小休止 リカリアの昼休み
これはコウ達が第三階層街を訪れる前の話になります。
それでは、どうぞ…
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晴れても曇っても雨が降っても雷でも雪でも。
いるだけで晴れるのです。
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「ふわぁ…」
「そんなに暇なら、店の手伝いしてよ…」
行きつけの武器屋の主、幼馴染のサラがそんなことを言う。
「え〜…だって、たまの昼休みだよ?」
「たまの昼休みって…毎日昼休みあるじゃない」
呆れながら、サラは伸びをする。
ここはサラの家が営む武器屋『リビングホープ』。ボクからすると、第二階層街で一番優秀な武器を取り扱っている場所と言える。けれども、店自体が年季の入っている建物のためか、はたまた目立たないためか、騎士達への浸透具合はいまいちという隠れ家的な店。
まぁ…かわいくておっとりして、癒しであるサラを他の男共に知られたくない、という男共が言わないだけなんだけどね…。
「っていうか〜、匿って?」
「今度は何したの? …リーちゃん?」
不穏な空気を感じ取ったボクは、サラが立っている支払い場の下に隠れる。
次の瞬間、ガラっと勢いよく開いたドアから入ってきたのは、多分。
「サラ様、失礼と承知でお聞かせ願いたい…ホーランド様はこちらでしょうか?」
堅苦しい言葉の割りに、少年のような声。口調には、呆れた感じがにじみ出ている。
「えぇっと…リーちゃんが、また何かしたのですか?」
「何かもなにも…聞いてくださいますか!?」
「は、はい、私でよければ」
気圧されるような形でサラは話を聞くハメになっていた。
「ホーランド様ってば、第三階層街自治書類整理とか、商人ギルド長とか市民ギルド長とか騎士ギルド長とか任務斡旋所所長の面会を全部すっぽかしたんですよ!!それも、寝坊で!!しかも、前日の夜に会合という名の飲み会があって呑み過ぎたからって!!!それだけならまだいいんです、ええ、もう日常茶飯事ですから!!それなのに!!」
「…ま、まだあるのですか?」
サラは足元にいるボクの足を容赦なく踏みつけた。
「………っ!! …………っっ!!!」
痛い。痛いけど、見つかったらお仕舞いだ。がまん、我慢するんだ、ボク!!
…あ〜〜!ダメだ、ヤバイ、涙出てきそう…訓練より痛い…よく考えたら、ピンポイントで小指だよ!?ちょっと、マジ、あ〜〜!!
「はい…今日から、やっと今日から、実技稽古付けてくれるって、言ってたのに…」
「あらあら…それは…」
悲しそうな声。ああ、そうだ。忘れてた。いや、忘れてないけど…もう、そんな時期だったっけ。
「分かりました。じゃあ、見つけておきますから。訓練所で準備運動していてください。見つけたらすぐに向かわせますね?」
「…え、あ、はい、わかりました…」
ガラガラ、ピシャ。
「…リカリア・ホーランド第三階層街騎士ギルド特殊隊隊長?」
「…なんでしょうか」
「ほら、昼休み終わりまでもう少しありますから、出てきたらいかがですか? お昼食べてないでしょう?」
「そうしましょうか」
ボクはゆっくりと出た。小指は痛いけれど…まあ、大丈夫だろう。
「何か言うことは?」
「ごめんなさい」
「よろしい」
ボクが頭を下げると、サラはにっこり笑った。奥にあるテーブルで手招きする。
「今日のおかずはー?」
ボクが近くに行き、テーブルの前に座る。皿に手を伸ばすと…あれ?
サラはなぜか、ボクから皿を遠ざける。しかも、テーブルに用意してあった食事をおいしそうに食べはじめた。ボクの分は…?
「ジャック君と訓練よ?」
そしてボクの背後を指差す。振り返ると、そこには―
「…え、」
「…行きましょうか、ホーランド様?」
サラを見ると、穏やかで優しい微笑みを返してくれた。
「は、謀られたーーーー!!!」
それからボクは、ジャックに稽古をつけ、商人ギルド長と市民ギルド長と騎士ギルド長と任務斡旋所所長の面会をこなし、日付が変わっても第三階層街自治書類整理をさせられている。
「うわーー!ひどい、労働力搾取だーーー!!」
「それ相応のお金を国から支給されているんですから文句言わないでください!!」
「おーぼーだー!!!」
がちゃ、とドアが開き、ジャックにとっては仲間でボクにとっては鬼の秘書官が顔を出した。
「うるさいですよ!!今何時だと思ってるんですか!!」
「ご、ごめんなさい…………」
「すみません、秘書のお姉さん」
今日もボクは日の出を見てから寝るんだな…。
でも、悪くないと思う。
これが平和というものだから。そして、これからは平和でなくなるかもしれないから。
この子を戦場に送り出さなくてはならなくなったとしても、ボクは…
「ホーランド様? 僕の顔に何か付いてます?」
きっとボクは…
「いや。ほら、早くしないと…外にいるおっかない鬼に怒鳴られちゃうから」
「…誰のせいだと思ってんですか…」
ぼそりとつぶやかれた文句を笑って流しながら、溜まった書類を片付けることにした。
…きっとボクは、後悔だけはしない。
そんなリカリアを覗き見るジャックの表情には笑みが浮かんでいることを、彼女は知らないままだった。
2
青年は苦笑しながら分厚い本を閉じる。
「それにしても、学習しないよな」
少女が短くため息を吐く。
「誰の影響ですか」
「少なくとも俺じゃないぜ?」
「当代は、ですけど」
落ち込んだ様子の青年を呆れた目で見やった少女は、睨みつけるように―決して睨みつけているのではないのだけれど―青年を見る。
「当代ではないのですから、気落ちせず」
「だよな!? 心配してくれたのかー?」
心底嬉しそうに微笑む青年に対して、少女は分厚い本を指差し、
「はい、これの進度を」
と返しただけだった。
「…だよなー…」
青年はいつものように、あるいはいつもとは違うように、少女の頭を撫でた。少女もいつものように、あるいはこれもいつもとは違うようにじっとしている。
少女は暫くしてその手から逃れ、いつものように白い世界から出ようとする。
今日はその背に、いつもとは違う言葉が投げかけられた。
「同属が欲しいか?」
「あるいは同族がほしいのか?」
「同属は要らないか?」
「あるいは同族は要らないか?」
少女が振り返る。
その瞳は何も映されてはいないかのように、透き通っていた。
―――
「あーあ、言ってしまった」
少女が消えた方向を見て、苦笑する。
「しっかしまぁ、よくあんなこと言えたもんだ、俺も」
青年は閉じた本を開く。そこには、文字がびっしりと書き綴られていた。その文字は古代文字と称されるもので、既に廃れたはずの文字。
古代文字…別名『魔力文字』、あるいは『魔式文字』。
「さってと。言ってしまったものは仕方ない。俺に出来ることを、俺の限りない時間でやるとしますか」
青年は頁を繰る。
―――
少女は振り返った。
その瞳には、一面の白が映っていた。
「…私は、私だけで。貴方が、貴方しかいないように」
その中の、唯一の影。
少女に必要な、唯一の影。
「許されませんから」
ぺこりとお辞儀をして、少女は出て行った。
―閑話休題―
いかがでしたでしょうか?
本編ではさくっと第二階層街に進んだ主人公達。
少しあっさりしすぎで、第三階層街の重要人物であるリカリアがよく分からないようなので、番外として載せてみました。
よろしければご意見ご感想をお願いいたします。
読んでくださった皆様に、感謝を込めて...