表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

38/64

38話 驚愕と驚愕と驚愕と

「はぁっ!? アリエルがドラゴンを討伐したぁ!?」


 王の大きな声が空に響いた。

 穏やかでありながら常に冷静と評判高く、普段ならまずありえないこと。


 王は常に冷静沈着だった。

 褒賞を与える時も、罰を下す時も。

 公務の場で顔色一つ変えることはほとんどない。


 家族と過ごす私的な場では、それなりに表情も見せる。

 だが、それでも取り乱すなどまずない。

 唯一、アリエルの母が倒れたと知らされた時だけは別だったが……それを除けば、ほとんど彫像のような男だった。


 そんな王が今、口を開けて目を見開いて、汗まで流していた。

 それほどまでに報告は衝撃的だったのだ。


「……もう一度、報告を頼む」


 王は努めて冷静を装い、騎士へ告げる。


 王自身も戦場に出ていたが、しかし、最後方だ。

 最後の最後の砦。

 戦で散る覚悟はしていたが、だからといって、いきなり最前線に突撃するほど愚かではない。


 が。


 その最前線に飛び込んだ王女がいた。

 アリエルだ。


 慌てた騎士が飛び込んできて、ドラゴンが討伐されたと言う。

 しかも、その討伐者は勇者でも剣聖でもない。

 自分の娘、第三王女アリエルだった。


 嘘としか思えない。

 冗談にしては悪質すぎる。

 だが、この場でそのような虚言を吐く者がいるとも思えない。


「はっ! アリエル様が見事、ドラゴンを討伐いたしました!」

「……それは真か?」


 二度目を問う。


 騎士が嘘をついているとは思わない。

 だが、どうしても信じきれない。

 幼女がドラゴンを討つなど前代未聞にも程がある。


「はっ……信じがたいのは当然かと存じます。ですが、誓って真実です」

「……そう、なのか」


 騎士自身もまだ半ば夢を見ているような顔をしていた。

 それが逆に事実なのだと証明していた。


「そうか……国は救われたのか……」


 最初に王が覚えたのは、まずは安堵だった。


 ドラゴンの炎で国が焼かれることはない。

 民は逃げ惑わずに済む。

 王都も、辺境も、まだ残る。


 緊張が一気にほどけ、王は深く野営の陣地に設置された椅子へ背を預けた。


 長い吐息。

 それから空を仰ぐ。


「子供らしからぬ子供とは思っていたが……」


 ぽつりと漏らす。


「まさか、ここまでとはな」


 アリエルは第三王女。

 王位継承権は低く、さらに、上には優秀な兄と姉がいる。

 よほどのことがない限り、アリエルが次代の王となることはあるまい。


 ゆえに、王族の義務で縛りつけるのはやめようと思っていた。

 王族ではあっても、できる限り自由に生きてもらおう。

 やりたいことがあるなら、それを尊重しよう。


 だからこそ、剣を学ぶことも許可したのだ。

 それが、亡きミリアムとの約束でもあったから。


 だが……


「ミリアムよ……どうやらアリエルは、我々の予想を遥かに超える方向へ育っているようだぞ」


 苦笑とも嘆息ともつかぬ息が漏れた。


「このままでは……いや」


 首を振る。


「今は、その先を考えずともよいか。まずは……わんぱくな娘に感謝を捧げよう」




――――――――――




 一方、その頃。

 街の酒場でも大騒ぎが起きていた。


「はぁっ!? アリエル様がドラゴンを討伐したぁ!?」


 冒険者達が一斉に叫ぶ。


 彼らに故郷と呼べるものはない。

 問題が起きれば国を離れ、新しい土地へ向かう。

 そうしてまた別の居場所を探す。


 渡り鳥のような生き方だ。


 だが、フィーゼルマインは違う。

 街の人々は優しく、国の制度もしっかりしていて、腕さえあればそれなりの待遇と居場所を与えてくれる。


 故に、多くの冒険者達はこの国を気に入っていた。

 笑って酒を飲み、働き、日々を過ごせる場所として。

 新しい故郷のように思っていた。


 だからこそ。


 ドラゴンが現れたと聞いた時、彼らは逃げるだけでは済ませられなかった。

 命を投げ出してでも、一矢報いてやろうと決めていた。


 そのための準備を進めていたのだが……

 しかし、ドラゴンはわずか八歳の王女が討伐したという。

 進路を逸らすではなくて、追い払うでもなくて……討伐だ。


「いやいやいや、ありえないだろ」

「でも、目撃者が多すぎる」

「騎士達も、口を揃えて王女様を讃えているぞ」

「プロパガンダ……とか?」

「今まで特に前へ出てなかった第三王女を、今さら担ぎ上げる意味あるか?」

「……ないな」

「じゃあ、本当ってことか?」

「ドラゴンを討つとか、誰も成し遂げたことのない偉業だぞ?」

「しかも八歳だろ?」

「王族、ちょっとおかしくないか?」

「「「おかしいかもしれないな……」」」


 皆が唸り、そしてやがて、同じ結論へ辿り着く。


 信じがたい。

 だが、本当なのだろう。


 ならば讃えるしかない。

 誰かが杯を持ち上げた。


「アリエル王女に乾杯だ!」

「「「アリエル王女にかんぱーーーい!!!」」」


 第三王女が国を救った。


 その事実は、酒場から街へ。

 街から村へ。

 そしてやがて国中へ広がっていく。


 まだこの時、誰も知らない。


 この勝利が、ただ一度の奇跡では終わらず。

 やがてフィーゼルマインの在り方そのものを変えていく、その第一歩になることを。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