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月日王帝物語~Requiem for the Empire~  作者: 花縫ゆりは
第一章 鳥籠の蝶は夢を見るか
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第一章 Ⅵ

今回も読んでくださり、ありがとうございます!

ルナイトの王宮に足を踏み入れたアイザックですが、そこで目の当たりにするのは、隣にいるはずのノクターンの「全く違う顔」。

彼女が背負うものがどれほど重いのか、アイザックの心と共に感じていただけると嬉しいです。

今回は前回に比べかなり字数が多くなっておりますが、折れずに最後まで読んでくださると幸いです。

それでは、本編へどうぞ!

王宮内に足を踏み入れる。

息苦しいとアイザックが感じたこの王宮は彼の故郷サンスーンの解放的な王城と違い、冷たい空気のする王宮だったから。


「どうかなさりました?」


「いえ、なんでもありません。ただ、実家とはかなり違うものですから。」


「そうかもしれませんわ。ですがここはここで良いところですのよ」


優しげな微笑みを浮かべながらそう答えるノクターン。セリフはよくあるありがちセリフとも捉えられるものだったが、アイザックにはその言葉が暖かく感じた。


ここにきて以来、すれ違う騎士たちから品定めをするような目で見られていたアイザックは、その温かい言葉で冷え切っていた体の芯が温まるように感じだ。


「そうですね。ところで次はどこへ?」


「少し散歩をしましょう!目的地は決めずに歩くのがいいかな?と思っておりますの」


「いいと思います」


「ではこのまま進みましょうか」


「この先はどこへ?」


「お兄様、月光の宰相の執務室ですわ」


「宰相、ですか」


「ええ」


「お兄様が宰相を務めていらっしゃるんですか?」


「我が国では代々王族の男が務めることになっておりますの」


そう言って進んでいくノクターンを目で追いながら、アイザックは昼間少し話した宰相の顔を思い出した。

思い出してみれば、彼女と同じ碧色の髪をしていたような気がしなくもないが。

あやふやになってしまった記憶をアイザックは上手く思い出すことができなかった。


続く廊下を歩いているとノクターンが立ち止まった。


ここが宰相の部屋か、そう思ったアイザックはノクターンに向かって声をかけた。


「あの、ここが宰相様のお部屋ですか?」


そう問いかけると我に返ったように口を開く。


「あっ、いえ、ここは違います。この一つ奥の部屋で」


慌てたように口にするノクターン。

なぜそこまで慌てる必要があるのか、と気になったアイザックはノクターンに向かって問いかけた。


「あの、ではここはなんの部屋なのですか?」


「ここですか?あー、はい、ここは」


「物置!そう普通の物置ですわ!」


言葉に詰まった後にそう口にする。あまりに白々しい態度にもはや指摘しようともアイザックは思えなかった。

ただ、隠し事をされたという事実が縮まったと思っていた距離を遠ざけていったような気がした。

政略結婚という、乗り気ではなかったものだったけれど、相手と仲良くはなれたんじゃないか。そう思っていた自負が一気に崩れていったような気がした。


「そうですか、では宰相様のお部屋へいきましょうか」


「ええ、そうですわね」


先ほどの心地いい沈黙はない。

どこか気まずさの残る空気感に口を開くことさえできなかった。

次に見えてきた扉の前で再びノクターンが立ち止まる。

ここが、宰相様の部屋か。


ノクターンが扉をノックした。


「お兄様、お時間少々宜しいでしょうか?」


「ああ、ノクターンか。ちょうどいいところに来た。意見をもらいたくてな」


中から出てきた男は、アイザックと同じ金色の髪をしていた。

瞳の色も同じ深い青色。

アイザックの幼さの残る顔立ちとは違い、精悍な男性はアイザックに目を止め口を開いた。


「ああ、アイザック殿下もご一緒でしたか。自己紹介が遅れてしまい申し訳ありません。」


「ルナイト帝国月光の宰相、アストル・セレニと申します」


「あ、ああこちらこそ、自己紹介が遅れてしまいました。サンスーン王国第二皇子アイザック・ソールです」


「存じ上げております。」


話をしながらも、アイザックはアストルの容姿に目を奪われていた。

なんとなく、他とは違うと感じていた自分の容姿。母国では王族の象徴であったこの容姿がこの国では異物の対象な気がしていたから。

宰相ともあろうお方が自分に似た容姿をしているとは思わなかった。


「ああ、この髪と瞳、気になりますか?」


「すみません、ジロジロ見てしまって。失礼でしたよね?」


「いいえ、気にしてませんよ。もう慣れましたから」


「あの、なんで」


「私は父似なんですよ。父もサンスーンの人ですからね。」


「ああ、そうですね」


「うちも、妹は碧色の髪をしています。すっかり頭から抜けてました」


「そうですか。」


それだけいうと微かに笑みを浮かべ、執務室の戸を開ける。


「どうぞ、中でお寛ぎください」


「ありがとうございます」


そう言ってアイザックは執務室に置いてある椅子に腰掛ける。

特にすることもなく、2人のやりとりを眺めていた。


「お兄様、ところで相談というのは?」


「ああ、国防の話なんだがな。エクリプス王朝との戦いの経験があるお前から意見が欲しくてな」


「今は確か、ロザリアに重きを置いていますよね」


「ああ、そうだ。前回の激戦区だからな。何よりあそこは王朝との境界線が曖昧だからこそエクリプスが攻めてきやすい」


「私としては、ロザリアはもちろんなんですが、朔望の岬に兵士を何人か置くのはどうでしょうか?」


「朔望の岬にか?あそこは確かにエクリプスとも近いが断崖絶壁で海から来たとして登れる高さではないぞ」


「だからこそです。前回ロザリアでたくさんの兵が死にました。エクリプスは海上戦に強い国です。今度はそちらから攻めてくると考える方が良いでしょう。」


「岬から下を監視するのか」


「ええ、おそらくエクリプスは岬の前を通り船の姿を隠しながらヴォルテクス港に向かってくるかと」


「そのルートは考えなかった。なるほどな。いい意見だ」


アイザック全くもってついていけない話だった。

戦経験のないアイザックは学園での軍略の授業をほとんどサボっていたのだ。

そのため、話を理解するのがやっと。そもそもルナイトの地形をあまり知らないためそこがどんな場所なのか見当もつかなかった。

でもそれよりも、アストルさんと話す時の瞳の温度が自分と話す時とはまるで違ったから。

その時のノクターンの顔がアイザックには『国王の顔』に見えた。


「ああ、アイザックさん。つまらない話をお聞かせしてしまって申し訳ありませんわ」


「いえ、ノクターンはこのようなことも得意なのですか?」


「まぁ人並みに。王位を継ぐ身ですもの勉強は幼い頃からしております」


その言葉に愕然とした。

今までなんとなくで生きてきた自分とは、ノクターンがかけ離れた場所にいるように感じてしまった。

アイザックは少し俯くと無理やり顔を上げて笑顔を作った。


「そろそろ帰りましょうか」


「ええ、そうですわね」

今回もお付き合いいただき、ありがとうございました!

宰相アストルの登場と、ノクターンが持つ「ルナイト帝国の皇女」としての側面が、少しでも伝わったなら嬉しいです。

そして…!

実は前日、人生初の感想、ブックマーク、そして満点評価までいただきました! 本当にありがとうございます!皆様の応援が、私の最大の執筆の力になっています!

今後、アイザックがこの壁をどう乗り越えるのか、お見守りください!

良かったら、引き続きブックマークや評価での応援をいただけると嬉しいです!

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