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層の世界  作者: 天とぶ羽
7/19

小休止 知という女の子


     0


 歴史に沈みましょう。

 もう役目は終わったのだから。




     1


 動けなかった。

 追いかけて「嘘だよ、びっくりした?」と笑って言えたらどれだけよかっただろう。

 でも、それも叶わないんだ。


 傷ついた顔をしていたと思う。無表情だったけど、多分そうだ。

 私と自分の立場、言われたことの意味、多分全部を悟ったからこそどうして、と聞いてこなかったんだと思う。

 私は…ひどいことをした。でも、それが盗賊ギルドの長たる私の役目。

 逃げられなかったんだ。


「大丈夫かい?」

「…うん、平気。今日は…暫く放っておいて」

 彼が行ってしまった後へたり込んで呆然としていた私に、誰かが声を掛けてくれた。

 体に力が入っていないことがわかる。懸命に重い体を引きずって、広間を出る。

「今日一日で、リセットしてみせるから…明日まで待ってて」


 お父さん、こんな情けない私が長でいいのですか?

 ギルドは家族のようなもので、そのメンバーが1人欠けただけでふらつくような私が長で、本当にいいのですか?

 心さんのほうが、おジィちゃんのほうが合っているのではないですか?

 お父さん、わからなくなりました。

 本当に、私に長など務まるのでしょうか…?


 真っ暗にした部屋から、窓の外を仰ぐ。空は晴れ渡っていて、この気持ちを包んでくれているような気がした。

 自然と涙がこぼれる。

 ―ああ、そうだ。

 ―私の泣く場所は、もうないんだ。

 ―受け止めてくれる人はもういないんだ。

 やっとここまで仲良くなって、心も開いてくれていたのに。

 望んでも望まなくても関係なく、平等にやってくる別れ。

 お父さんだってお母さんだって、お姉ちゃんだって弟だっていなくなった。

 彼の時だって、初めからいなくなることを覚悟しておいたじゃない。

 なぜ忘れていたんだろう。

 この感情は捨てよう。そして、覚えていよう。

 お父さんとおかあさんとお姉ちゃんと弟のように、記憶に残して。

 記憶に対する感情は、あってもなくても同じだから。

「うん、そうしよう」

 明日になれば笑えるように。

「…じゃあね」

 テーブルの上においてあった、今日は外したペンダント。

 彼からの、最初で最後のプレゼント。

 それを、窓の外に。




     2


「それでいいのですか」

 どこかで白い少女が呟いた。

 少女の目の前の青年はテーブルに分厚い本を開き、何かを書き記している。

「どうにか出来ることではない」

 青年はため息をついて、椅子の背に体を預けた。

「私は存在しないモノだ。記すことしかできない」

「それはそうですが」

 いつも以上に反論してくる少女の頭に大きな手を乗せる。

「あの少女がそんなに気になるのか?」

「いえ」

「即答は肯定とみなすぞ?」

「私は否定しましたが」

「…そうか。ようやく1つが終わったな」

「はい」

「そのうちお前も登場するだろう」

 大きな手から逃れて、少女は白い世界から遠ざかる。

「待ちに待った瞬間だろう?喜べよ…こう、両手を挙げて」

「…………」

 振り返って、すたすたと青年の正面まで歩き、立ち止まる。

 そして少女は下から青年の顔を見上げる。

「降参の合図だと認識します」

「…いや、冗談だ」

 少女は再び扉に向かい、青年はため息を吐く。

 少女が扉の向こうに行ってしまうと、青年の独白が始まる。

「早く本物の動力を入れてやらねば…時期に均衡が保てなくなるな」

「こちらが一足遅いのか」

 青年の独白は続く。


「…この者達には申し訳ないが、消えてもらうか」


     ―閑話休題―




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