして口を開いて問うた。


「……」


 ガイナンの問いかけにリリオは顔をガイナンの右手、そして血が滴った地面を眺め、再びガイナンを見つめた。依然として人形様に彼女の表情にはまるで感情と言うモノが込められている様には見えない。


「……まさか、我が腕を気にしているというのか?」

「……」


 首肯。まるで表情の読めないリリオだったが内心では流石に腕を潰したのはやり過ぎたと申し訳ない気持ちで一杯だった。実際リリオにガイナンの腕を潰す気は一切無かった。外殻を破られたと思ったら、胸に拳を当てられていたのだ。びっくりして慌てて腕を退かそうと、なんとか外に押し出したものの恥ずかしくて動揺してしまい、思わず全力で腕を潰してしまっただけだったりする。


「その優しさ痛み入るが……今この場において、それは武人に対して侮辱だ!!」


 武人としての誇りを持つ己が決闘の場において気遣われたことにガイナンはそれまでの待ちの姿勢を辞めリリオに躍り掛かる。

 傍から見れば侮辱した相手に激昂して突撃したように見えるが、実際は違う。言葉通りリリオの優しさは、素直に美点だとガイナンは認めていた。彼が怒りを覚えたのは相手に気遣われた己の不甲斐なさだった。


「土石流っ!」


 ガイナンが魔力を込めて右足の爪先で地面を蹴り付ける。本来なら目潰し程度の効果しか無いであろうその攻撃も土の精霊使いなら話は別だ。


「……」


 地面がごっそりと抉れ大量の土と石が散弾の様の巻き散らかされ、無言で立ち尽くすリリオに殺到する。

 目晦ましと攻撃、両方を兼ねたそれは避けるのはまず困難。必ずリリオが防御に傾注するとガイナンは読む。その隙に死角に回り今度こそ本体に手痛い一撃の礼を返させてもらう。それがガイナンの策だった。

 ガイナンの予想通り、リリオは土の壁を目の前に生み出し、苦も無くガイナンの攻撃を防ぐ。ただ身動ぎも動揺も無く淡々と防御した事は少々予想外だが、大方の予想は外れてはいなかった。体を出来るだけ低くし、ガイナンは回り込むようにリリオの背後にその身を滑り込ませた。

 リリオはガイナンの攻撃による土石と、自分で作った土壁が仇となり、ガイナンの接近には全く気付いていなかった。そうガイナンの作戦通りに。

 リリオの背後に回ったガイナンは左腕全体を岩で覆う、その規模は先の比では無く。彼の腕が二倍近く大きく見える程だった。少女と言えど自身の腕を潰した相手に手加減する様な精神をガイナンはしていない。見るからに破壊力が有りそうな左腕を思い切り振りあげ、腰の捻りと共にガイナンはリリオの左わき腹、脾臓目掛けて殴り掛かった。 

 




「危ないっ!」


 リアニの悲痛な叫びが木霊する。決闘中に相手の位置を教えたり策を授けたりするのは基本的にご法度である。無論、リアニとてそれは知っているが、あの岩の腕の太さはリリオの胴回りよりも遥かに太い。先までの頑丈とか丈夫という言葉がそのまま歩いている時の姿でさえ破壊を免れなかったのだ。吹けば飛ぶような今のリリオの体躯で無事で済むと思う方がどうかしている。





 予想通り風で吹き飛ぶ木の葉の如くリリオの小さな体躯は宙を舞った。殴られた位置を中心にして体を折り曲げ、地面に叩き付けられる様子は先程のアデルを思い出させる程のものだった。

 だが、アデルはそのまま倒れ伏したままだったのに対し、リリオはダメージを感じさせずに起き上がった。

 一般的に数少ない岩窟人の特徴は頑強な体だと言われている。それはリリオが先までの姿をしていたからこそ、皆が誤解してしまったのだが、岩窟人は本来、人とほとんど変わらない姿をしている。ただ、普段は洞窟の奥深くに住んで居るため、肌が弱いので日の下では岩で体を覆っているのだ。……もちろんリリオが極度の恥ずかしがり屋だと言うのも理由の一つではある。

 そして、岩窟人本来の皮膚の硬さは岩の比では無い。上位の岩窟人の皮膚は金剛石にも匹敵する硬度を誇る。

 とは言え、硬いのはあくまで皮膚。彼女の肌を隠す制服にそんな硬度は当然ある訳も無く、制服の端々は無残に擦り切れ、土に汚れてしまっていた。


 

