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情報操作って恐ろしいな

ストックが出来たので早めの投稿。

今日の深夜一時も投稿します。


リヴァイオール王国。

専制君主もしくは制限君主制の統治体制を執る亜人達の国家。

国土は大陸中でも五指に入り、東は海、北は山脈が横たわり、四季を持ち、亜人達が多いということもあり、様々な文化の融合が進みそれに伴い豊かな食文化を持つという側面を持っている。

総人口は六百七十万を誇り、内亜人が九割、人間が一割。

国境を面する国の達の中では最大の国家だ。

王都はリヴァイ。

幾つかの衛星都市を治安部隊で守らせた街道で繋ぐ他、馬車による定期便の運航することで治安や交通事情も優れていると言われている。

君主は九大竜族で最強かつ現存する公式でただ一人の王冠竜ケティル・ドラゴンの女性。

女王ミトラ。

ケティル・ドラゴンは単純な血統では遺伝されずに、ケティル・ドラゴンを除く八大竜族の中からそれに見合ったものが王冠竜として覚醒する特異な竜人。

現女王ミトラも元々は九大竜族の一角、ルナ・ドラゴンの家系の庶子だったと言われており、彼女自身の子供はケティル・ドラゴンに覚醒することはなかった。

女王は今年で戴冠二百五年を迎えてなお、なおも国民から圧倒的な支持を受ける抜群のカリスマを有している。

神秘的な美しさを持つ上に知能も卓越しており、制限君主から絶対君主制を手にすることすら可能と言われているが、自身が持つケティル・ドラゴンの神聖性を尊び、議会に口を出すことは非常に稀。

しかし、百五十年ほど前に一度、議会に汚職が蔓延った際は、国民の意見を汲み、一時的に全権力を手中に納め、議会の浄化を行ったこともあり、その誠実さから国民の信頼は揺るぎない。

更に言うと彼女自身がリヴァイオール最大戦力という側面を持ち他国からは畏怖と尊敬を込めて竜聖女と呼ばれ恐れられている。

彼女が竜人の力を行使する時に顕現する頭の角は、聖角とも呼ばれ、その美しさは宝冠ミトラの名に相応しい程だという。


リヴァイオールの歴史第三版。

アカデメイア学院高等部一年の今年の教科書に書かれている内容だ。



「……情報操作って恐ろしいな」

「そうね」


リーヴァとケティルは明日から始まる授業の予習の為に開いた歴史の教科書の内容に慄いていた。

教科書に書いてあることは、基本的には嘘ではない。

国民を思ったり、最大戦力だったり、美しさや、議会を浄化したという話も誇張にも聞こえるが全部本当だ。

だが、ケティル・ドラゴンたる自分の神聖性を尊び、議会に口を出さないというのだけは真っ赤なウソだった。

彼女が議会に口を出さない理由。

それは――――――――――――面倒くさいから。

という歴史の教科書や、国民の間で伝わる話とはまるで違う真実がそこにはあった。


「まぁあの人らしいけどね」

「面倒くさがりが玉に傷だが良い人ではあるからな」


二人の会話はまるで女王と話したことが有る様な内容だった。

九大竜族の血を継ぐとは言え、所詮は子爵の少女とましてや、もう片方の少年に至っては存在感が無いというのが特徴という悲しき人間だというのに。

一体どんな接点があるのだろう。


「お世話になったしねリーヴァは特に」

「ああ……頭が上がらない」


そう言ってリーヴァは部屋の壁に掛けてあったマントに視線を移した。

一切の汚れ無いただ白いだけの遊びも飾りも、ましてや外で着るには不釣り合いなそれがリーヴァの宝物の一つだった。

過去の女王の事でも思い出しているのかリーヴァの頬が僅かに緩む。

女王とは言え自分以外の女性を思ってリーヴァが笑みを浮かべたのが、少々癇に障ったのかケティルにちょっぴり悪戯心が浮かび上がってくる。


「ふ、ふふ……あはっ」

「お嬢、なにを笑っている」


幼少の頃から悲しくも筆舌に尽くしがたい日々を送ったリーヴァは基本的に感情表現が苦手だったが、ケティルの前ではそれも大分緩和される事が多い。

今は困惑の色を表していたが。


「ちょっと思い出し笑い?いや~今日の入学式はサイコーだったね。まぁ予想通りって言えば予想通りだけどね」

「……」


そんなリーヴァの視線を全身で受け止めながらも、いやむしろ入学式の事を思い出して不機嫌というか落ち込み始める彼を見てより笑いが堪えられなくなっていく。


「……お嬢」

「……ん?……ちょっと、そんなに落ち込まないでよ。悪かったわ」


美しい女王の事を思い出しているリーヴァにちょっぴりやきもちから、入学式の事を軽くからかうつもりだったのに、予想外に落ち込んでいるリーヴァにケティルは即座に謝罪した。

