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クォヴァディス ―滅びの剣と竜姫の誓い―  作者: フォンダンショコラ
第1部 序章 竜の姫と滅びの剣

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挿入歌 陰謀 かくありき

「どういうことだ!!」


 暗い部屋に怒号とともに机を乱暴に叩く音が響く。

 帝国の一室、黒衣のローブに身をまとった者たちが再び集まっていた。

 漂う雰囲気は気まずさと懊悩。皆一様に自身に責任が及ばないようにと口をつぐんでいる。

 ただ一人、怒号を発している男だけが椅子から立ち上がり、だんまりを決め込んでいる者たちを睥睨していた。


「失敗など、万に一つもなかったはずだ!!なぜだ!」


 質問に答えるものなどいない。

 滅剣の暴走は不発に終わり、竜族を一網打尽にする機会は失われたのだ。

 唯一、忍び込ませていた間者は自殺でき情報が漏れることはないだろうが、敗戦した当時から立てられた起死回生の策略は結果だけ見れば、ただ滅剣を竜族の管理化に渡しただけの結果に終わった。


 ゴホンと怒気をあらわにしている男の右側に座っている痩せぎすの男が咳払いをした。

 全員の視線がその男に集まると、もう一度咳払いをして居住まいを正すと落ち着き払った声で話しだした。


「滅剣の暴走が沈静化されたのは予定外でしたが、まだやりようはいくらでもあります」


 自信をもって述べる痩せぎすの男に、怒号を発した男の怒気が収まっていく。怒号の男は「ほぅ、それはどんなものかね?」と興味深そうに男に話を促す。

 必殺の策を防がれたのだ。相手は警戒し、これからの暗殺は更に難易度があがるだろう。竜どもの警備体制は強固だ。数十年単位で仕込んでもいまだに城の表層部分にしか浸透できていない。それをこいつはどうするというのだろうか。


「まず、幸い暴走を誘発させたモノは隙をみて自害しましたので、我々が決定的な主犯であると奴らには知られてはいません。計画は常に二重三重に練るものです」


 言葉を切る。周囲が自分の話に耳を傾けていることを確認すると、痩せぎすの男は続ける。本当に言いたいことはこちらだ。


「密偵からの調査によりますと、滅剣と皇女は騎士の誓約を交わしたようです」

 騎士の誓約という言葉が放たれた瞬間、その場にいた全員が動揺した声を漏らした。その場にいる者は口々に「最後に確認されたのはいつだ?」「滅剣の継承はどうなる?」「いや、あれは・・」「計画が」「たらしい竜騎士が?」「北の魔女が動くぞ」など呟いている。

 にわかにどよめく室内の声を収めたのは怒号を発した男だった。


「静まれ」

 その一言でざわめきは水を打ったような静けさに戻る。怒号を発した男は、痩せぎすの男に目配せをし、続けるように促す。痩せぎすの男はコクリと頷く。


「竜の皇女との契約はすなわち、ドラグーンの誕生。しかし、考えてみてください。ドラグーンといえば竜どもの象徴たる騎士。それがあのような武力も教養もないみすぼらしい小童だとすれば、どうなりますか?」


 痩せぎすの男が言葉を切って反応を伺う。周囲のものは「そうか、公にできない」「やつを城で匿うか」「獅子身中の虫を抱えたわけか」「公表せず飼い殺しにするのか?」「城にいるなら手出しはできんだろう」「阿呆が、ドラグーンは一世一代よ」「つまりはやつに教育をするか」「騎士の学校があったはずだ」「あそこなら警護はゆるい」


 それぞれが話す言葉を聞き、彼らの議論に余地を残す。まだ希望はあると彼らに納得させるためだ。この場は痩せぎすの男の思惑通りに転がっている。

 彼らの雑談が一通り落ち着いた頃合いを見計らって痩せぎすの男は、パンと手を鳴らした。


「城に匿われた?結構。ただの人間の寿命などたかが知れています。どんなに長生きしたところでたかが百年程度。我らが主上からすればほんの瞬きの出来事に過ぎません。ドラグーンとして外にだされるなら、畢竟、我らが暴走させるチャンスがそれだけ生まれるということです。ドラグーンとは皇族の側仕え。これまでより暗殺は容易くなります」


 痩せぎすの男がそう言い切ると、周囲も賛同するように「そうだ」「ああ、我ら定命の感覚で考えてはいかぬ」「主上の御心こそすべて」と口々に言葉を発する。

 次々に賛同していく様子に、手を振りながら芝居がかった様子で痩せぎすの男は満足げに頷く。そして怒号の男に一礼し、その場を譲った。

 怒号の男は立ち上がり、一同を睥睨すると手を突き出し宣言する。


「いかなる可能性も不可逆に主上の下へ収束するであろう。これもまた我らの試練。さあ、皆のもの。次の策を弄する時間よ」


 その言葉を皮切りに滅剣の継承者と、竜族を排除する議論は進むこととなる。

 いまだ終わりは見えない。


今回は陰謀会。帝国はまだ諦めていませんからね

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