第一章 Ⅴ
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今話は前話に引き続きアイザック視点で進行していきます。
楽しんで呼んでいってください。
庭園に向かって歩く道のりはひどく静かだった。
日の暮れかかった深い空と艶やかな紅の薔薇が不気味に見える。
「どこまで行くのですか?」
「もうすぐつきあたりです。そこまで行ったら終わりますわ」
そう言って楽しそうに歩いて行く。案内されるってこんなもんだっけ?そんな疑問を頭に浮かべながらもアイザックは目の前の女性に手を引かれ、歩いて行く。
突き当たりには礼拝堂があった。
「ここがわたくしのお気に入りの場所ですの」
彼の目に映った礼拝堂は故郷の礼拝堂とは明らかに違うものだった。
壁面には、月光を吸い込むような暗青色の石材が用いられ、隙間なく組み上げられていた。きっと故郷の太陽の下では、青色だってことに気づかず黒い大理石の礼拝堂だとでも思っただろう。
その尖端に飾られていたのは、故郷サンスーンで見慣れた十字架ではなかった。
十字架があるはずのその場所には冷たく磨かれた金属の欠けた三日月だった。
月の魔女の堕ちてきた日を思い出させる、三日月だった。
「綺麗でしょう?」
そう言って微笑むノクターンになんといえばいいのか、アイザックはわからなかった。
「ええ、そうですね」
そうとしか答えることができなかった。
微かに聞こえた蝶番の擦れる音共にノクターンが扉を開いた。
燦然と輝く明るい満月から降り注ぐ光がステンドグラスを通じて礼拝堂の中に落ちてきた。
その光は、ステンドグラスに描かれた夜空によって薄い青色に染まっていた。
それは、普段のアイザックにとっては味気ないと感じるものだった。
だが、今はそれが美しく見えた。
「綺麗…ですね」
「そうでしょう?だからここが好きなのですわ」
「なんとなくわかるような気がします。綺麗という言葉以外浮かばないのにそれですら適切ではないような気がします」
「俺の故郷の礼拝堂はもっと明るかったけれど綺麗だとは感じなかったです」
アイザックは初日に兄との約束を破ったことにも気づかなかった。
「そうですわね。ですが私は以前サンスーンの礼拝堂を見たときに素敵だと感じましたわ」
「素敵ですか?我が国の礼拝堂は」
「ええ、明るい黄色の混じった白色で我が国にはない色でしたから。新鮮でしたわ」
「まぁ、そりゃそうでしょうね」
そこまで話して2人でふきだした。
本当に活発な人だ。こんなふうに明るく笑うお姫様を見たことがない。
この人は変わった人だ。
そうアイザックは考えた。そして、それを好ましいと感じた。
「それではそろそろ戻りましょうか」
彼は元の道を歩き出す姫に目を向けた。
「あの」
アイザックがそう声をかけてしまったのは何故だろうか。
「どうかなさいましたか?」
「いえ、なんでもないです」
「ただ、明るくて驚きました」
「そうですか?あまりそれは言われませんわ」
「それよりも私はアイザックさんの一人称が俺なことに驚きましたけれど」
「えっ!?俺って言ってましたか?」
全くもって気づいていなかったアイザックはそう声を上げ、あたりは再び笑い声に包まれた。
「ほら行きましょう?次は王宮内を案内いたしますわ」
その声に導かれてアイザックは足を進めた。
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