第5話 「神との別れで目覚める決意」
『次は魔力を使ってみるのじゃ。魔力は心臓の反対側にある魔力貯蔵器官から生成、貯蔵されていてそこから取り出すイメージで使うことになる。最初は魔力を移動させることも難しいだろうが、慣れれば外に出すことも形を作ることも可能になるぞ』
「魔力か......村で魔蒸器具を使うときは手を触れたら勝手に魔力を取られるタイプだったので意識して魔力を使ったことは無かったですね」
『文明の発展によってそのように変化していったのだが、魔蒸器具が流通する前の方が人は自由に魔力を使えていたの。ゼノヴェルの村では鉱魔獣が現れることが無かったため知らないじゃろうが、神導武器と魔力を用いて鉱魔獣を狩る者を討伐者と呼ぶのじゃ』
討伐者か......俺が今からやることは討伐者と同じことをするんだろう。でも、何故かなろうとは思えない。
「討伐者は自認しているだけですか?それとも組織に入って活動していくんですか?」
『討伐者管理局という組織に入って人から依頼を受ける形で活動しているようじゃな』
「なるほど......じゃあ俺は討伐者にならない道に進むと思います。今更人のことを信じられないと思いますし」
『それもまた選択じゃな。今は生きるために魔力を動かせるよう訓練する方が先であろう。――最後に魔法についてじゃ。魔法に一番大切なのは想像力じゃ』
想像力か。俺の魔法は確か、光魔法と夢魔法だったかな。
『ゼノヴェルの持つ魔法はどちらも特殊な部類じゃな。光魔法は光を出して回復にも使える希少属性と呼ばれているもので夢魔法は種族特性から得られる固有魔法に該当する魔法なのじゃ。扱いは難しいが使いこなすことが出来ればこれほど頼りになるものはないぞ』
シャーマ様は少し考えるような仕草をした後に、俺に手のひらを向けてくる。
『【夢は幻想】』
シャーマ様が詠唱のようなものを口にした瞬間、手のひらから紫色の煙が発生して俺の視界を覆った。
「これは......?」
何も見えなくなった俺は煙を払うように顔の前で手を振る。
視界が晴れた先にあったのは青い綺麗な花々が咲いていて、中心に神殿のような建造物が見えるまさに神界とも呼べるような光景だった。
この世のものとは思えないほど壮大で神秘的な光景に圧倒されていると、徐々に目の前が暗くなっていく。
瞬きをひとつしたときにはもうすでに見慣れた洞窟の中へと戻ってきていた。
まるで夢を見ていたかのように鮮明でありながら記憶にも残らないほど儚い景色を見ていた気分になる。
『今のが夢魔法じゃ。相手に幻を見せて現実との境目を曖昧にする魔法。絶望の淵にいるものに最後の希望を見せることも出来るが、逆もしかり。使い方はゼノヴェル次第であるな』
「魔法ってこんな感じなんですね......」
『ゼノヴェルは種族特性で魔力操作をすでに覚えているので比較的簡単に使用できるようになるはずじゃぞ。まずは頭を使い、想像することから始めると良いぞ』
夢を見せることが出来たところでどうやってこの森を生き抜くのかは全く思いつかないけど、それも想像力で補ってこそなのだろう。
逆に固定観念に囚われた時点で俺が生き残る道は無いのかもしれないな。
『これで妾から伝えられることは以上じゃ。これから先は二年の孤独が主を待っているじゃろう。だが、主が頑張る姿を妾は常に見ているぞ。絶望したときには妾を思い出すが良い。暗影の神シャーマの名においてゼノヴェルの心の拠り所であり続けることを誓おうぞ』
シャーマ様はそう言うと俺のことを引き寄せて抱きしめた。
シャーマ様の言葉は孤独で何も信じられなくなっていた俺の心にゆっくりと染み込んでいく。
まだ俺は心の底からシャーマ様のことを信じられてはいないのかもしれない。でも、いつかこの優しさに素直に感謝したいという想いはある。
「シャーマ様......俺、頑張ります。死ぬ気で頑張って、最後まで血と泥に塗れても生きてみせます!だ、だから......また、俺に会いに来て欲しいです」
『ああ、ゼノヴェルが試練を乗り越えれば必ず主の前に現れるのじゃ。どんな手を使っても良い、最後まで生き残ることこそが未来を掴むのじゃ』
――『また会おうぞ、ゼノヴェルよ』
その言葉を最後に、シャーマ様は静かに俺の身体から離れる。次第にシャーマ様の身体が透けていき、黒い光の粒となって空中へと消えていった。
頬を濡らす涙を拭いながら、俺は天を見上げて届くかもわからない言葉を返す。
「シャーマ様、また会いましょう。......それさえあれば、他に何もいりません」
――この時から俺の孤独で壮絶な二年間が始まった。
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