彼が自分の存在感の無さを気にしており、そしてその存在感の無さをここまでにしてしまった責任を自覚しているが故に。

それに彼がこの学院での生活を楽しみにした事もまた謝罪するに足る理由でもあった。

なんせ、寮に入る前で暮らしていたオーシャン家では、彼自身が作った温室で育てていた植物だけが彼の友人という有様だったのだ。


「まぁ、同じ教室にはなれたんだしさ、別々のクラスになるよりいいでしょ?」

「……想像もしたくない」

「ね、そう考えればまだマシよ。フォローは任せて」


ぽんぽんとリーヴァの背を叩き、慰めの言葉をかけるケティル。

どっちが従者か分かったものではない。

まぁ、今日は名前順で並んでいたので実はどう転んでも、今の事態は避けられなかったのだが。


「それが唯一の救いか……お嬢よろしく頼む」

「うん。これからもよろしくねリーヴァ。……むふふ」


ケティルの優しい言葉に、微妙に口角をあげ畏まった礼をした。

十年前では考えられなかった執事然とした彼の礼にむず痒さを感じて再び彼女は微笑むのだった。

執事の癖に一切の敬語を喋らない。

きっとそこが彼なりの幼馴染としての譲れない何かなのだろうと思いながら。





「お嬢。朝だ」

「んあー?」

「んあーじゃない。早くしないと食堂に遅れるぞ」


今日も今日とてリーヴァは主たるケティルを起こす。

今朝は口元から涎まで垂れている始末。

ふわああと大口を開けて欠伸をする様はお嬢様(笑)としか表現しようがない。


「着替えをしておけよ」


主の情けない姿を見て、肩を落とすとリーヴァは着替えをベッドの上に置いて部屋を出て行ってしまう。

流石に二日連続で年頃の少女の着替えを手伝えるほどの精神はしていないようだった。

バタンとドアを閉じると、リーヴァは自分の部屋に入り用意してあったカバンを手にして、自室を後にする。

ちなみにこの二人は互いの自室を含む、三つの子部屋を有する部屋で暮らしていた。

部屋はダイニングキッチンとリビングを兼ねた部屋で玄関もここにある。

リーヴァとケティルの部屋は隣同士だが、一度リビングに出ないと行き来できない使用だった。

リーヴァとしては、用がある時にどんどんと部屋を叩くのだけは勘弁してほしかった。

ちなみにアカデメイア学院はほとんど家柄や爵位に囚われないが、執事とともに学院に入学した者に関しては、個人で入学した者とは違った部屋が用意される慣例があった。

一応生徒を預る学院。

それなりの防犯対策はあるが、全ての生徒を網羅するほどのものではない。

基本的に学ぼうとするものを拒まないこの学院は多数の生徒がいる。

その内訳は庶民の者も居れば、貴族や豪商の子供、果ては留学生まで千差万別。

そんな状況では警備に求められるレベルもまた多岐にわたってしまう。

その中で、四六時中対象の生徒を守ってくれる執事や一部のメイドと言った存在は学院にはありがたい存在だった。

故に一人一人に部屋を与えるよりは守り易かろうと執事やメイドとともに入学した生徒は別個の部屋を与えるという措置をとっていた。

もちろんその執事や、メイドはアカデメイア学院の生徒であるというのが条件だが。

そしてケティルとリーヴァはまさにその条件に当て嵌まる生徒達であった。


「リーヴァ紅茶淹れて紅茶、紅茶」

「お嬢が起きるのが遅いからもう冷めた。行くぞ」


むんずとケティルのカバンを引っ掴みリーヴァはずんずんと玄関に進んでしまう。

朝から紅茶で優雅に過ごしたいお嬢様はぶーぶーと口を鳴らす。


「えー淹れなおしてよ―――リーヴァの紅茶飲みたいよ」

「……だったら早く起きろよ。というか朝の優雅な時間よりも五分でも惰眠を貪りたいって言ったのはお前だぞ」

「えー違うわよ。惰眠なんて言ってないよ少しでもお寝坊したいって言ったんだけど?」

「可愛く言えば何でも通ると思うなよ。一応執事長から言われてるんだぞ?お嬢は甘やかすと堕落の崖を真っ逆さまに落ちて行くだろうってな」

「酷っ!じい酷いよ!」


今日も二人は絶好調だった。






