第三層 騎士ギルド
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光に向かうは幻か
闇に向かうは現か
開かれしは影の扉
いしを求めし旅人の
待ち人は未だ来ぬ光
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「…は、あ…」
騎士ギルドに自首したのはいいが…もてなされるとは思わなかった。
待っていろと言われて待たされている部屋は、豪華な…第一階層街くらい豪華な部屋。赤いフカフカの絨毯が床一面に敷かれ、綺麗に磨かれた棚やら壁やら柱。高そうな置物。
どう考えたって、俺が一番汚くて場違い。
「待たせてすまなかったね。私がこの騎士ギルド最下層街支部長のフェリスだ」
騎士ギルドの中で位を表すためには、鎧の独創性と手甲に掘られる紋章が用いられている。
が…こいつは普通だな…特に目立った変化は見られない。
「君が自首してくれた子どもかい?」
「…あの。犯罪者にこういうのってよくないんじゃね…ないですか?」
一応敬語で話してみた。が、驚いた表情のあと大爆笑を始める。
「驚いた、最下層街にも礼儀を知ってる人がいたとは…先輩も嘘ばかりおっしゃる人だからな」
わけがわからない…けど、バカにされた気がした。
「なんなんだよアンタ、どうにかしたいならさっさとしろ」
「いや、すまない。気分を悪くしたのなら謝るよ」
ため息を吐いた後、ふかふかの椅子―ソファなのだが―に座る。俺は立ったまま、促されても座らない。
「…こちらには君をどうこうしようという気はない。君は国に貢献した、いわば尊い犠牲なのだからね」
「…はぁ」
何が言いたいんだ?この支部長は。
「君には第一階層街にある研究所に所属してもらうことになる」
…はい?今、なんとおっしゃった?
「そこで、この国を維持するためのエネルギーについて研究するんだ」
研究?…研究って…勉強しないと出来ないんだろ?何言ってんだこのバカ。
「ここまでで質問は?」
「質問したいことしかないけど…とりあえず、なんで俺なんだ?」
「君でなければいけないんだ。それだけだ」
それは理由になっていない。それくらいはわかる。
なんなんだ、こいつ?
ちらりと見えた手甲には、騎士ギルドの紋章が半分以上出来上がっていた。
それはつまり騎士団長以上を示す。こんなに若く見えるのに、実は年増?
「失礼なことを考えていないか?」
「年増だろ、お前」
「失礼だな、君は。僕はこう見えてまだ25だ」
「嘘吐け」
「嘘吐いてどうする」
いや、そんなのわからないけど。
俺は正確な年齢さえわからないから、少しうらやましい。
「とにかくだ。君にはこれからそれなりの格好をして、研究所へ私と共に向かう手はずになっている」
「いきなりそんな―っわ!?」
ばたんと扉が開いたかと思うと、騎士ギルドに勤める事務係…いわゆる侍女のようなやつらが入ってきて俺を拘束した上で引きずっていく。
「ちょっと、まて…は、な、せっ!」
「じゃ、ヨロシク。準備が終わったらまたここへ来るんだ。…リオ、あとは頼んだよ」
統括する立場らしい女の人がその部屋を出ると、扉は閉まる。俺は引きずられるまま、まずは風呂場へと放り込まれた。
「ちょっと、まて、おい、脱ぐのは俺が自分で―――!!」
「…それだけは外すな!!」
「じっ自分で出来るから―――!!?」
「いだいいだいいだいいだいいだい!!!」
「あつっ!?熱いってば!!」
「これ…着るの?」
すっかり汚れを落とされて髪すら整えられた俺は、落ち着かない気分のまま洋服を着せられていた。
でも…長い間最下層街にいたからだろう、その雰囲気や臭いは取れない。
「これは第一階層街における入隊直後の『騎士見習い』に与えられる普段着です。第一・第二・第三階層街男子には、法により一定期間の騎士ギルドへの入隊が義務付けられています。そのため、外見年齢上、この普段着を着ておけばよいでしょう」
さっきリオと呼ばれた人が目の前に立った。ブーツにだぼったいズボンをいれ、二の腕の途中まで袖のあるわりとゆったりとしたシャツ。腰で一度絞っても尻を完全に隠してしまうほど大きいから、サイズ間違いなのではと思う。
そして、鞘に入れられた訓練用の剣とそれを腰に下げるためのベルトを装備して常に行動するのが通常らしい。
…短剣やらなにやらを隠しておけないのが落ち着かない。隠し持っていた全ての武器はどさくさにまぎれて回収された。
「さあ、支部長の下へ戻りましょう」
周りを侍女たちに囲まれて歩くのは、なんとも落ち着かない。
これから何が待っているのか、見当もつかないけれど…俺にはわかる。
もう、最下層街には戻って来れないだろう事だけは。
「やあ、綺麗になったじゃないか。こう見ると…君は結構幼い顔立ちをしているんだな」
「悪かったな、ガキっぽくて」
失礼なやつだ。
「きっと君は惚れられやすいだろうな」
「…どういう意味だ、こら」
「深い意味はないよ」
ニヤッと不気味に笑い、歩み寄ってくる。
「それにしても、その格好が似合うな。上の階層街で10才くらいの男子が着る服なんだぞ、それ」
最下層街でだって、そのくらいのやつらが着ているようなデザインだよ。
というか…さらっと嫌味言われた?
「さて、そろそろ迎えの馬が到着する頃だ。…君は馬に乗れるかい?」
「当たり前だ。俺を誰だと思ってやがる」
「自首してきた盗賊」
…間違っては、いないけど。
「そうそう、君は今までの名前を捨てるんだ。いろいろとまずいことになるんでね。君はこれからコウ・フェリスという名を使え」
「コウ…フェリスって…」
「君は今日から僕の息子だ」
息子。
そんな、勝手に。
「戸籍上ではね。君にも家族と思える人がいるのだろうから、戸籍上だけだ」
そんな勝手に決められるような家族なんて。
『かぞくなんていらない』
どうしてこうも次々と、面倒を運び込むんだ。
「さあ、コウ。行こうか」
「ああ」
俺を一体どうしようって言うんだ、君は。
お待たせいたしました。
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