「……」

「……ぐ、なんだと」


 ブレザー型の制服の袖を摘まむリリオの表情にはほとんど感情の機微は感じられないものの、その瞳は若干細められている。どうやら分かりにくいが制服を汚されたことを怒っている様だった。そして無傷のリリオとは対照的に攻撃したはずのガイナンの岩の左手の方には幾つもの罅が刻まれていた。





「ごーれむ召喚」


 やや舌足らず気味にリリオの口から土の精霊達に命が下された。

 打てば響くが如く、リリオの周囲から先程までリリオが纏っていた岩の鎧と同じ姿のゴーレムが次々に生える様に姿を現す。その数は二十は下らない。


「く……ここまでか」


 もはや既に押され気味のガイナンに、ダメ押しの数の暴力を覆すだけの力は残されていなかった。










「お疲れ様……えっとホントにリリオで良いんだよね?」


 見事ガイナンから勝利をもぎ取って帰って来たリリオに、皆を代表してリアニがおずおずと声を掛ける。なにせ入学してから三週間余り一緒に授業を受けてきた全身を岩で覆われた巨人が実は小柄な美少女でしたなどとは俄かには信じられなかったのだ。


「……うん」


 四人に見つめられリリオはやや俯きながらも肯定の言葉と共に小さく頷いた。


「へぇ……いや女の子だと分かってたけど……へぇ~」


 リアニはメンバーの中では一番リリオと仲が良かったため、まだ驚きが少なかったのか、はたまた生来のあまり細かい事を気にしない性格ゆえか、驚愕からの回復は一番早く、不躾にリリオを頭から爪先まで眺めまわす。


「ここ制服が解れちゃってるわね。あ、ここも」

「……う」

「後で直してあげるわね」


 リリオの小柄な体躯にお姉さん心でも刺激されたのかリアニはリリオの頭を優しく撫でる。


「あ、リアニだけずるいわよ」

「えっと私もっ!」 


 撫でられるままに頭を揺らすリリオに、我先にとケティルとカナデが頭を撫でようとリリオに手を伸ばした。後少しでリリオの頭に二人の手が届くところで二人の目論みは外れる事となった。

 元の姿を見られることに慣れていないリリオは恥ずかしさから逃れるために、自身の体を再び岩の鎧で覆ってしまう。


「ぅ……」

「あっ!リリオ何するのよ!」

「……あ」


 ケティルとカナデは不満と残念さをそれぞれ表すが、リリオはいつものように瞳を赤々と輝かしながらコーホーと言っていた。


「そうかぁリリオは恥ずかしがり屋さんなんだね」

「……」

「まぁ偶にはまたあの姿になってね。せっかく可愛いんだし」

「……ぅ」


 岩の体をぺしぺしと叩きながらリアニは微笑みを浮かべた。リリオは相変わらず岩の巨躯のまま屹立していたが、ほんの小さく声を漏らしていた。






「とりあえずこれで二勝ね。次でカナデが勝てば終わりってことね」


 やや未練がましくリリオを横目で眺めながらも、緩んだ空気を変えるべくケティルが凛とした声を張り上げた。試合は全五戦、そして現在ケティル達は二勝している。このままいけば勝利も難しくないだろう。

 だが、リアニよりも実戦経験が劣るカナデはやや緊張した面持ちで深呼吸を繰り返していた。

 

「はぁ……うぅあんまり期待しないでね」 

「まぁ怪我はしない程度に頑張って。負けてもリーヴァが居るから大丈夫よ」

「あ、それなら安心かな」


 がちがちに固まったカナデの肩をケティルは揉み解し、ぽんぽんと軽く叩く。リーヴァの実力を非常に高いと勘違いしているカナデはとりあえず負けたとしてもリーヴァが後に控えていることに安心したのか一つ深い息を吐いた。




「……いや、そんなに期待されても困るんだが」



 電撃戦、奇襲戦を得意とするリーヴァは一対一の戦いは苦手とする分野である。特に闘技場内という限られた戦闘場で広範囲攻撃でもされたら防御手段は無い。ミトラから下賜された彼女の髪を編み込んだマントがあれば別だが、リーヴァの正体を疑うライスナーの目がある為、今回は持って来ていない。

 リーヴァは自信無さ気に肩を深く落とし溜息を吐くが、相も変わらず幸か不幸かそんな彼の姿をまともに見れるのはケティルだけだった。

最近、更新が遅れて気味で申し訳ありません。

というか忙しすぎる……。

以前は週二投稿していたとは俄かには信じられない忙しさです。


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