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大鎌が魅せるは貴方の最期~畜生以下の存在には最期に夢を魅せましょう~  作者: いさな


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第3話 「神からの試練」

「ん......」


 鍾乳石から落ちた水滴が頬を濡らした感覚で目が覚める。


「ここは......そうか、俺は昨日逃げた先で見つけた洞窟に入って......」


 そこで意識を失ったのか。寝てる間に襲われなかったってことは洞窟の中は外よりも安全なのかな。


 寝起きで働かない頭で昨日のことを振り返る。


(逃げているときに別れて逃げた二人の声が聞こえた気がする。結局、運が振り向いたのは俺だったのか)


 他の子たちはもういない。俺が生き残ったとしてもこれから何が出来るのか。


 昨日、俺は森の奥へ向かって走ったはずだ。ということは洞窟の外は鉱魔獣が歩き回る地獄であり、逃げ場は無い絶望的な状況、武器も無い俺が生き残る確率はゼロに等しいだろう。


「これからどうしようかな。食べ物も水も無い......でも外に出たら死ぬかもしれないし」


 膝を抱えて岩しか見えない天井を眺めながら静かに心が沈んでいく。何かする気力も起きないし、奇跡的に人に会えたとしてもあんなことの後では信用できる気もしない。


「はあ......」


 膝に顔を埋めて何も考えないようにしていた俺の頭の中に突然女性の声が響く。


『理不尽に抗うことも無く、諦めるのかのう?』


「――だ、誰だ!?」


 俺は顔を上げて周りを見渡したが、当たり前のように人がいるはずもない無機質な空間が広がっている。


『妾は暗影の神シャーマ、多くの人の子が闇の神と呼んでいる存在じゃ』


「シャーマ......様?神様の声が聞こえるなんて俺はそんなに疲れてたのか......」


 もう人を信じることは疲れたと感じていたからこそ、俺が生み出した幻聴だろうな。


『そう思うのも仕方ないのじゃが、ここは信じて欲しいのう。ほれ、会話も成立しているじゃろう?』


 た、確かに俺の幻聴にしては知らない口調だし会話が続くのもおかしい。もし、神様だとしたら大変不敬なことをしていることになるからしっかりと考えなきゃ。


 神様......普段なら疑うところだが、こんな人がいるはずの無い場所で直接、頭に声を響かせることができるのは神様としか考えられない。


「シャーマ様!多種族に導きの力を授けるとされている神様がなんでいつ死ぬかもわからない俺にお声がけを......」


『その問いに答える前に、妾からもう一度聞くのじゃ。ゼノヴェル、主はこのまま理不尽に抗うことも無く、諦めるのかのう?』


 そんなわけないだろ。俺だって本当は諦めたくは無い。だけど何も無い今の俺に何が出来るっていうんだ。


『なるほどのう......では、抗う力があるとしたらどうじゃ?』


 俺が口に出す前にシャーマ様は思考を読んだのか新しい問いを俺に提示してくる。


 俺に力があったら、か。その問いへの答えはもう心のなかにある。


「命が尽きるまで抗い続けます。腕が折れようとも泥水を啜ることになろうとも最期まで諦めず、運命に立ち向かいます。これは俺の意志であり親父の遺言だからです」


『そうか。では暗影の神シャーマの名においてゼノヴェルに試練を授けよう。この試練を乗り越えることができれば妾からの褒美として理不尽に抗う力を与えようじゃないか』


 今の俺にはシャーマ様から頂いた機会を断る理由が無い。どんな試練が降りかかったとしても絶対に乗り越えてやる。


「シャーマ様、お願いします。非力な俺に試練をお与えください。必ず試練を達成し、シャーマ様の期待を裏切らないことを誓います」