アカデメイア学院一年三組。

二人がこれから一年間所属するクラスだ。

食堂で朝食を終えた二人は、特に慌てる事無く教室に足を踏み入れる。


「まだあんまり人は来てないみたいね。席順とかは決まってたっけ?」

「いや、案内には書いていなかった。好きな席でいいんじゃないのか?」


そういうと二人ががたがたと椅子を動かして教壇から見て窓側の一番前の席に陣取った。

特にすることもないので、ケティルは外を眺め、リーヴァは持ち込んでいた本を取り出し読み始める。

主従としてはどうなのっという二人だったが、もう十年以上も傍に居続けていると特に話をしていなくとも気にもならないし、互いに近くに居ながら趣味をしようが文句も出ない。


「……興味深い」


時折、ぼそっとリーヴァは呟く事が多い。

どうせ誰も気付かないと無意識に悟っている悲しき心の内が現れた癖である。

ちなみにリーヴァが読んでいる本は王都でもマイナーな作家が書いた本。

タイトルは、『!目立つ!には!!!だ!』。


「……リーヴァそれ面白い?」


!マークが普通の文字より多い本。

というか、!!!だってなんだ?、!!!って入れるべき文字すら排除して!マークを多用する時点で大した中身はないだろうと分かる本だった。


「ああ、参考になる」

「じーーー……うわぁ」


『!!!うおおおおおおっ!常に自分が圧倒的な強!者だと思い!こめっ!常に最強!!自分をその胸に!!のだっ!!はあああ!どりゃああああっ!この本は売れる売れる!!きっと売れるるううっ!!』


何故かその本は叫び声が半分以上に亘って書き込まれ、アドバイスとも呼べない言葉が羅列されていた。

そしてタイトルと同じく不自然に!マークが入っている個所もあり、!マークに本来の文字が置換されているのが見て取れる。

!マークを入れれば説得力が増すとでも思っているのだろうか?

しかも最後には自分自身に対する自己暗示がかかれている始末。

もし、無駄に素直なリーヴァがこれを実践してしまったらと思うと、背に嫌な汗が流れる。

例えば「お!嬢!!だ!」とか「!!が薄!!!」

とかハイテンションで言われても困る。困り過ぎる。


「リーヴァ、その本は役に立たないわ捨てなさい」

「え」


普段はぶっきらぼうな顔が見る見るうちに虚無の表情に変わりリーヴァの顔面から感情と言うものが消え失せた。

あまりの反応に思わず今の言葉を撤回しそうになるが、どう考えてもリーヴァの為ならない本だし、おのれの為にもならないので、心を鬼にしてケティルはリーヴァを睨みつけた。


「……分かった」


基本ケティルのいう事には逆らわないリーヴァはがくりと肩を落とし、本をもそもそとカバンにしまうとリーヴァは今度は別の本を取り出し、再び読書に集中する。

本を捨てなかったのはせめてもの抵抗だった。

そして今度のタイトルは


『植物とおしゃべり』


これまたリーヴァの教育によろしくなさそうなものだった。

なにが悲しくて植物と嬉々として会話する執事を隣に侍らさにゃならんのか。


「リーヴァ」

「なんだお嬢」

「この学院はクラブ活動とかも盛んなんだって」

「らしいな」

「命令よ。あたしがいないクラブに入りなさい」

「ああ……………えっええっ!?」


がたたとリーヴァの机が激しく揺れる。

それはあたかも、リーヴァの精神を表しているかのような揺れっぷりだ。

ケティルがクラブ活動に入る可能性は考慮していた。

だが、自分がケティルと離れてクラブ活動するというのは完全に予想外。

実力は至って平均的な執事とは言え、彼女の護衛の任も彼は負っているのだ。


「ま、待てお嬢。お、俺はお嬢の護衛だぞ?お嬢がクラブに入るなら俺もそれに入る。お嬢がクラブに入らないなら俺も入らない」

「頭硬いわねぇ……学院自体に探知結界はあるし、警備の人もいるでしょ?別に放課後位別行動してもいいでしょ?一応リーヴァもこの学院で教養を学ぶっていう目的もあるんだし、あたし一人ばかりに構ってもしょうがないわ。……というか一人で活動する自身が無いんでしょ?」

