ヤッパ最強
「ヘルギ先生・・・・・・」
ピンチに立たされたジュリアーノを励ましたのは、ほかでもないリューであった。
「ジュリアーノ。あんたも悪魔呼んだら?」
「あ」
ジュリアーノはへらへらと笑い、地面にペンタグラムを描いた。
「そうでした、そうでした。えへへ、いけね」
「しっかりしてよ」
「まったく、バカなんだから・・・・・・」
アクセルもこっそりつぶやいた。
「ホントにおめえ、ヘルギの弟子なのか?;」
「うっせぇ; ガキは黙ってろっ!」
ジュリアーノは短めのワンド(錫杖タイプ・プライスレス)を手にすると、
ゆっくり『レメゲトン』とか、『ゲーティア』と呼ばれる、魔術書の呪文を唱え始めた。
『わが神、テトラグラマトン。我が声に従い、かのものを召喚せよ。
――ナベリウス!』
ジュリアーノが左手の指にはめている黄金の金印。
召喚するもの、世界を統治するものしか手にできない代物である。
それは古代王、ソロモンが手にし、悪魔だけでなく動物や精霊さえも支配できる魔法の指環だった。
アグリッパはこの印章を手に入れ、リューを『キメラ』と呼ばれる魔獣に変えてしまう実験を行おうとする、悪質な魔術師だった。
アグリッパにとっての天敵は、ヘルギである。
今敵対する人物は行方不明のヘルギではなく、ジュリアーノで、アグリッパはジュリアーノの実力を把握していた。
そのため、余裕の笑みを浮かべて、ナベリウスの出現を待つ。
ナベリウスは銀色の髪をした老人の姿で、ジュリアーノの描いた魔法円から飛び出した。
「ナベリウスね」
アグリッパはアスモデウスを顎で支配した。
アスモデウスの邪悪な姿、――鳥のような巨体、頭には鶏冠、気味の悪い一つ目が印象的だった。
「そうそう。教えておいてやるよ」
アグリッパがジュリアーノに言った。
「ヘルギを消し去ったのは・・・・・・このわたしだ」
「なぬっ」
アクセルは驚いて悲鳴を上げたが、ジュリアーノはワンドを抱えたままで、
「あっそ。別に驚きゃしねーよ」
と言いながらナベリウスに命じた。
「いけ、ナベリウス! アスモデウスなんかに負けるな!」
「こしゃくな〜」
けれど、力の差は歴然とし、ジュリアーノは押され気味のナベリウスに声をかけた。
「何やってるんだよ、押されてるじゃないか」
「だってだってぇ〜ん、ご主人! コイツ強いよぉ;」
――なっ、なんか、だせぇな;
アクセルは汗をかきながら事態を見守る。
「リュー、ナベリウスって悪魔らしくねーぞ」
「しかたないじゃん、主人がああだし・・・・・・」
アクセルは笑うことすらできず、身動きのとれない我が身を呪った。
「くっそー、この身体さえ動けばなぁ」
「解除!」
声が響いて、アクセルは勢い余り転がった。
「あ、ヘルギ!」
リューが悲鳴を上げた。
「どこにいたのよ」
「ちょっとバカンス」
冗談めいて言うヘルギに、アクセルはつかみかかり、こういった。
「何がバカンスだ、このやろ〜! 人があの、ばか魔術師にやられそうだって時に」
「何を言う! もとはと言えば、お前がこのクロノスの鍵を持っていってしまったからだろう」
アクセルはヘルギの襟首を離した。
「あ、そか」
「それより、苦戦しているようだなぁ、ジュリアーノ。手伝ってやろうか」
ジュリアーノには返答する余裕がなく、右往左往するばかり。
「ナベリウスがやられちゃうよ〜、どーすりゃええんだ!」
「イヤだから、落ちつけっての;」
ジュリアーノの頭を殴って、自分の存在に気づかせるヘルギ。
「あ、まじっすか。先生!」
「ぬぁ!? ヘルギ!?」
アグリッパは顎をはずす勢いであんぐり口を開いた。
「アグリッパ・・・・・・」
ヘルギは手をぼきぼき鳴らし、ナベリウスに増強剤を渡すと、
「殺っちまえ(はぁと)」
と命じた。
「ぎひぃぃぃ;」
――あっけねえ・・・・・・。
ナベリウスの稲妻攻撃をイヤと言うほど浴びたアグリッパを見て、アクセルは引きつった笑みを浮かべる。
ヘルギがでてくると最強すぎて、あっけねぇw
不老不死の英雄だから仕方ないか(汗。