 俺は頭に響く声を信じ、地面に膝を着いて手のひらを合わせて望みと祈りをシャーマ様に伝える。


『ゼノヴェルの想い、伝わったぞ。では、試練の説明をしよう。試練の達成条件は13歳まで戦い続け、生き残ることじゃ』


 13歳か、たしか多種族は教会で神様から神導武器っていう鉱魔獣に対抗できる武器を授かる儀式を受けるんだよな。たしかその年齢が13歳だったはず。


 俺も親父から13歳になったら国に連れてってやるなんて言われたっけ。


『前提としてゼノヴェルに鉱魔獣を滅するための力、神導武器を授けるぞ。神導武器はゼノヴェルの適正を参照し、最適な武器種が手に入るのじゃ。

 ただ、他の人が13歳で授かる神導武器とは違い、授ける武器は弱く脆い武器と呼べるかも怪しいものじゃ。主がこの武器と鍛えたスキルで13歳まで心が折れず、生き残った際にに妾から新たな褒美を与えるのじゃ』


「それが試練ですか、わかりました。俺、ゼノヴェルは鉱魔獣を殺し生き続けます。闇の......いえ、暗影の神シャーマ様、どうか俺の勇姿を見届けてください」


『では、妾の言葉を復唱するがよい。”神よ、裁きの闇を我にお授けください”』


「――神よ、裁きの闇を我にお授けください」


 目を閉じてシャーマ様の言葉を祈りの気持ちを込めて復唱する。


 その瞬間、俺の周囲から音が消え、変化を感じて目を開けた俺の前に黒髪で漆黒の衣を身に纏った絶世の美女ともいえる女性が立っていた。


 その衣服は異国の物だろうか。本で見たようなドレスのように身体の線に合わせるのではなく、四角い布が身体を包み込み、規律のある布の端が着崩したように肩にかかっている。袖はゆったりとした翼のように広がり、どこか妖艶な雰囲気を醸し出していた。


 女性はゆっくりとした足取りで俺に近づき、覆いかぶさるようにそっと抱きしめる。


『どうか、死に向かわないようにな』


 女性が耳元で一言伝えたその時、俺の頭に神導武器の使い方とステータスに関する情報が一気に流れ込んできた。


 突然流れた濁流のような情報が頭の中身を浸食していく。許容量以上の情報に耐えきれずに割れるような頭痛が襲ってくる。


「が、ぁあああああああ!!頭が......!!」


『本来、神導武器は身体がある程度出来上がるまで授けることは難しく、13歳に導きの儀式を行うんじゃ。だが、ゼノヴェルはまだ11歳。このような反発が起きることは避けられん。心が痛む行為じゃが、主にとって必要な処置故、許せ』


 女性に抱きしめられ、正気を保つことすら難しい痛みから逃げられない俺は、ただ叫び続けることしかできない。


 もうどれだけ時間が経ったかもわからない。もしかしたら10秒かもしれないし、1時間だったかもしれない。


 地獄のような痛みが徐々に引いていくのを感じながら、俺は再び意識を手放した。


 ◇◆◇◆


もうすでに意識の無いゼノヴェルをしっかり寝させてやるのも神の務めじゃな。


『よく耐えたな、ゼノヴェル』


 妾はゼノヴェルを抱きしめていた身体を離し、規則正しい呼吸を保つ意識の無い身体を支えて膝枕をする。


 膝の上にある頭をゆっくりと撫でながら、妾はゼノヴェルのこれからの未来を考える。


『ゼノヴェルがこのようになってしまった原因は鉱魔獣だけでは無い。世の中には意地く、畜生以下の腐り果てた者もいるのじゃ』


 鉱魔獣という共通の敵がいても知的生命体は同じ方向を向けないとは。全く、愚かで汚らしい。


『王道を歩く者には妾の力は必要ない。暗影の神シャーマはゼノヴェルのような道が崩れた者のためにある。ゼノヴェル......可哀想で可愛い子』


 妾は寝息を立ててゼノヴェルが目覚めるまで寝顔を眺めながら安心させるように頭を撫で続けていた。

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