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層の世界  作者: 天とぶ羽
18/19

第十五層 師範


     0


 動かないものを的にするのは簡単なのだ。

 動くものこそ難しい。

 それを動かなくするのが目的ならば。


     1


 俺は人目に付かない場所を探した。しかし、さすがに騎士ギルド、国のお抱え軍隊。不法侵入に備えて…なのかはともかく、夜の警備も怠っていない。人目につかず、且つ会話を聞かれない場所。

 そんな条件で探し回った結果、結局屋根の上に落ち着いた。

「さて。え〜…と、名前なんだっけ」

 首からぶら下げていたものを引っ張り出す。側面は赤く光っていない。

「り〜…り…りぃ〜…」

 リ、しか思い浮かばない。

『呼んだ〜?』

「うわっ!!」

 いつもいつも、唐突に話しかけてきやがって…。

『いい加減覚えてよね〜、ボクはリカリア。リカリア=ホーランド。はい、復唱する!』

「り、リカリア、ホーランド?」

『良く出来ました〜』

 子どもと接するときのような優しい声。

 …俺はもうガキじゃねぇ。

『んで、なに?』

 精一杯怒りを抑える。ため息を一つ、それから口を開いた。

「お前、調べ物得意か?」

『お前って…リカリアか、りったんって呼んで?』

 …どこの誰だ、それは。

「じゃあな」

『や、ボクは別にいいけど』

 そうだった。俺が頼もうとしていたんだった。

「…リカリア。調べ物を頼みたい」

『…りったん…』

「それは断固として拒否する」

『ちぇっ』

 というか話が進まねぇ。

「第二階層街を実質支配しているパヴェロ家について。主に、現城主のこと」

 少しの間があり、次に発せられた声はいつもとは違っていた。

『…第二階層街のパヴェロ? どんなことに巻き込まれているのかは知らないけれど、関わらない方がいいと思うよ?』

「そこに、お前の言う『緑』が居るんだよ。それに、城主の…そいつのせいで第一階層街に行けないんだ」

『ふぅん…ボクとしては、緑と会ったならそれ以上はしなくてもいいと思う、って言うかしないほうがいいとは思うけど。まぁ、こーちゃんが言うなら、仕方ないね』

「ちょっと待て。なんだこーちゃんって」

 初めて聞いたぞ、そんな呼び名。

 しかしそのことには触れず、一日待ってと言って通信は途絶えた。


 声が止んで急に静かになった夜、かすかな物音が聞こえた。それも、中庭の方から。

 屋根から覗くと、騎士の一人が剣を振っていた。それも、ひたすら振りかぶって振り下ろしている。そんな方法で上手くなれるとは思っていないが、それでも無駄な努力だな、と思うくらいには下手だ。剣に振り回されているようにも思えるが、単に疲れが出ているだけかもしれない。

「…あれじゃあ、前線で死ぬのがオチだな」

 最下層街で過ごしてきたからわかる。あんな軟弱なやつ、人どころか獣だって殺せないし、逆に殺されてしまう。疲れが出ているにしたって、ふらふらだからこそ一撃一撃の重みが増す。

 単に、殺気が感じられないからこんなことを思うのかもしれない。

「さて、と…ジルのところに戻るか」

 俺はさして気にも留めず、屋根から下りる。するりと部屋に戻ると、丁度ドアがノックされたところだった。今日は珍しく個別の部屋をあてがわれたから、もしかしたらジルかもしれない。

「誰だ?」

「コウ、いるかい?」

 …いなかったら返事があるはずがないだろう。

「居るけど。なんだよ?」

「開けてくれ」

 何で俺が…

 ドアノブをまわして引く。すると、両手に大きな荷物を抱えたジルがにこやかに立っている。正直、変。

「な、なんか用か?」

「君にプレゼントだ。必要なものだから、持っておけ」

 ゆっくりと部屋に入って、荷物をベッドの横に置いた。そして、部屋を去っていった。

 荷物は、箱に詰め込まれているらしい。箱が微妙に変形し、ヒモで締め付けているから形が保っているようなものだ。

 開くか、開かざるか。

 …迷うなぁ…




     2


 次の日の朝、ドアがノックされた音で目を覚ました。

 強く叩かれたドアが、そろそろ壊れそうで、慌ててドアを開く。

「遅い! 稽古の時間は始まっている!!」

 目の前には薄い金の髪と藍色の瞳を持った騎士が立っていた。

「…は? だれ?」

 それを聞くと、瞳を怒らせて睨んできた。

「第二階層街騎士ギルド支部長から稽古指導を賜っている、師範代のウィルソン・パンデ。ジル・フェリス様よりの依頼で、お前の稽古を担当することになった。わかっただろう? これから稽古だ!!」

「聞いてないし」

 だいたい、俺は受けた覚えすらない。

「しかも、面倒。俺別に騎士になる気ないし」

「…見習いの服を着ておいて何を言っているんだ? それに…」

 部屋の奥を覗かれた。そこには、変形し開封済みの箱が放置されている。回りには同じく放置された訓練用と思われる防具やらがある。

 …はめやがったな、あの男…

「やる気はあるのだろう? はじめだから仕方ない、許すから準備…防具と訓練用の剣を持って付いて来い」

 ウィルソン師範代はそういうと俺を待っているようだ。…くそ、あの狸野郎…

「ほら、準備したら行くぞ」

 覚えてやがれ!!


    *   *   *


 稽古場に連れて行かれると、俺よりも大人のやつらが剣を使って打ち合っていた。

 …あ〜あ〜、残念なやつら。型にはまったやり方じゃ、戦場では生きられない。

「コウ君、こっちだ」

 入り口でボーっとしていると、声をかけられた。そこにはウィルソンではなく、背の高い人物が手招きしていた。黒っぽい髪を頭の上の方でまとめ、瞳は緑。すらっとした体系、稽古用の防具は使い古されたように見える。左の腰に下げた剣の柄には布がまいてあった。

「えっと、あんた誰…ッってぇ!!」

 瞬間、ウィルソンに後頭部を強打された。

「フェリス、敬語を使え。この方は第二階層街騎士ギルド支部長であり、この稽古場の師範でもあられる、サキ・カスガ様だ」

 …和名…ってことは、出身は別の国か。

「よろしく。喜ばしいことに多忙なのでね…あまりここには顔を出せないのだけれど、顔を見ることが出来て嬉しいよ」

「…ども。コウ・フェリス。あんたが…ッ!」

「あなた」

「あ、貴女がここの師範代…です、か。えっと、ん〜…」

 どうやって敬語にしたものか。

「ふふ、いいだろう。普通に喋った方が、スムーズに会話が出来るようだ」

「カスガ様!」

「いい。私が許可する。さて、コウ君」

「あ?」

 ウィルソンに殴られる前にしゃがむ。これでウィルソンの攻撃は防げる。

「ふむ、なかなかの反射神経だね」

「鍛えられてるからっ、と」

 追撃を前転しながら避けると、カスガ師範を盾に隠れた。

「ぐ、卑怯な…」

「へっ、戦いに卑怯も正々堂々もあるか」

「ここへ直れ! その曲がった根性直してやる!!」

「まぁ待て」

 ここでカスガ師範がとりなしたのは、結局凶と出ることになる。

「コウ君」

 にっこりと微笑んだその笑みには…

「私と手合わせをしよう」

「カスガ様!?」

「はぁ!?」

 …悪魔が潜んでいた。





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