そいつは、俺じゃない!
実は、未完成の新人賞用の長編のプロローグ部分に当たります。
この話で完結するように書いてはおりますが、完成した長編をこのサイトで公開できるのは一年ほど後になると思います。
それでも、宜しければ、読んで頂ければ幸いです。
2月27日に追記です。
申し訳ありません。当然の如く、新人賞は落ちるものと思っていたので、大切な一言が抜けていました。
『もし受賞出来なかったら』、一年ほど後に公開できると思います。
既に読んでくださった皆様、こんな私の作品を期待してくださった皆様へ、謹んでお詫び申し上げます。
今後、このような事が無いように、充分に留意いたします。
本当にゴメンなさい。
ある日の事だ。
目を覚ますと、ベッド横から俺を見つめている女性に気がついた。
一人は知っている。俺の妹だ。
もう一人も知っている。妹の友達、『佳代 』ちゃんだ。
俺が目を覚ました事に気がついた、妹はこう言った。
「あ、兄貴。ゲーム貸してよ」
なるほど。彼女たちは時間を持て余し、解決策として俺にゲームを借りに来た、と言ったところか。
「好きにしろよ」
俺は、まだまだ寝足りなかった。
少しの違和感を感じたものも、そのまま再び眠る事にした。
お昼頃に目を覚ました。
今度は、不自然な覚醒じゃない。充分に寝る事ができた満足感で一杯だった。
いや、寝すぎてしまって、逆に身体が重いほどだ。
ふと、右手の甲に落書きがあることに気がついた。
嫌な予感と共に洗面所に向かうと、案の定、顔には沢山の落書きがあるではないか。
定番の泥棒髭や、『馬鹿兄貴』と言った見覚えのある憎たらしい字のものまで……。
これは怒ってもいいよな?
普段は穏便な俺でも、我慢できないぞ?
ただ、右手の甲の落書きだけは、様子が違っていた。
妹の丸みを帯びた、読みにくい字とは違う。
綺麗でいて凛とした字で、こう書いてあった。
『ずっと、あなたを見ていました』と。
俺は、ノックもせずに妹の部屋に乱入した。
そこに広がる映像は、あまりに不自然だった。
妹の姿はなく、緊張の表情で正座している佳代ちゃんだけの姿があったのだ。
二つ年下の妹の友達である佳代ちゃんは、やっぱり二つ年下である事を意味している。
だけど、その童顔は二歳よりずっと、年下に見える。
なにより、全ての行動がスローテンポで、やっぱり口から出る言葉も、舌足らずでゆっくりとした口調な訳で、幼く見えてしまうのだ。
興奮冷めならぬ俺は、不自然な状況を気にすることなく、ただ一言。
「あの、馬鹿はどこ行った?」
だけど、佳代ちゃんは、俺の質問に答えることはなかった。
スローな話リズムではあるのだけど、緊張感の伝わる一言。
「答えを聞かせてください!」
「答え? いや、俺が質問しているんだよ。あの馬鹿はどこかに隠れているんでしょ? 良いよ。あいつが怒っても俺が守ってあげるから、居場所を教えてくれないかな?」
それでも、彼女は俺の質問に答えてくれなかった。
「あなたらしいですね。あれじゃ、伝わらないか……」
そして佳代ちゃんは、立ち上がり、深々と頭を下げたのだが、それはスローモーションだった。
「あなたは、ずっと補欠にもなれない部活を、腐ることなく頑張っていましたね。そんな努力家のあなたが好きです」
俺の頭は、状況を理解するのに精一杯だった。そんな、俺に気がつくことなく彼女は続ける。
「あなたは、どんな時でも、自分より他人を優先していましたよね。そんな優しいあなたが好きです」
スローな話口調は、俺に考える時間を充分に与えているのだけれど……。何も反応する事はできなかった。
それでも、彼女は続ける。
「あなたは、やっと形に出来た私の気持ちにも気づいてくれない。だけど、そんな年上に見えない、純粋なあなたが好きです」
そして、彼女は深々と下げていた顔を上げ、『どんな結果でも大丈夫ですよ』なんて言葉が聞こえてきそうな澄み切った笑顔で、最後に一言を付け足した。
「ずっと、あなたが好きでした。……答えを聞かせてください!」
スローなテンポで、優しい空間を作り出す佳代ちゃん。
今までは、『妹の友達』としか意識していなかった佳代ちゃん。
その理由は、簡単で、彼女が俺に不釣合いなぐらい、可愛いからだ。
これは相当に嬉しい出来事で、考える必要も無いぐらい簡単なクエスチョンなのだ。
だけど、一つだけ問題がある。
努力家で、優しくて、純粋な俺が好きだって?
待ってくれ。そんな男は、この部屋に存在していないんだ。
そいつは、俺じゃない!
俺は即答した。
「これから、よろしくね。佳代ちゃん」
未完成の作品を、最後まで読んで下さった皆様、ありがとうございます!
さて。長編は『ラブコメ』にしたいと言う方針しか決まっておらず、起承転結の『起』と『結』しか、私の頭に存在していません。
物語を膨らませるのって難しいですね。
このサイトの皆様、プロの皆様に尊敬の念を送ると共に、失礼な態度を許してくださった皆様に、多大な感謝を申し上げます。