「う、そ、そんな事はない」


そんな事はあった。

かつて、彼も人並みに積極的に活動しようとしていた時期があった。

だが、それは悉く失敗していた。

乗馬をしようとすれば馬は彼に気付かない、狩りに行けば獲物は彼に気付かないので楽々狩れるかと思ったら、彼に気付かなかった別の狩人に弓を連射された。

友達を作ろうと思えばそもそも気付かれないので、ただの徒労に過ぎなかった。

しかし、これはケティルに原因がある

彼女は子爵の令嬢ということもあり、その交友関係は彼女の好む好まざるに限らず、どうしても貴族階級の者が多くなる。

そしてこの亜人の国リヴァイオールでは爵位を持つ者は自然と亜人が多い。

亜人達は人間に比べて精霊との交感能力が非常に高い。

風の精霊に流れを、火の精霊に温度を、土の精霊に振動を、水の精霊に流れを、そしてそれ以外の数多の精霊達が精霊との交感能力を持つ者達の声を聴き、色々な情報を教えてくれるのだ。

五感よりもよほど、情報が入るのだ亜人達は自然と五感よりもそちらを重視するようになっていた。

とは言え、人間よりもよほど鋭いのだが。

だが、ここでリーヴァ限定で問題が生じた。

まずリーヴァの影の薄さはその亜人達の五感をもってしても気付かれないほどのハイスペック。

その上に精霊との交感能力は前代未聞の皆無ときた。

そう精霊はリーヴァの存在を知覚できないのだ。

故に亜人達は五感で彼を感知できないうえに、精霊知覚をもってしても一切捉えられない。

誘導魔法や探査魔法はまず効かない。

結界魔法は楽々侵入できるし、自動防衛のゴーレムはピクリとも反応せず、主を選ぶ魔剣の類でも剣自体が抜かれた事すら気付かない。

まだ人間だったら、ふいに気付いたり、彼を意識さえすれば気付くことができるが、亜人の国の子爵様の家柄では、そもそも人間が周りにいなかった。

オーシャン家に拾われた弊害であった。


「じゃあなんとかなるでしょ?ここには人間も居るみたいだし、話しかけてみれば?」

「……善処しよう」


押し切るように言いつつも、アドバイスは忘れない。

彼女とて別に嫌がらせでこんな事をしているわけではない。

彼のことを思っての事、つまり主従愛。

主人の思いやりに気付いているのかいないのか、自分の未来を思い抱き、かたかたとリーヴァは小刻みに震えていた。

どれだけ人見知りなのだお前は。

それでも断らないのは、ケティルを真に主と仰いでいるからなのだろう。

そうこうしている内に担任がやってきて二人に会話は自然に途切れた。

点呼が始まる。


「リーヴァ・オールス」


リーヴァはまた気付かれなかった。





とぼとぼといった擬音がぴったりの重い空気を雰囲気を背負ってリーヴァは学園の廊下を歩いていた。

その隣には、四六時中いるべき主の姿は今は無い。


「……仮入部しようにも誰も気付いてくれない」


今は入学一日目の午後。

午前中はオリエンテーションのみで終わり、午後はクラブ活動を個別に見学と相成りケティルと一緒に周ろうとした彼は、見事に拒否られ今に至る。

適当にぶらつき、興味を持てるものもあったが、全部遠巻きに見るだけにしておいた。

人込みは誰も気付かないので足を踏まれたり、ぶつかられたりとロクな目に合わないのは予想を通り越して確定しきっている事態になるからだ。

今は職員室の近く行ったり来たりした。


「帰宅部って言ったら……怒るよなぁああ」

「きゃあっ……え、なに?」

「……悪い……聞こえてないか」


独り言を言いながら勝手に凹んでいると、辺りに気を配っていなかったのが災いして女子生徒とリーヴァはぶつかってしまう。

場合が場合ならラブってコメたり、喧嘩になったり、後々の遠因になるだろうが、そこはリーヴァ。

猫人であろう猫耳を生やした少女は、見えない何かに当たったことに驚き慌てていた。


「あれ?……何かに当たった気がするんだけど……精霊も反応しない」


気のせいかなぁと首を傾げて去って行ってしまった。


「……しょうがない奥の手だ」


そう呟くとリーヴァは、職員室の扉に手をかける。


「……失礼します」


返事は無かった。

国の説明をば。

深夜の分には九大竜族の説明を入れています。

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